(七)
「つ、鶴瀬さん……」
今オレの隣でいたずらっぽい目で笑っている彼女は教室での彼女とはまるで違う雰囲気だった。落ち着いたお姉さんキャラな鶴瀬さんではなく、オレらと同じごく普通の女の子じゃないか。
「ふふ、びっくりさせちゃったかな」
「あ、ああ。まさか鶴瀬さんがそんなキャラだったなんてちょっと意外だったよ」
「やっぱそうだよね。霊が見えるとかそんなのちょっと引いちゃうよね」
「い、いやそっちじゃなくて」
「……?」
「その、鶴瀬さんってそんな風に笑うんだって」
「あ、そっちの方か。まあ学校ではキャラ作ってるって言うか、もし仲良くなってこのことが知られたらヘンな目で見られるんじゃないかな、なんて思って少し壁作ってるんだ」
「ヘンも何も今じゃオレも同類項だし、さっきのあれなんか、ああ、明日から絶対に変キャラ扱いだよなぁ、オレ」
「大丈夫よ。だって今日のイベントは八木崎くんと川角さんのためだったし、私たちはオマケみたいだったし、きっと今頃はあの子たちで盛り上がってると思うわ。それに高坂くんが自分が考えているほど周囲は高坂くんのことを見ていないのよ。だから気にしなくていいと思うわ」
すげぇ説得力。やっぱ鶴瀬さんはお姉さんキャラだよ。でもいつもよりずっと明るいお姉さん、オレはちょっと見直したな。
「なあなあ正宗ぇ、もうこれで決まりじゃんか。鶴瀬さんに乗り換えちまえよ。てかもうその気充分じゃねぇか」
ああ、またコイツだ。てか鶴瀬さんにも聞こえてるだろ、これ。
「ワコ、立場考えろよ。鶴瀬さんに丸聞こえなんだぞ」
「おう、だからさ。今日のオイラはキューピット、だから大船に乗ったつもりでって言ったじゃんか」
「ほらほら二人とも、脳内会話しなくていいから。全部聞こえてるし、私のこともわかってるんでしょ。ワコちゃんだっけ、せっかくだから出てきたらどうかなぁ」
するとワコのやつ、幽霊なのをいいことにオレと鶴瀬さんの間に現れやがった。半透明の身体の一部がオレと鶴瀬さんそれぞれにかぶっている。それを感じた鶴瀬さんは少しだけ向こう側に身を寄せて隙間を作る。なのでオレも同じように彼女と少し間を開けてひとり分のスペースを作った。
そして実体化するワコ、そんなあいつに鶴瀬さんがやさしそうな笑みを浮かべながら話しかけた。
「はじめまして。あらためて自己紹介するわ。私は鶴瀬みずほ、見えちゃう人なのはご存知よね。これからよろしくね、ワコちゃん」