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お料理始めました 〜家に押しかけるカノジョの食欲を満たす話〜  作者: 天使 かえで
カノジョの食欲を満たす表メニュー

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10/27

9品目 うさみみリンゴ

『穂積くん、おはよう。昨日はごめんね。』


 ピコンとなったスマホには1通のメッセージ。田部さんからのものだった。


 すでに朝になっていて、カーテンの隙間から眩しい光が差し込んでいる。待ってる間にソファで寝てしまったらしい。

 田部さんからのメッセージでオレは一気に目が覚めた。昨夜来られなかったこと、そして連絡がなかったことへの不安が押し寄せてくる。


 メッセージには続きがあった。


『帰り道で、ちょっとした交通事故に遭っちゃって……』


 幸いにも軽傷ですぐに警察と救急車が来てくれたという。応急処置や検査で一晩病院にいたため、連絡できなかったとのことだった。


 スマホを持つ手が震える。


 いつものように明るい笑顔で部屋に入ってくる、それが当たり前だと思っていた。もしも大怪我をしていたら、もっとひどいことになっていたら、そう考えると怖くてたまらなかった。


『今、病院から帰る手続きするところ。大丈夫だよ。心配しないで。』


 そう書かれていても、心配でいてもたってもいられなかった。すぐに田部さんに電話をかけ無事を確認した。


「穂積くん、わざわざありがとう。大丈夫だよ、本当に。」


 電話越しの少し弱々しい声にいつもの元気は無く、俺は胸を締め付けられた。


「……何か、食べましたか?」

「んー、今はちょっと、食欲なくてまだだよ。」

「そうですか。まずは迎えに行きますので待っててください。」


 俺は急いで身支度を整え、家を飛び出した。

 病院に到着すると、少し顔色の悪い田部さんが、フラフラと歩いて正面玄関を出てきたところだ。


「穂積くん……」

「無理しなくていいです。ゆっくり行きましょう。」


 田部さんの手を握り、静かにとタクシーに乗る。そのままオレの部屋に戻る。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 食欲がないという彼女のために、冷蔵庫にあったリンゴを剥き始めた。包丁で丁寧にカットしていく。

 皮をウサギの耳に見立てて、かわいくうさぎの形に切り取った。

 もう一切れはハート型だ。クッキーの型抜きでハートの形を印して皮を剥いていく。


 リンゴをさらに盛り付けて田部さんに渡す。


「わぁ、うさぎさんだ! こっちはハート!」


 そう言って、田部さんは笑顔を見せた。その笑顔を見て俺は心の底から嬉しくなった。


 田部さんは、リンゴを一口、また一口とゆっくりと口に運んでいる。オレはその様子をじっと見つめていた。


「……あの、田部さん」

「ん?」

「昨夜、来なかったから…… 正直、すごく心配しました。」


田部さんは、リンゴを食べる手を止めて、俺の顔を見る。


「もしかしたら、オレが何か傷つけてしまっんじゃないか、嫌われたんじゃないかって……」


 そう言うと、息が詰まる。


「もし、そうなら嫌だなって思って…… オレ、あなたのことが好きなんです。」


 オレは意を決して自分の気持ちを伝えた。田部さんを失いたくない、その一心だった。

 田部さんは少し驚いたような顔をしていたが、すぐに優しく微笑んだ。


「もう、穂積くん。嫌いになんかならないよ。」


その言葉に、俺の心は安堵に満たされた。


「……むしろ、穂積くんの気持ち、すごく嬉しい。」


 田部さんは、少し照れたように俯き、リンゴをもう一口食べる。


 食べ進めていると「いたっ」と小さな声を上げた。


「大丈夫ですか?」

「うん。ちょっと、傷に触っちゃった……」


 オレは慌てて、田部さんの手に自分の手を添えた。傷が痛まないよう優しく声をかけた。


「今日はもうゆっくり休んでください。何かあったら、すぐ言ってくださいね。」

「ありがとう、穂積くん。」


 田部さんは俺の手をぎゅっと握り返し、再び微笑んだ。その手は温かくて、とても安心した。

本日の材料


・リンゴ:1/2個

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