王の立場
「やはり、晩餐会と言うものは肩がこるな」
執務室に入ると、おれは用意された席に腰を下ろした。
左右にはサラとラムザスが腰を下ろし、目の前にはフレア女王が座る。
女王の左右はブランカにアメリア、賢者は末席に落ち着くようだ。それが、ラルク王国の席次のようだ。
「だが、以前の晩餐会と比べればどれほどましだったか」
「フレア、そう言うな。あの時は悪かったよ」
あの時の公貴も上級政務官も今はいない。今回は堅苦しさで肩が凝っただけだ。
「ところで、御馳走が並んだけれど食糧事情は本当に大丈夫なの」
「晩餐会は、見栄を張っただけだ。でも、作付けも順調に進んでいるし、天気も回復した」
「隆也王」
声を掛けてきたのは、ブランカだ。
「聞いたのですが、野業試験場を造っているとか、地域によって作物が変わるのですか」
「変わらない方がおかしいだろ。その地に合った作物を育てる必要があるし、作物もより強く、収穫量も多く、品質のいいものに改良が必要だ」
「確かにそうですが、それを国で行うのですか」
そうか、彼らはそれらを公領主に任せているのだ。しかし、それでは改良品種の共有もなく、無駄も多くなる。
「主要街道、主要河川、農業に工業、商業は国で一元管理をする。無駄をなくして効率を図るには必要なことだ」
「それでは、やはり公貴は不要ですか」
アメリアが口を開く。
「国に、家柄も世襲制度は必要ないだろ。既得権益など、邪魔になるだけだ」
「それで、エリス王国では、素直に公貴の座を降りた家はどのくらいです」
「この国は荒廃していた。公貴も窮乏をしていたから、借金を王宮が肩代わりをし、当代に限り慰労金を支払うことで七割は素直に従ったさ」
「残りの、三割は」
「一割は他国に逃げ出し、二割は反乱を起こした」
「反乱は、二割ですか」
アメリアが考え込むように目を閉じた。
なるほど、彼らは公貴の排除を真剣に考えているようだ。
「まず、王立軍の拡充と私兵の禁止。それに、武具の所有の禁止を法令化することだ。反乱に従う兵を排除しなければならない。それでも、反乱は起こるが、戦力は制限できる」
「隆也王」
次に声を上げたのは、賢者だ。
同時にだダリアたちが林檎酒を運んでくる。
おれ賢者を手で制してカップを持つと、
「それでは、先に乾杯にしましょう。休戦の地均しができたことへの祝いです」
サラが明るい声ですかさず言い、カップを上げる。
サラも賢者の鋭さに一歩引いているのだ。
乾杯を挟むことで、会話の主導権を握られることがないように考えたようだ。
「それで、何だ。賢者よ」
「隆也王は、ランフット水路の逸話をご存じなのですか」
何だ、ランフット水路というのは。
首を振ると、
「昔、ウゼル王国のランフット王が築いた水路の話になります。国家千年の計を成すために、民に苦役を強いてしまい、反乱によって命を落とした王です」
賢者が重い声で語る。
国家千年の計か。確かに、おれも民に無理を押し付けているな。
「マデリ。僕がラルク王国の王都に入る前にした講義を覚えていますか」
不意の賢者からの問いかけに、マデリが立ち上がる。
「は、はい。民の苦しみを見かねて、近衛が王を弑逆した逸話でした。民を助けたつもりの近衛は天逆となってしまった講義でした」
「その講義の時、マデリだけが納得をしていませんでした。マデリだけが、本質に気が付いたのです。マデリが納得できなかったのは、どうしてでしょうか」
「は、はい。本質かどうかは分かりません。ただ、千年先を見据えるならば、民と共に歩むべきだと思いました。民が、王の守護であるべき近衛が誤解をしたというならば、誤解をさせたのはランフット王だと思いました」
そう、それが本質だ。
「ラルク王国もこれより苦難の道を選びます。千年王国を築くための道です」
なるほど、そういうことか。
「新聞のことだな。セリから聞いたのか」
