裏メニュー 10品目
暖かい布団に包まれるなか、淹れたてのコーヒーの香りがする。
コーヒーメーカーの音だろうか。定期的にポタポタと水滴が落ちる音が聞こえている。
私はやっと重いまぶたを少し開いた。
「おはよう、穂積くん」
すでにキッチンに立ち朝食の準備をしている穂積くんがいた。私は彼の隣に立ちたくて体を起こす。
「おはようございます。体、大丈夫ですか?」
「うん、おかげさまで。もう朝ごはん? 何か手伝うことある?」
そう言って、私は穂積くんと目を合わせる。
「じゃあ、一緒に朝ごはん作りましょう。」
「そうね。」
ふたりで顔を見合わせ笑顔になる。
私は卵を2つフライパンに割って目玉焼きを作り始めた。穂積くんはトースターにパンを入れている。
こうして料理をしながらふたりでキッチンに立つのは初めてだった。
「私、穂積くんと一緒にいるとすごく安心する。」
大切な彼をジッと見つめて私の気持ちを伝える。
「オレも田部さんといると心が温かくなります。」
穂積くんも目を見て返してくれる。そして、私の手を取る。
「田部さん。これからも田部さんの食事、オレに任せてください。」
穂積くんの言葉にいろんな想いが体の中を駆け巡っていく。そのせいで頭の中が真っ白になる。
「田部さんのことを、これからもずっと支えたいんです。田部さんの美味しそうに食べる姿が好きなんです。だから、作らせてください。」
真っすぐに私に向けられる好意。熱の籠もった言葉に涙が滲んでくる。そしてやっと一言しぼりだした。
「……穂積くん、ありがとう。うん、お願い!」
そう返事をしてお互い抱き締めて優しくキスをした。唇が離れたあと、私は穂積くんが言ったある約束を1つ思い出した。
「あと私、穂積くんが言った約束待ってるんだけど?」
「約束ですか?」
少し悪戯っぽく聞いて穂積くんを困らせてみた。
「ほら、結婚の申し込みは穂積くんが言うって自分で言ったじゃん。」
「え? そんなのいつ言いましたっけ? え?」
急に結婚の話を持ち出したせいか慌てた様子で目をクリクリさせててカワイイ。ここはさらに突っ込んでみよう。
「あれー? 忘れちゃったの? 穂積くん、私が寝ちゃったから家までおぶって帰ってくれた日だよ。」
「あっ! あ、あれ…酔って忘れちゃったんじゃ…?」
「あんな嬉しい事、言われて忘れないよ。さあ、ほら! 今がチャンスじゃん!」
私は穂積くんからのプロポーズを受け入れられるよう両手を広げて待っている。
さあ、来い! あの時の続きを聞かせてほしい。
そう思っていると、穂積くんはトーストと目玉焼きを持ってリビングへ移動してしまった。
こちらの様子はチラリとも見てこない。
「え? え? え? どうして? プロポーズは? それにご飯は一緒に食べようよ!」
私は慌てて横に座り、腕にもたれ掛かる。
「ねえ、ねえ、穂積くん! 機嫌直してよー」
そこには優しい笑顔をした彼がいた。そして、ふたりの笑い声が重なるのだった。
「大好きだよ。穂積くん。」




