(五)
カラオケ店に入ったのは午後四時、唐沢同様に段取りがいい蒲生がうまく仕切ってくれたおかげで席順もあっさりと決まった。案の定、オレと鶴瀬さんは隣同士なんだけど、そりゃあ、唐沢と蒲生、長瀬と鎌ヶ谷ってことだからこの席順は消去法の結果なのはすぐにわかった。
席が決まったらドリンクとフードをオーダー、トレイに載った六人分のグラスが出て来た時には既に唐沢が一曲歌い終えていた。こんなときオレが率先して曲を入れることはなくて、それがモブのモブたる所以なんだろうけど、とにかく唐沢・蒲生カップルの独壇場だった。
長瀬も歌いまくるってキャラじゃないし、鎌ヶ谷と二人でスマホを楽しんでいる。あれは完全に二人の世界って感じだね。
唐沢武リサイタルもいよいよ三曲目、相変わらずヤツ一人が歌い続けているわけだが、それにしても見事にラップだかヒップホップばかり。それにしてもあいつの場合は日常会話もラップ調、なので新鮮味はイマイチだ。でもまあいいか、このまま歌い続けてくれればこっちに順番が回って来ることもないし、放置だよな、放置。
オレの隣では鶴瀬さんが小さな手拍子を打っている。彼女なりに場を盛り上げようとしているんだろう。一方オレはワコと脳内会話を繰り返していた。それにしても落ち着かいこと。ワコのヤツ、誰かに憑依しては戻ってきてその心情を報告するんだ。そんなもん見てればわかるし、いちいち言わなくていいよ。
そんなこんなで入店してから二〇分が経過しようとしていたとのことだった、入口のドアが開いて店員が遅れてきた客をエスコートする。そこで顔を見せたのは陽キャの筆頭、八木崎豊春、その肩越しに顔をのぞかせたのは川角若葉だった。
「ごめん、ごめん、バイト先でちょっとあってさ、遅れちまったな」
豊春に寄り添いながら彼の言葉に頷く川角さん、この二人どう見てもつき合ってるとしか思えないじゃないか。そもそも学校が終わって四時からパーティがあるのにバイトなんてあり得ないだろう。するとオレの脳内にワコの声が響いた。
「政宗ぇ、あの二人、つき合ってるぜ。もしかしたらすでにもう……」
「う、うるせぇ」
オレは周囲に気付かれないように小声で返答した。
「もう言うな、わかった、わかったから」
「でも、ワンチャンに掛けてみるのも、オイラもう一回……」
「やめろ、いい加減にしろ!」
オレはついつい声を上げてしまった。もちろん全員の視線はオレを見つめていた。