心の向き合い
心はお喋りか、アムルの言った通りだ。
心と向き合うと聞き、瞑想や座禅を思い浮かべたが、ここまで難しいとは思いもよらなかった。
おれは、まだまだだな。
目を開けると僅かな光しか灯らない広い部屋を見渡した。
ブランカの指導で作られたばかりのルクス浄化施設。まぁ、椅子の並ぶ寺院というか、広間だな。
おれが立ち上がるとすぐに、
「隆也王、終わられましたか」
後ろから声が掛けられた。
座っていたのは、ダリアだ。
「どうしたのだ。ここではおれに構うことはないぞ」
「そういうわけには参りません。このような無防備なところで、王を一人には出来かねます」
出来かねますとは言われても、その心配はないだろう。フレアではないが、不意打ちでもおれを傷つけられる相手がここにいるとは思えないぞ。
それに、ダリアたちがいた所で役に立つとも思えないが。
「まあ、いいさ。それで、どうしたのだ」
「サラ様が、表でお待ちになっております」
何でサラが表で待つのだ。それをどうしてダリアが仲介するのだ。
意味が分からん。
そのまま表に足を進める。
玄関前の広場に、困ったように立つサラが見えた。
「どうした、こんな所で。入ればいいだろ」
「政務官たちから、意見書を出されたわ」
意見書。おれは知らないぞ。
「ラルク王国の女王と臣下の無秩序さに、うちの政務官たちが危惧したとのことよ。エリス王国も上下に秩序が乱れているから、是正が必要だと意見具申が届いたの」
何だ、それは。
休戦になったとはいえ、今は国の存亡がかかっている。上下の壁を崩して風通しを良くすることで、意志疎通を図り結束を強めることが重要だろう。
「ダリア」
おれの声に、すぐにダリアが駆け寄ってきた。
「上意下達、その旧体制が国の改革を阻害するためにお前たちを選抜したはずだが、意見具申とはどういうことだ」
「は、はい。私たち一部政務官が王に近く、王宮を歪めていると噂されております。それを改めるように、大量の意見書が寄せられました」
大量の意見書ね。
「カザム」
「はっ、こちらに」
すぐに傍らで声がする。
「意見書の提出に関わっている者は」
「降格を余儀なくされた旧来からの政務官たちと新規に選抜された政務官の一部です」
降格された政務官か。本来は再教育をする必要のある政務官も、人手不足で降格に留めたからな。その彼らが、新規採用の政務官を感化したのだろう。
しかし、政務官の入れ替えをして、数か月でこれかよ。
「なぜ、おれに報告がない」
「はい。我らもまだ人手が足りず、全ての掌握が出来ておりません。これも先ほど掴んだことで調査中です」
ここも人手が足りないか。
確かに、カザムやアベル達には負荷をかけているよな。
「分かった。アベルとカザムには予算配分を考える。見どころのある者を集めて組織を拡充させろ。ダリア」
ダリアに顔を向けた。
「意見具申などは無視しろ。次の朝会でおれが直接話をし、再教育の準備をする。それでも意見を変えない者は、国や民の求める政務官ではない為に、改めて人事の見直しを行う」
「承知いたしました」
「それで、サラ。どうしたのだ」
「そ、そうだ。子馬が生まれたので届けに来た」
そういえば、聖獣から仔馬が生まれれば連れて来いと言われていたな。
「仔馬か。それでその仔馬はどこだ」
「厩まで運んでいる」
「では、おれたちも行こうか」
足を向けると、サラも並ぶように歩く。
「それで、サラは心との向き合いというのは、やっているのか」
「私は第一門まで進んだわ」
第一門。
いつの間にたどり着いたのだよ。凄いないなこいつ。
「おれは、まだまだだ。それで、第一門というのはどういうものなのだ」
「意識が広がって、気持ちがいいものだ。この場にいても第一門まで行けば、王宮までも見渡せる」
楽しそうにサラが笑う。
王宮まで。ここからは王宮の高い尖塔がかすかに見える程度だぞ。
「それで、ルクスが上昇しているのか。だけど、建物が出来て数日だろ。早いな」
「あの賢者に、直接指導してもらったからな」
「アムルにか。おまえ、ずるいな」
「ずるくはない。隆也のそのルクス量がずるいのだ」
何だよ、それ。
「それで、どんな指導だ」
「心の声を聞き流すのよ。意識を遠くにおいて、心のお喋りを聞き流して問いかけも無視するの。根気よく続けていくと心のお喋りは消えていくわ」
「根気よくか」
「そう、根気よくよ。私の他にも二十人は指導してくれて、その二十人は新たな指導者となっているわよ」
「そんな指導者、来てくれなかったぞ」
「それはそうよ。王の指導など行けるわけがないわよ」
「王とは気が付かれないように、服も気を使っているぞ」
「無理よ。隆也の後ろには五種正装の政務官が控えているのだから」
サラの言葉にダリアたちに目を移す。
同時に、彼らが目を逸らした。なるほど、ダリアたちはストーカーのように付きまとってるのだな。
そして、この件はカザムを問いただしても無駄だな。
カザムはおれ個人の従者だ。王宮の陰供を報告することは、分を越えると判断するのは当然だ。
やはり、シルフたちの言う通りに王宮の組織に組み込むことも考えないといけないのか。
「それは、何とかするよ。それで、今晩はエルス王国の帰国前の晩餐会だろ。皆がここにいてもいいのか」
「準備は、外務司たちがしているわ」
邪魔になると追い出されたな、こいつ。
通りを進んでいくと、人混みと大きな市場が見えてくる。
農霧司直営の生鮮市場だ。
その周辺には、パン屋や食堂も並んでいる。
「ここもだいぶ賑やかになったわね」
「そうだな。最初は建物だけが広くて、並べられる商品がなかったからな」
「もうしばらくすれば、作物ももっと増える。手狭になるかもしれないわね」
「候補地は準備している。それに、商店新設の申請もかなり来ていると聞く」
そう。商いをしたい者は申請を上げれば、審査の上で店と開業資金を援助し、特別地方政務官として雇用して店を任せるようにしている。
「でも、申請が誰でも出来るなら、皆がしたがるのではないの」
農業を嫌がる者も出てくると言いたいのだろう。
「そのために、農地の集約と省力化を研究させている」
それに、これは誰にも言ってはいないが、これからの戦で多くの兵が損耗するだろう。残された家族の生活を支えるための制度でもある。。
「農業にルクスを利用。上手くいくのか」
「機械化のようなものだ。上手くいくさ」
機械化の意味が分からないのか、サラが首を傾げた。
そのサラの視線の先に王宮の門が見える。
「後で説明するさ。それよりも厩へ行こう」
サラの肩を押した
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