表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

第8話


 戦争は解放軍の勝利で幕を閉じた。

 帝国軍は撤退し街に平和が戻った。



 戦没者の眠る共同墓地。

「よかったね、お前たち」

 片腕になったドランカがそこにはいた。

 彼女は夫と娘の名前を見つけ、それに指を這わせる。

「甲斐性のない母親ですまないね。まあ、飲んどきなって」

 酒瓶の蓋をあけて、土に撒く。

「…………」

 空を見上げる。

 そんな彼女を呼ぶ声がした。

「ドランカさーん」

 適切な治療を受けて元気になったシータが走ってくる。

 眼帯をしたコーが彼女を追いかける。

「ドランカさん、もうすぐ戦勝記念パーティーです。行きましょう」

「いいのかねえ、あたしみたいなのが参加しても」

 コーが頭を振る。

「あなたは解放軍の英雄です。妹を守って頂いて、ありがとうございます」

 コーの言葉を聴いたドランカは、恥ずかしそうに頭を掻いて、ばしん、とコーの背中を叩いた。

「当然のことしたまでだっての! それじゃ、御馳走でもいただくとするかね!」

 三人はパーティー会場へと歩きはじめる。

 ふと、シータだけが振り向き、空を見上げた。

 すぐに頭を振る。

「ううん、考えても仕方ないよね」

 風に乗って読経の声が届いたような、シータはそんな気がした。

 しかし、向き直ってコーとドランカについていく。


 戦勝記念パーティーによって街はにぎわっている。

 大酒飲み大会が開かれていた。無論、酒代は無料だ。ドランカが吸い込まれるように酒樽へ近付いて、樽ごと抱えあげて飲み始めた。どよめき。

 シータとコーは料理のテーブルにつく。

 コーは、浮かない表情のシータに気付いた。

「シータ、またどこか悪いのかい」

 コーはおろおろと妹の身体を心配する。

 しかし、シータは頭を振る。その目に涙が浮かんでいた。

「ビショウの身体がもしも生きていれば、ここに立っていたのかしら」

 彼女は言った。

 復讐を手伝った『影』のことをコーは聴かされていた。果たしてそれは怨霊だったのか。あるいはシータを哀れんだ神からの使いだったのか。

「ビショウが身体を借りる度に、考えていたの。生きていれば、復讐なんかしなくたって友達になれたんじゃないかって……」

 シータは言葉を続ける。

 妹の言葉に、コーは頭をひねっていたが、やがて観念したように肩を落とした。

「……すまない、シータの疑問に俺は答えてやれない」

「ううん、いいの。きっと、答えは誰にもわからないから」

 シータは微笑む。コーは安心して、サラダを妹の分まで皿に取り分けた。

 そんな二人の隣に一人の少女が現れた。

「ここ、いいだろうか」

 顔色は悪く、死人のようだった。

「……ビショウ?」

 シータは訊ねる。

 病死した死体の硬直した顔をゆがめて、ビショウは笑った。

「新たな復讐の気配がします。帝国軍は諦めておりません」

「で、でも、私にはもう復讐心なんて」

「ええ、あなたの復讐は成し遂げられました。しかし次の戦争でまた復讐の火は生まれる。連鎖するのです」

「それを探しに行くの」

 ビショウは目を閉じて、今度は優しく微笑んだ。

「友達は多い方がよいですからね」

 シータはそれを聴いて、プッ、と噴き出した。

 復讐鬼の目的としては、とてもかわいらしいものだったからだ。

「それでは、これで」

 何も口にすることなく立ち上がる。それをシータは呼び止めた。

「ビショウ」

「なんでしょうか」

「ありがとう」

 シータは泣きそうな顔で言った。隣にいたコーも頭を下げた。

 ビショウは、何も言わず微笑んだまま、去っていった。


 ビショウの言う通り、二年後に戦争は再開した。

 解放軍の間では戦いを守護する精霊『影』の噂がいつの間にか広まり、信仰を集めていた。

 帝国軍では逆に自分たちを脅かす怨霊『風』の噂が広まり、恐れられていた。


 シータとドランカは解放軍に入って、コーと共に街を守り続けた。


  了



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