「はい。全国民に国の現状を見せるものだと聞きました」
賢者は真直ぐな目を向けてくる。
この賢者の前にいると全てを剝ぎ取られてしまいそうだ。
「印刷技術は、譲れないな」
「僕の希望がよくお分かりです」
「技術は、国の根幹でもある」
「一つお伺いしたい。こちらでは遠隔書式が溢れております。遠隔書式は高価で、商業ギルドからしか買えないはずです」
「材料は水晶とペン、それに聖符だけだ。商業ギルドと決別した今、自国で生産するしかなかろう」
それも国の根幹と同じように、商業ギルドの根幹だと言いたいのだろう。ったく、嫌なところを突きやがる。
「おれのいた世界でも産業上の発明に対して特許という保護法がある。それが認められてから二十年間は、どこ真似をさせないという権利だ。だが、遠隔書式はそれが発明されて百年以上。材料費の数十倍の価格で今も独占販売されている。少しおかしくはないか」
「有益な発明品は、適正な価格で共有すべきということですね」
即座に応えやがる。これだから、天才は嫌だよ。
見てみろ。他の者は皆、何を話しているのか理解できず、カップを持ったまま口を開けているじゃないか。
「それを販売するに、こちらからの条件は三つ。エリス王国とラルク王国との間の通商条約と守秘義務。それぞれの王都に大使館を置き、相互に全権大使を常駐させる。大使館にはそれぞれの国の法律が適用され、不可侵とする」
その言葉の反応には、しばらく時間がかかった。
それでも、賢者の口元に笑みが浮かび、
「これは驚きました。何という素晴らしい制度でしょうか。二国間の政務と商業との強い繋がりを築くわけですね」
そうだよ。そうですよ。
しかし、その見返りがルクス学だけでは割が合わないぞ。
「承知しました。これはラルク王国で十二分に検討する価値があります」
即座に受諾しないだけの慎重さと一歩引く謙虚さ、そして女王に対する忠誠心も兼ね備えているか。
ラルク王国の公貴にも同情する。こんな天才を相手に反乱を起こせば、即座に踏みつぶされるぞ。
「隆也、王。どういうことなの。何の話なの」
横に座るサラが、不意に顔を寄せてきた。
だめだ。こいつ酔い始めている。
「いや、印刷機器を販売するから、互いにより良い関係を深めようとの話だよ」
「印刷機器の販売、ですか」
後ろに座っていたはずのダリアまでもが声を上げる。
「開発にどれほどの苦労をしたのか。私のところにまで文句と愚痴の訪問がどれほどあったか」
「いや、だから。生産台数を上げるとそれだけ一台分のコストも下がる。それに、販売した利益を技術開発に回せば、予算も増やせるだろう」
「それでは、大使館というのは何ですか」
ダリアまでも酔っているのか。目が座っているぞ。
「大使館は互いの王宮に側に置く、国の出先機関だよ」
「そんな大事なことを勝手に決めるの。隆也、王」
おれの臣下に忠誠心はあるのだろうか。
溜息と同時に、目の前に青い光が広がる。
見なくても分かる。ややこしいのがまた増えやがった。
「あたし達は何も聞いおらん」
レイムの声が部屋に響く。
「おまえ達が晩餐会に参加しないからだろ。面倒くさいと言って、食堂で勝手にしていたじゃないか」
「それとこれとは別だ。飲むのならば、エルフに声を掛けるのが筋だろ。放っておくのは、冷たすぎる」
何の筋だよ。
「そうなんだ。隆也、王は最近冷たいんだ」
サラが体を押し付けながら、カップに林檎酒を注ぐ。
これは、風が悪いぞ。
フレア女王たちに目を向ける。
いや、彼らも賢者を詰問しているようだ。
「そう、隆也王が悪い」
離れた席でシルフが呟き、ラムザスは困ったように笑うだけだ。
おれは、この国の王のはずだ。
本当に、みなはおれを王だと思っているのだろうか。
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