(四)
放課後、これから今日のイベントに参加するメンバーが揃って教室を出る。先頭を歩くのは賑やかし担当の唐沢武、そう、W武の小さい方だ。ヤツに付き添うように歩いているのは蒲生ななり、二人は自他共に認めるほどのベストカップルだ。
そんな二人の後に続くのはW武の大きい方こと長瀬武、意外なのは教室でも目立つ方ではない鎌ヶ谷むつみも参加していることだった。実は教室を出る前に唐沢から聞いたのだが長瀬と鎌ヶ谷も最近付き合い始めたんだそうな。ヤツが言うには蒲生が鎌ヶ谷の想いを知って焚きつけたとか。そうなれば唐沢のことだ、まんまと二人をくっつけてしまったというわけ。
そしてオレの隣を歩いているのは鶴瀬みずほ、教室では落ち着いた雰囲気でクラス委員よりも委員みたいな貫禄と言われている。女子たちが言うには案外やさしいお姉さんキャラらしいけど黒髪ストレートロングに姫カットでいつも寡黙に佇むその姿からは近づき難いオーラが発せられていた。
しかしそんな彼女がなぜ参加?
違和感ありまくりなんだけど。それに今のこのメンツだとオレと鶴瀬さんだけが余りものっぽいし。それにしても並んで歩いてるのにこの距離感、まあ、つき合ってるわけじゃないからこれはこれでいいってことか。
そう言えば長瀬は「川角さんと豊春も参加だからさ」なんて言ってたけど二人ともいないじゃんか。
豊春ってのは八木崎豊春、オレとは幼馴染なんだけどモブなオレとは正反対でクラスでは陽キャなポジションだ。チャラ男風味だけど漢気があるヤツなんだ。そんな豊春のことだ先回りしてサプライズ演出の仕込みでもしてるんだろうか。でも参加者は八人、ターゲットは誰なんだ?
まさかあの二人が今日の主役なのか?
そんなことを考えながら歩いていたらポケットに入れたスマホに着信のバイブレーションを感じた。もしかして豊春か……いや違うな、おそらくワコだろう。男の娘だかしらんが女装してるくせに自分を「オイラ」なんて言うおかしな存在だ。オレは横を歩く鶴瀬みずほに気付かれないようにさりげなくスマホを手にすると画面を確認した。
「正宗ぇ、そろそろだよな、イベント。とにかくオイラにまかせておけよ、大船に乗った気持ちでさ。それじゃまたな」
一方的に言いたいことだけ言うと、ワコの姿は消えていつものロック画面に戻っていた。それにしても何が大船だよ、イベント前に霊界からのメッセージなんてマジで縁起でもないぜ。