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シトネの闘士 1308字

ノベルアップ+

2024年5月1日〜6月30日

第2回クイーンズブレイド杯小説コンテスト

ビキニアーマー短編小説部門

応募全103作品

落選作

 血生臭い闘技場。娘は宿敵に対峙した。怒る娘が剣を薙げば。双房の乳肉が空に踊る。襤褸の胸から覗くそれは暴れて揺れて持主たる娘の剣戟に付した。娘は奴隷。戦いの外で産まれ闘いの中で死ぬ。黒き獣に襤褸と剣を与えたようなそれは爪先で砂に模様を描いて間断ない斬雨を相手に降らせた。伸ばす腕が次第襤褸を破き娘の胸から淡い双輪が零れ落ちる。荒ぶ娘の汚れなき突起。娘の敵は鋒を躱しながらそれを余さず金色の瞳に焼き付けた。娘の仇は女。金の髪に鷹の目。高貴でありながら幼少より闘技場で賎を屠るを楽しんだ。贅を凝らした鎧は乳と股のみ覆い女は鎧に血を浴びるを悦とする。この鎧に娘の父代わりだった男が染みている。娘を守った姉が染みている。赤く。赤く。だから娘は砕くのだ。己が剣で女の金色の鎧を。だが──。

「娘。名を申せ」

 金色の女・トバリは剣斬を紙一重で避けながら娘に問うた。未だ息も上げず金色の大剣は鞘の中に居る。娘は野太く叫び錆びた鈍らで答えた。

「名など! 無い!」

「ならば与えてやる」

 どすん。と闘技場に木霊して娘は砂に膝を付いた。見ればトバリの左肘が娘の鳩尾にめり込んでいる。一撃で決まった。

「お前は今から……シトネだ」

 痛みは後からやって来るのだろう。娘──シトネは気を失う快感に溺れ術無く金色のトバリに抱き竦められた。シトネの襤褸から剥き出した乳房がトバリの金の胸当てに押し付けられる。熱く隆起した乳首がひやりと冷たい金属板に触れて潰される。トバリは垢で固まるシトネの黒い前髪をかき分け顔を近付けた。そして。トバリの薔薇色の唇がシトネの唇に重なる。長く。深く。柔らかく。娘に辱めに抗う力は残されていなかった。

(お前は私の物だ、シトネ。どうだ? 殺したいほど憎い女に唇を奪われる気分は。悔しいだろう。情けないだろう。ならば再び上がって来い。私の座る高み──気高き支配者の椅子までな……)

 シトネは暗い檻で目を覚ました。──生きている。だが生を喜ぶ間もなくトバリとの戦闘、敗北、辱めを思い出し羞恥で肌を赤く染めた。同時に怒りが腹の底から湧いて来て鳩尾の痛みを忘れるほど全身に血が滾った。それは自身の根底にある怒りだった。生み出され。名付けられ。所有され。捨てられ。暗いゴミ溜めで寝起きさせられ。蔑まれ。殴られ。閉じ込められ。同じ境遇の者と競わされ。殺し合わされる。本当に。本当に腐った世の中だ。変えなければ。他人など当てにできない。自分の力で変えなければ。シトネは暗く汚く湿った寝床で剣を握り再び日の下に出た。そこは闘技場。奴隷は一生ここから出ること叶わず互いに殺し合い。観客は社会に歪に迎合した末にねじ曲がり他者の不幸を蜜とする狂った下衆ばかり。そして高みの貴賓席からはあの女──金色の鎧が足を組み余裕の笑みで眺めている。シトネが睨みつけるとトバリは満足気に破顔した。隙ありと見てシトネの背後から今日の相手が斬りかかる。シトネの着た襤褸がスパッと切れたと思うと対戦相手の首が飛んだ。

「見事だ、シトネ」

「アタシに名など無い!」

 視線で会話して娘は女に背を向けた。剣闘士にしては大きめの胸が切られた襤褸から覗いて揺れていたが最早シトネは気にしなかった。

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