裏メニュー 3品目
「田部さん、今夜はラーメンです。」
今夜の献立を穂積くんが教えてくれる。
「っ! いいね、ラーメン! でも、穂積くんから言い出すなんて珍しいね。」
ラーメン好きなので自然と笑みが溢れた。でも、彼が先にメニューを伝えて来るのは珍しく思っていた。
「たまたま帰り道でラーメン屋さんが目についたので持ち帰り用のラーメンセット買ってきました。」
「あっ!これ駅前のラーメン屋さんじゃん。ここのラーメン好きなんだよね。」
「知ってますよ。オレも好きです。」
ここのラーメン店には思い出があった。
穂積くんが入社したてからちょっと経ったころ、仕事のミスからかひどく落ち込んでる様子の時があった。
先輩として元気づけてあげられたらと思い、私の一推しのラーメン屋に連れてきてあげた。
たしか、「気持ちが落ち込んだら一緒に美味しいもの食べに行こう」なんて事を言ったと思う。
そのあと穂積くんも元気になってくれて、先輩らしいところが見せられた気がした。
思い出のあるラーメン屋が同じように好きだったなんて、ちょっと嬉しい。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
買ってきたラーメンセットを袋から取り出している。
大きな鍋にたっぷりの水を張り、火にかけている。麺は家で茹でるようだ。
麺の準備の他、食器を温めたりその他の具材の用意やスープの温めを一つ一つ丁寧に進めている。
茹で上がった麺をスープの中にゆっくりと盛り付け、具材もお店さながらの配置でのせていく。
あっという間に2人分のラーメンが完成した。調理台の上にはホカホカの丼が並んでいる。
「田部さん、出来ましたよ。」
湯気の立ち上る丼を運び、いつもの通り横並びでテーブルにつく。別添えで刻み玉ねぎとおろしニンニクも用意してくれている。
自分好みに調整できるようにしてくれるのもすごく嬉しい。
「「いただきます!」」
顔を見合わせ、2人同時のタイミングで手を合わせて食べ始める。
この2人同時に食べ始める瞬間が好きだ。
一口スープをすくって口に含む。私の好きなスープだ。すかさず、麺をつかみ上げ、フーフーと温度を調整してから食べる。
少し太麺のもっちりした麺。こってり目のスープが絡んでいるが、それにも負けないしっかりとした味だ。茹で加減もちょうど良い。
スープが染み込んだ海苔と一緒に食べるのも美味しい。
「お店で食べるより美味しいよ! このラーメン好き!」
穂積くんが作ってくれたラーメンをすするたび、美味しさで自然と笑顔になる。
「オレ、ずっと好きですよ。」
『……え!? 今なんて? 急に何?』
穂積くんから溢れた言葉は、彼自身も意識していない一言に聞こえた。
「もちろん! “ラーメン”がですよ。」
『そそそ、そうだよねー ラーメンの事だよね。早とちりするとこだった。』
熱いラーメンを食べて少し脈が早くなった。
『私が好きなのは……』
今にも言葉になりそうな想いと一緒にスープを飲んだ。




