(六)
マジでバツが悪い。するとここぞとばかりに声を上げたのはやはり唐沢武だった。
「Yo――、Yo――、どうした高坂政宗……」
「ごめん、悪かった。オレ、帰るわ」
「てか、理由を話してみろよ政宗」
フォローのつもりだろうが豊春、今のオレはお前と話す気になれないんだ。でも他のみんなの目もあるし苦しい言い訳をするしかなかった。
「スマホ……スマホの調子がまた悪くってさ。それでつい、ほんとごめん」
そう言いながらオレはカバンから財布を取り出した。とりあえず参加費だけでも払ってとっとと帰ってしまおう。今日の会費は三〇〇〇円だったが財布に入っているのは五千円札一枚だけ、だけどしょうがない、とにかくオレはこの空気から逃げ出したかったんだ。
「これ会費。釣りはいらない、迷惑料ってことで」
「おい、待てよ、政宗」
呼び止める豊春の声を背中に聞きながらオレはルームを後にした。店を出るとオレは足早に商店街を突き進む。しかし行くあてなんかなかった、とにかく歩くしかなかったんだ。
「高坂く――ん、待って、待ってったら」
その声は鶴瀬さん、どうやらオレを追いかけてきたみたいだ。でも無駄だぜ、オレはあの場に戻る気なんてないんだから。
「とにかくさ、落ち着こうよ」
足を止めたオレに追いついた鶴瀬さんは肩で息をしながら財布から千円札を二枚取り出してオレに寄こして来た。
「高坂くんって独り暮らしだったよね。二〇〇〇円は大金でしょ。だって食費にしたら何食分?」
確かに、勢いで有り金全部を置いていったんだ、冷静になって考えてみるとマジでやらかしちゃったよな。
「とにかく、はい、これお釣り」
「あ、ありがとう。マジで助かる」
しかしこれもこれでバツが悪い、どうしたらいいんだよ、オレ。すると頭の中でワコの声が響く。
「とりあえず歩こうぜ。往来の真ん中だしさ、近くに座れるとこ、公園とかあればいいんだけどよ」
「そういえばあるわね、公園。高坂くん、ちょっと話そうよ」
まさにシンクロ。もしかして鶴瀬さんってワコの声が聞こえたりするのか、まさか霊能力とか……?
そんなことを考えながらオレたちは商店街から少し離れた児童公園にやって来た。学校から帰って日暮れまでのひととき、遊具の前では子供たちが順番待ちをしている。オレと鶴瀬さん少し離れた水飲み場に近いベンチに並んで座った。
「実は私、見えちゃう人なんだ」
座るやいなや鶴瀬さんはオレに人懐っこい目を向けてそう言った。




