(最終話)
ワコの混線作戦は鶴瀬さんがスマホの電源を切ることでとりあえず収束したけど、ものの数分で再び彼女からの着信、オレはワンコールで電話に出た。
「高坂くん、さっきはごめんなさい」
「鶴瀬さんが謝ることじゃないよ。ワコのせいで、こっちこそゴメン」
「ううん、いいのよ。それよりワコちゃん、そっちに行ってる?」
「いや、来てないけど」
「実はあの子の気配が消えちゃったのよ、スマホの中にもいないみたいだし」
「そう言えばあいつ、依り代の精神状態に変化があったら出ていかなきゃ、なんて言ってたような」
「それじゃ本当にいなくなっちゃったのかなぁ」
「でもあいつは予測不能だからなぁ、ひょっこり出てくるかも」
「わかったわ。もし何かあったら……」
「うん、こっちからもメッセージ入れるよ」
確かにいろいろと変化はあった。スマホの調子は戻ったし、何よりオレと鶴瀬さんとはちょっとだけ距離が縮まって一緒に下校するくらいの間柄になっていた。そんな折、オレのスマホに着信が入った。
「正宗ぇ、元気してたか?」
ワコだ。まったく今までどこで何をしてたんだか。するとワコは脳内会話で一方的に話し始めた。
「みずほんとこから戻ろうとしたらば迷っちゃってさ、アメリカのサーバーまで連れてかれちまってマジヤバだったよ。ほんと死ぬかと思ったぜ」
「てかおまえはすでに死んでるだろうが」
「だよなぁ、てへへ。さてと、さっそくだけどオイラ、行かなきゃなんだ」
「なんだよ唐突に」
「正宗とみずほのことだよ。いい意味で状態が変わっちまったからなぁ、だからオイラは次の誰かを探しにいくよ。それじゃ達者でな」
そして再びワコの気配が消えた。マジでもう戻ってこないのか?
いなくなったらいなくなったで……いや、やめよう。ワコこそ元気でな。
ワコが消えて数日後のことだった。オレと鶴瀬さんは校内では適度な距離感の関係だったんだけど、今日は並んで歩くオレら二人の間がいつも以上に空いていた。すると鶴瀬さんはその空間に向かって声をかけた。
「ワコちゃん、いるんでしょ?」
そう言われてすぐさま実体化するワコ、その姿を見ながら鶴瀬さんは続けた。
「もう男の娘のふりなんてしなくていいのよ」
「つ、鶴瀬さん。なに言ってんだよ」
「ほんとは女の子なのよ。ね、ワコちゃん」
「マジか!」
「マジさ。だから正宗は両手に花ってわけだ。ほら、手ぇつなごうぜ。みずほは右手、オイ……わたしは左手な」
「や、やめろ――!」
~ 完 ~
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