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7 私だけの秘密


 母は夕方、帰宅してきた。沢山のお土産を抱えて。あちらこちらに配るつもりだ。わたしには、ご当地マスコットのキーホルダー。

 かわいくて結構よろこんだ気がする。父はそんな私を見て機嫌が直ったのかなと安心したようだった。

 その日から私は養父に対する露骨なアプローチはもうしなくなった。再犯を避けたと言うべきか。

 大き過ぎる賭けに負け、もう余力が残っていなかったのだ。あれ程の緊張感は後にも先にもなかった。二度としたくないと思った。

 急に態度が変わった私に対して母は、


「娘心と秋の空♪」


などと茶化していたが、養父はエスカレートして行く娘の行動が収まり、ほっと胸を撫で下ろしていた事だろう。

 愛する妻と破局し義娘と破滅などしたくなかったはずだ。

 しかし養父は私程、深刻に考えていなかったのかもしれない。幼な子の気まぐれ、亡くした実父への愛情の肩代わり、そんな風に思っていたのかもしれない。 そう思われても仕方ない程の変わり様だったから。



 結局どこか遠慮があったのだろう。養父はあの日以来、私を強く叱る事は、なかった。

 それにつけ込み私は養父を母の元から奪い盗ろうとしたのだ。私は異性として愛したつもりだったが、養父は違っていた。

 我まま娘のエスカレートして行くアプローチに手を焼いていたけれど、ギリギリまでそれを許していた、それだけなのだ。

 もし、その一線を私が1ミリでも越えようとしたら養父はすぐに制しただろう。

 そう思うと、あの夜、養父は、もしかしたら、どこかで目覚めていたのかも知れない。そんな気がした。 いつ、この行為を止めようかと思案していたのではないか?娘を傷つけないようにどうやって制したらいいのか。

 今では尋ねる事さえできないが....


 私は何がしたかったのか?今だに解らない。性の知識もないまま父の体を求めたのだろうか?

 学校で受けた性教育はまだ大した興味もなく、そのあたりは聞き逃していたのだろう。

 何かの手段で調べる事も出来たはずなのに。でも私はそれをしなかった。解った気になっていたのだろう。

 養父とキスした事で同級生の誰より性について進んでいると悦にいっていたのだ。

 無知と思い込みに救われたようだ。

 その後私は何人かの人と付き合ったが、やはり養父と容姿や雰囲気が似た人ばかりと付き会ってきたような気がする。




 養父は私が19歳の時に交通事故で亡くなってしまった。社員の運転する車の後部座席に座っていたらしいが渋滞で止まっていたところに後ろから来た大型トラックに衝突されたと言うことだ。即死だった。

 私はつくづく男親に縁のない女だと思ったものだ。

あのカードの願いは、あと1回残っていた。あの幼い頃の私なら養父が生き帰るようにと願ったかもしれない。

 しかし、あの日からカードは机の奥にしまったままになっていた。


私はそのカードを養父の棺に納めた。


永遠に葬ったのだ。


そしてあの秘密は私だけのものになった。



続く

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