裏メニュー 1品目
手にはビール、服の乱れはない、メイクも直した。
いつもの私だ。さあ、行こう。
「ただいまー! 今日もお疲れ様だよ! 穂積くん!」
ありったけの笑顔でドアを開け、穂積くんの家にお邪魔する。
米田穂積くん。入社2年目、仕事も1人で回せるようになってきた我が社の期待の新人だ。
今日も1日の仕事が終わり夕飯時、私はビールを片手に彼の家を訪れていた。
「先輩、今日も会社からそのままウチに来たんですか? 先輩の家すぐそこなんですから自分の家に帰ってくださいよ。」
自分の家と穂積くんの家が近くだと知り、夕飯を一緒に食べさせてもらいたくて彼の好意に甘えて押しかけているのだ。
作ってもらう代りに、食材や飲み物は差し入れている。
「いいじゃん、いいじゃん。今日はビール買ってきたし一緒に飲もうよ♪ もちろんキミの手料理をツマミにね♫」
「今日はあんまり食材のストックなくて、フライドポテトとかなら出来ますけど……」
「いいね! ビールにフライドポテト! 大好きだよ。」
その日ある食材を使って料理をしてくれる。
彼の作る料理はどれも美味しい。どれも食べる相手の事を想って作っているのが感じられる。
「じゃあ、すぐに作りますので10分ぐらい待っててください。」
「はーい!」
努めて明るく振る舞ってはいるが、内心は心臓が早鐘のように脈打つのが分かる。
今も普通に笑えていただろうか?
気持ちが表情に出ていなかっただろうか?
洗面台にある鏡をチェックしながら手を洗う。鏡の中にはいつも通りの私がいた……と思う。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
彼がキッチンで調理している後ろ姿を見ている。会社にいるときとは違って、部屋着の上にエプロンをしっかり着けてコンロの前に立っている。
スッと背筋もしっかり伸びた立ち姿。慣れた手つきで手早く料理している。
言っていた通り10分ぐらいでフライドポテトが出来上がった。
揚がったポテトの香りが部屋中に広がる。
「わぁーいい香り! 早く食べたい。」
パチパチと揚げる音も聞こえ、いい香りもしていたので、お腹が今にでもグーっとなってしまいそうだ。
穂積くんは揚げたてのポテトに、ディップ用のマヨネーズとケチャップを盛り付けた皿を持ってきてくれた。
「さあ、出来ましたよ。お待たせしました。」
「待ってましたー! ささ、乾杯しよ!」
冷蔵庫で冷やしていた缶ビールをそれぞれ持つ。プルタブを立ててプシュッといい音をさせる。
「「かんぱーい!」」
ふたり同時にビールをグイッと飲む。喉を通る冷たいビールが気持ちいい。穂積くんもビールを飲んでふぅっと一息ついている。
ふたりで笑顔になる。
「ポテトも熱いうちにどうぞ。」
穂積くんは目の前の山盛りになったポテトをまずは私に勧めてくれる。
「じゃあ、これ!」
私はその中の一番カリッとしてて美味しそうな1本を取り、ケチャップをディップする。
「はい。あーんだよ、穂積くん!」
てっきり自分で食べるものだと思っていたのか、穂積くんはびっくりした様子でこちらを見ている。
「ほら、どうぞ。あーん。」
意を決したように、あーんと口を開け差し出されたポテトを咥えてくれた。
私も続いてポテトを食べる。高まった鼓動が聞こえないように声を出す。
「穂積くんもう顔赤いじゃん。お酒まわっちゃった?」
「い、一気に飲んだせいですかね。」
彼はビールを飲みながら少し視線を外す。私の顔の赤さもバレてないと良いな。




