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王旗を掲げよ~胎動~  作者: 秋川 大輝
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日輪と月光

 陽を浴びて青く輝く瑠璃宮を出ると、声が追いかけてくる。


「隆也、オレがラルク王国の一行を送らなくても良かったのか」


 振り返り、アレクに目を向けた。

 青白く疲れ切った顔じゃないか。


「フレアたちも帰りながら詰めていく話もあるあるだろう。それより、アレクはしばらく休め」

「いや、皆もそれ以上の仕事をしていたようだ。オレだけ休むわけにはいかない」


 アレクの返事に、サラに顔を向ける。

 後は任せるぞ。


「アレク」


 サラが言いながら、ため息をつく。


「仕事は同じでもあなたがいたのは緩衝地帯を挟んでの最前線。怪しげな者も跋扈し、リルザへの帰還兵の管理。緊張による疲れ方も違うでしょ」


 サラの言葉に、アレクは何も言えないようだ。

 そうだぞ、アレクよ。それに、おれもゆっくりさせてくれ。


「いいか。明日から十日間の出仕を禁じる。その後は兵と共に新たに軍務施政管を付けるからリデラ砦に移動し、訓練と座学だ」

「十日も休みなのか」

「そうだ。それと兵から二百人を選抜した。彼らは王都の士官学院に行かせる」

「選抜、どうやって選抜したのだ」

「あのシノビという一族が兵の中に紛れ込んでいる。その者たちが観察して才ある者を選んでいた。シルフの兵も二百人が学院に通っている」

「そこまで、しているのか」


 シルフの言葉に、アレクが空を見上げた。


「組織作りには最適。でも、シノビの労苦は考えるのも嫌」


 そう言うなよ。カザムも奥に控えているんだ。


「分かった。それで、皆そろってどこへ行くのだ」

「厩よ。聖獣に預けた仔馬を見に行くのよ」

「真獣の代わりにという馬か」

「そう、どんな馬なのか見たい」


 言いながら、シルフが先に立って歩く。

 あの仔馬にルクスを受け入れられる器があればいいが。万が一、その姿がなかったら。想像もしたくないな。


「それならば、隆也の行軍もだいぶ楽にはなるな。オレも見に行こう」


 何だよ、不在のラムザス以外は全員集合かよ。

 印綬の継承者が揃って従者もなしに動くを見たら、ダリアたちがまた何かを言いそうだ。


「皆の秘書官はどうしたのだ」

「政務官の再編成を指示したのは、隆也だろ。今日は朝からレイムの呼び出しよ」


 サラが呆れたように言ってくる。

 そうか、政務官の選択をレイムに頼んだが、それが今日だったのか。


「レイムには散々、文句を言われたぞ。誰か同席しなくてもいいのか」

「レイムが断った。官吏の仕事が遅いから、こき使われる。だったら、自分で選んでくると」


 シルフが呟くように口にした。

 あぁ、確かに言いそうだ。それに、その面談の内容だったら政務官たちに同情もしてくるな。


「まぁ、任せるとしよう。おれたちは、出発の準備もあるからな」

「そうね」


 サラが頷いた時、

「これが、仔馬」

シルフの声が流れてきた。


 厩の前のシルフは、ただその中を覗き込んでいる。

 こんなシルフの反応を見るのは、初めてだ。

 おれも足を進めるとその厩の中に目を向ける。


 そこにいたのは、一頭の黒馬だ。馬体は昨日見たよりも一回り大きく、足も太くがっしりとしている。

 そして、何よりも驚かされるのはそのルクス量だった。


「この威圧感、真獣よりも凄いな」


 アレクの言葉と同時に、厩の片隅にルクスの光が集約する。

 光から出てきた聖獣が、ゆっくりと歩み寄ってくる。


――見た通り、ルクスは増強された。あと数か月もすれば騎乗できるが、こいつに手綱は無用だ――

「分かった。それでは、意志は通じるのだな」

――そうだ。数か月の間にこいつもルクスの制御も出来よう――

