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持ちかけられた結婚話

お付き合いくださりありがとうございます!


 突然何の前ぶれもなく、彼女が現れたのは、ユリアナが紫に手を染めている時のこと。


「まぁ、なんて汚いのかしら」


 彼女はそんなユリアナの姿を目にした途端、眉根を寄せては、わざとらしくため息を吐く。

ユリアナはというと、目の前の艶のある白髪で小綺麗な年配の女性を凝視する。

この年配の方は一体誰なのかしら……と思いながら。


「久しぶりなのに、最悪の出迎えね」


 久しぶりも何も心当たりのない人物であるし、突然の訪問過ぎて出迎えることもできないので、呆然とする。

彼女が顔をしかめるので、誰なのか問おうと口を開きかけた時、侍女のリリがユリアナに「アマンダ夫人ですよ」と耳打ちした。


(まさか……アマンダ婦人……お義母様!?)


 ユリアナがアマンダを最後に目にしたのは、彼女が自分をここへ追いやった日。

あれ以来、彼女がこの地に足を踏み入れることはなかった。

ユリアナは、義母はこんな顔だったのね、と思いながら改めて観察するように見つめる。


 記憶の中の彼女はいつもしかめっ面をしていて、姿形についてはさっぱり記憶にない。

義母だと認識すると、つり目がちのきつめの顔立ちがぼんやりと浮かんできて、あぁ、こんな顔だったかもしれないと思えてくる。


「それで何かご用でしょうか?」


 ユリアナが口を開くと、彼女の表情が険しくなる。


「義理の母親に向かって、口のきき方もなってないのね。はぁ……まぁ、いいわ、まずはその小汚い恰好をどうにかしていらっしゃい。お前に話があるの」


 ユリアナは自身の姿を見下ろす。

確かにお世辞にも綺麗とは言えない姿である。

ユリアナはつい今まで、リリと共にクッキーを焼いていた。

菓子作りはユリアナの趣味の一つである。

今日は、庭で収穫したベリーを練り込んだクッキーを作っていて、ユリアナの身に着けていたエプロンには、紫色の果汁があちこちに飛んでいる状態だ。


「早くなさい」


 別にこのままでもいいのではと言い返したかったが、リリに自室へと引きずられたかと思うと、簡易的なドレスへ着替えさせられ、アマンダの待つ客間へと足を向けることになった。


「お座りなさい」


 優雅に扇で自身を仰ぎながらソファーに掛けているアマンダは、まるでここの住人のように言う。

そのことに快く思えず、無言でテーブルを挟んだ向かいに腰を下ろして、彼女を凝視した。

するとアマンダは、鋭い眼差しを向けてくる。

敵意の籠ったそれからユリアナは一旦視線を逸らし、紅茶の入ったカップに手を伸ばした時、彼女が驚くことを言った。


「今日はおまえに縁談を持ってきたのよ」


「……え、縁談?」


 カップを手にしたまま目を瞠ると、アマンダはクスッと笑みを浮かべた。


「えぇ、そうよ。おまえもいい歳でしょう?私がちゃんとおまえに合うよい相手を選んであげたわ」


 アマンダの表情と愉快気な声から、絶対によい相手でないということを察するものの、貴族の結婚とは自分の意志が通らないものと理解している。

それについては、家庭教師から言われているし、身近に一人該当者がいた。


 ベラである。

彼女は本当であれば王太子妃になんてなりたくないと言う。

何度もアマンダに訴えているらしいが、王太子妃の母親という肩書が欲しい彼女が辞退を許すはずがない。


 ベラが王太子を拒む理由は、彼の性質にあった。

彼は周囲の目を惹く美しい見た目をしているが、女性関係がかなり派手。

とても結婚相手には向かないようで、ベラはなんとか婚約者候補から外れることができないかと、日々模索しているようだった。


 大切にされているベラでさえ、好きな選択ができない貴族の結婚。

なんと恐ろしいものなのかと脅威に思っていたが、まさか自分に話が舞い込んでくるなんて、腐っても貴族だということだ。


「相手はハウェート侯爵の長男のレオンハルト様よ」


 ハウェート侯爵家は有名で、貴族社会に疎いユリアナでも知っている。

というのも、家庭教師から習うだけで、長男のレオンハルトと聞いても、彼についてはさっぱりわからないけれど。

きっと一般な令嬢であれば、容姿から性格から詳細を知っているのだろう。


 ユリアナは「はぁ」とだけ答える。


「レオンハルト様は美しい上に資産家で、おまえみたいな田舎臭い名だけの令嬢に勿体ないくらいの人よ。これほどの良縁はないわ、喜びなさい」


「……はぁ」


 気のない返事に、アマンダ大きくため息を吐いて、ユリアナの態度の悪さを責め始めた。

家庭教師からマナーについては、きちんと学んでいて、それなりに立ち回れると思っている。

しかし、それを言い返しても火に油を注ぐだけなので、ユリアナは真剣に聞いているフリをしながら、疲れるわ、クッキーを焼いている間は何をしようかしら……と、別のことを考えていた。


 アマンダは一通り溜めていたものを吐き出すと、結婚式の日を言い渡し帰っていった。


 驚くことに結婚式は二週間後。

まさかこの屋敷をこれほど早く出ることになるなんて、想像すらしない。

ユリアナの平穏な人生が変わり始めるのであった。

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