1品目 フライドポテト
「ただいまー! 今日もお疲れ様だよ! 穂積くん!」
ガチャッと勢いよく玄関のドアが開き、太陽のような笑顔で女性が部屋に入ってくる。
彼女は田部瑠笑さん。会社の先輩だ。
彼女は、オレ米田穂積が、入社してからずっと仕事でお世話になりっぱなしの先輩社員だ。いつかそのお礼にと彼女に手料理を振る舞った事があった。
ありがたい事にその料理を気に入ってくれたのは良かったのだが、それ以降、オレの家は彼女に“美味しいものが食べられるスポット”認定されてしまった。
「先輩、今日も会社からそのままウチに来たんですか? 先輩の家すぐそこなんですから自分の家に帰ってくださいよ。」
文句を言っても無駄だとは分かっているが、つい口に出てしまう。
「いいじゃん、いいじゃん。今日はビール買ってきたし一緒に飲もうよ♪ もちろんキミの手料理をツマミにね♫」
「今日はあんまり食材のストックなくて、フライドポテトとかなら出来ますけど……」
「いいね! ビールにフライドポテト! 大好きだよ。」
オレの言葉を聞き終わる前に田部さんは目を輝かせて答えてくる。
「じゃあ、すぐに作りますので10分ぐらい待っててください。」
「はーい!」
園児のように明るく元気に答えて洗面台に向かって行く。楽しみだなぁと鼻歌交じりに言いながら手を洗っている。
手を洗う姿を見ながら小さくため息をつく。それでもオレの顔には笑みが浮かんでくる。
いつもあの無邪気さに押し切られている感じもするが、惚れた弱みというところである。
オレは冷蔵庫横に引っ掛けてあるエプロンを手にし、さっそく料理に取りかかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
まず冷凍庫からカットされたポテトを取り出す。細くカットされたシューストリングというタイプだ。
ポテトを揚げるには大量の油が必要だが、大量の揚げ油は一人暮らしの自分には少し手に余る。今回は「揚げ焼き」にしてみる。
ポテトを調理するため、早速フライパンをコンロにのせる。直径22センチのフライパンだ。
火を点ける前に大さじ1か1.5くらいのサラダ油をフライパンに注ぐ。
注ぎ終わったらコンロに火を点け、火力は中火くらいに調整する。火が点いたら先程の冷凍ポテトをフライパンに入れていく。2人分として200g入れた。
ポテト同士が重ならないよう、フライパンにまんべんなく広げる。一旦広げたら少し焼目がつくまでそのまま触らない。
油に熱が伝わり、パチパチと焼ける音がしてくる。次第にポテトの色が徐々に白から薄茶色に色付いてくる。
焼けて美味しそうな香りも勢いまして広がってくる。
「わぁーいい香り! 早く食べたい。」
洗面台から戻ってきた田部さんが、目を輝かせながらキッチンを覗き込んでいる。その無邪気な様子に、俺の顔は自然と緩む。
フライパンに接している面に焼き色がついたら、ポテトを崩さないようにフライ返しで丁寧にひっくり返す。この時、ポテト全体に油が絡むようにするのがポイントだ。焦げ付かないよう、時折フライパンを揺らしながら全体がきつね色になるまで焼いていく。
全体がこんがり焼き揚がったらキッチンペーパーを敷いた皿の上にあげ余分な油を落とす。
熱いうちに塩を適量ふりかけ味を調える。仕上げに乾燥パセリをかけてたら完成だ。
出来たてのポテトと、小皿に盛り付けたケチャップとマヨネーズを一緒にテーブルに向かう。
「さあ、出来ましたよ。お待たせしました。」
「待ってましたー! ささ、乾杯しよ!」
田部さんは買ってきたビールを冷蔵庫から取り出しオレに手渡してくれた。
プシュっと音をさせプルタブを立てる。熱い体に冷たいビールが入ってくる期待が高まる。2人が缶を持ち目線を合わせる。
「「かんぱーい!」」
ビールをグビッと一口飲み、ふーっと一息つく。喉を通る冷たいビールが、1日の疲れを流してくれるようで気持ちいい。
「ポテトも熱いうちにどうぞ。」
オレは田部さんに目の前の山盛りになったポテトを勧める。
「じゃあ、これ!」
田部さんは1本ポテトを迷うことなくつまみ上げ、その先端をケチャップにつけた。
「はい。あーんだよ、穂積くん!」
てっきり自分で食べるものだと思っていたが、田部さんは予想に反してこちらにポテトを差し出してきた。
「ほら、どうぞ。あーん。」
満面の笑みで差し出すポテトに恥ずかしさと嬉しさで心臓が跳ね上がる。気づかれないようにポテトを咥え込んだ。
続いて田部さんも美味しそうに笑顔でポテトを食べている。
「穂積くんもう顔赤いじゃん。お酒まわっちゃった?」
「い、一気に飲んだせいですかね。」
そう答えるのが精一杯だった。この思いが顔に出ないようにビールを流し込んだ。
本日の材料
・冷凍ポテト:200g
・サラダ油:大さじ1〜1.5
・塩:適量
・乾燥パセリ:数振り
アレンジとして、パセリのかわりに青のりでのり塩にしたり、カレー粉かけてカレーポテトも良いかもしれませんね




