配膳前 〜お食事前のご準備〜
オレ、米田穂積は社会人二年目。
社会人になって一人暮らしを始めてから、今まで避けてきた家事に悪戦苦闘している。
ただ、料理だけは違った。元々食べることが好きだったからか、料理は苦にならなかった。
最近は腕も上がってきて、やっと「まともな出来」と言える料理を作れるようになった。
仕事も少しずつできることが増え、ようやく一人前の仲間入り。生活が落ち着いてきたことに、ほんの少しの充実感を感じていた。
しかし、そんなオレにはひとつだけ困ったことがあった。
会社の先輩、田部瑠笑さん。
入社当時からお世話になっている先輩社員で、彼女とはよく飲みに行っていた。
ある日、実は家が近所だと分かり、いつものお礼にとオレから家飲みに誘った。
田部さんは快く飲みに来てくれて、いつも以上に腕によりをかけた手料理を振る舞った。
それが間違いだったのかもしれない。
田部さんはオレの手料理をすこぶる気に入ってくれた。それはありがたいことだったが、その日以来、田部さんは「美味しいものが食べられるスポット」を見つけたかのように、部屋に足繁く通うようになった。
仕事が終わればそのままオレの家に来る。なんならオレが帰ってくる前から部屋の前にいる。暑い中、玄関前で待たせてしまったこともあったので、先日魔が差して鍵を渡してしまった。そうしたらもう、当然のように家に入ってくる。
それでも、オレは田部さんのあの笑顔が好きだ。
美味しいものを食べたときに、宝石のように輝くその笑顔が好きで、いつしかもっとその笑顔が見たいと思うようになっていた。
好きな相手が幸せそうにご飯を食べているところをずっと見ていたい。
そんな気分になれるような物語を目指してます。
よろしくお願い致します。