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「ねー、穂積くーん。」
今日も穂積くんの家に押しかけ家呑みをしている。いつもとは違い日本酒を呑んでいる。
仕事が少し落ち着いたので自分なりの慰労のつもりだったのだが、少し酔ったかもしれない。
「聞いてよー。今日、会社で、山田さんから……」
穂積くんと話がしたくて会社の話題を振る。穂積くんも知る先輩社員の話を始めた。
「山田さん、本当にカッコよくてさ。仕事もできるし、いつも優しくて…… 穂積くんとはタイプが全然違うけど。けっこう良いかもって……」
「はは、そうですね。」
『あぁ、違う。違うんです。そんな話がしたかった訳じゃないんです。』
穂積くんの対応に困った顔を見て話題を変える。
「でもさ、穂積くんいいよね。いつも美味しいご飯作ってくれるし、優しいし。料理できる男の人って、いいよねー」
「それはどうも。」
「ね、穂積くん。私、穂積くんの手料理が世界で一番好きだよ。」
なんか間違った気がした。気持ちに嘘はもちろん無いがタイミングは絶対違う。だが、もう言ってしまったら仕方ない。
「その言葉、すごく嬉しいです。けど、酔ってますよ、田部さん。」
「酔ってないもん! ホントだもん!」
酔って言ったのだと勘違いされたと思いムキになって反論してしまった。
「穂積くん。もしも穂積くんが良ければさ、絶対穂積くんと付き合いたい! てか、結婚してほしい!」
こうなれば今の私の気持ちを知ってもらおうと思い、打ち明けた。
「空きっ腹で呑んで酔っちゃいましたね。何かお腹に溜まるもの作りますね。ちょっと待っててください。」
穂積くんは立ち上がりエプロンを着ける。
「おいてかないでよー 結婚しようよー」
「はいはい、結婚します。しますよー でも、そういうのは酔ってない時にオレから言います。」
そう言ってキッチンに行ってしまった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『やっちまったーー! 私はなぜこのタイミングでこんな事を言ってしまったのか。こんなん絶対酔っ払いのウザ絡みじゃん!』
たしかに普段より呑んではいる。それにしたって会話が下手すぎる。絶対まともに受け取ってもらえてない。
ここからどうすれば今夜のうちに挽回できるだろうか? どう持っていけば本気だと思ってくれるだろうか?
何か作ってくれると言っていた。彼のことだから10分ぐらいで作って持ってきてくれるだろう。
その間にしっかり考えてこの状況から取り返さなくては……
……
しっかり…… しなく…ては… ……
「出来ましたよ。田部さん。」
遠くで穂積くんの声が聞こえる気がする。ソファの柔らかいクッションが顔に当たっている感触だけがある。
気づけば私は穂積くんの背にいた。彼の暖かさが体全体で感じられた。
寝たね?




