(八)
自己紹介を終えてからの鶴瀬さんとワコはやたらと話が弾んでオレも知らないワコの過去話みたいなのも出て来た。
「それじゃワコちゃんは生前のことは覚えてないんだ」
「おう。てか最初は死んだかどうかもわからなくってさ。でもすぐに慣れちまったけどよ」
「そっか、それじゃ私もそれ以上は聞かないことにするわ。ね、高坂くんもそれでいいでしょ?」
「あ、ああ」
確かにオレはワコの過去なんぞ気にしたことがなかった。それより幽霊だとか言ってるコイツとの折り合いをつけるのにいっぱいいっぱいだったしな、それは今でもさ。
「まあさ、こうして成仏もせずに現世を彷徨ってる時点でロクな死に方してないと思うし、だからさ、いいんだよオイラの昔話なんて」
ワコはケラケラと屈託ない笑顔でそう言った。鶴瀬さんもちょっと困ったような笑顔を見せてたけど、まあ、いいんだろうな、これで。だからオレもワコのことは「そういう存在」として受け入れることにした。
「そんなわけでさ、鶴瀬さんも正宗も、あらためてよろしくな」
それにしてもどうするんだよ、これからの展開は。オレだけでなく鶴瀬さんもワコもそれぞれが相手の出方を見るような沈黙が漂うし、正直オレは帰りたくなってきたよ。しかしそこは幽霊、オレたちの心はお見通しなんだろうな、ワコが突然とんでもないことを言い出した。
「なあ、正宗ぇ、せっかくなんだから鶴瀬さんと連絡先の交換をしちまえよ。な、鶴瀬さんもいいだろ?」
なんでだよ、オレと鶴瀬さんは今日初めてまともにしゃべったんだぜ。それをいきなり連絡先の交換なんて、早すぎだろ。
「正宗ぇ、ここが勝負どころだぜ、気合い見せろよ」
すると今度は鶴瀬さんがケラケラと笑い出した。
「ああ、おかしい。ねえワコちゃん、今の高坂くんとの会話って私にも筒抜けなのわかってるんだよね。わかって言ってるんでしょ?」
「えへへ、やっぱお見通しか」
「てかさ、さっきからずっと鶴瀬さんにはツーツーだろうが」
「で、どうよ二人とも。オイラはいい感じの二人に見えるし正宗だってまんざらじゃない。鶴瀬さんもオイラのことだけでなくこんなのもいいかな、なんて思ってくれてるだろうし」
ワコの一方的な話を聞きながら鶴瀬さんはカバンの中からスマートフォンを取り出した。オレも鶴瀬さんに興味を持ち始めてるのはワコが言う通りだ。まあきっと悪いようにはならないだろう。
こうしてオレたちはお互いの連絡先を交換した。