「こいつか。名前が必要だな、それにまだ聖獣の名前も付けていなかった」


 白銀に輝く聖獣に、漆黒の貴獣か。


「名前は日輪だ。その馬は月光にする」

――日輪か、その意味は理解した。よかろう、日輪と呼んでくれ。この貴獣もルクスが安定して意識が覚醒すればその名と意味を伝えよう――

「意味を理解か。おまえ、おれの意識を読んだな」

――そのために中つ国から同道したのだ。それよりも、また戦か――

「リルザ王国に、傭兵が集結してる。ほぼ全ての傭兵団がかき集められ、その数は七万を超えたそうだ。おれたちの意思と関係なく、戦が起こる」

――月光もルクスが制御できれば、そちらに送ろう――

「分かった。それまでは、頼むな」


 おれはもう一度月光に目を移すとそのまま踵を返す。


 そのおれに、

「また、戦なのか」

「休戦協定を結んで一月ほどよ。早すぎるでしょ」

 シルフとサラの声が掛けられた。


「休戦協定がリルザの態勢を立て直すためのものだとしたら、準備はそろそろ整うということだ」

「整い次第に、協定破りか」」

「そうなるな。ラムザス一人では初撃は耐えられてもその後は支えきれない」


 しかし、リルザ王国の協定破りの大義が必要になるために、こちらは守勢に徹するしかない。


「それで、出発の準備なのだな」


 アレクの言葉に頷いた。

 おれたちは先行してそれぞれの配置につき、リルザ王国の一撃を受け止めると同時に反攻に移る。

 次の戦に休戦はない。


 王都を落とし、降伏させるかリルザのエルミナ王を討たなければ終わらない戦になる。


「編成をし直した政務官は連れて行くのか」

「連れて行くのは秘書官と王宮から弾き出される政務官だな」

「弾き出される政務官、その彼らに占領地を任せるのか」

「そのまま任せはしない。彼らにも一度戦場を経験してもらい、その中からおれが選ぶ。外された者は補給の荷馬車に乗ってもらうさ」


 そう、アムルにも言ったことだが、創聖皇の想いが秩序の回復と臣民の選別ならば、この国も例外ではない。先に玉石を分けておかなければ、玉も石と共に潰されかねない・


「辛いことね」


 同じことを思ったのか、サラも大きく息を付いた。


「一人でも多くを救いたい」

「そうね、教育と心の向き合いでルクスを浄化するしかないけれど、第一門に行きついたのはまだ、民の一割にも満たないわ」


 一割近くはいるのか。


「逆だろ、それは凄いことじゃないか。この短期間に、そこまで増えたのかよ」

「そ、そう。わたしはもっと増えると思っていたわ。だって配布する教科本には隆也の言う道徳の内容を盛り込んだし、民には人のあり方を政務官たちが説いているのよ」


 教科書に道徳の内容、国語のことか。それに、人のあり方。


「さすがは、礼の印綬だな。やはり、サラに任せてよかった。これからも頼むな」

「もちろんよ」

「それで、政務官の再編成はどうする」


 胸を張るサラの横から、シルフが顔を出した。


「明日、選ばれた政務官から人事局を編成し、各政務官の異動を検討してもらう。それまでは、今までの業務を続けてもらう。弾かれた政務官は軍務政務官に異動し、占領地法令を学んでもらう。皆は人事局の編成が終わり次第に三日間の出仕停止だ。ゆっくり休んで備えてくれ」

「休み」

「そうだ。捕虜も順次送還が進んでいる。後はおれたちがいなくても大丈夫だ」

「確かに、少し落ち着いてきたわね。そういえば、隆也の目にかけていた捕虜も、送還になったの」

「ネビラか。しばらく前に送還した。そろそろ国に着く頃だ」


 解放を告げた時のネビラの嬉しそうな、哀しそうな、困ったような笑顔が思い浮かぶ。


「いずれ戦場で会えるさ」


 言いながら空を見上げた。

 青く澄み渡った高い空だった。


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