捕虜の処遇
王様の言葉に、私はただ頷くことしか出来なかった。
私の率いた隊、六十人を王都に移送する。そこで、私たちは農地の整備か街道の拡張かを選んで作業をする。
捕虜として労役を課せられるのは分かる。
「では、農地を十二シリング開墾整備するか、街道を街道駅の半分の区間、整備拡張するかだけで、解放して貰えるのですか」
「そうよ。その後は、帰国になるわ」
答えたのは、印綬の少女だ。
「身代金は取らないのですか」
「あなたたちはリルザ王国の命令でここに来たのでしょう。だったら、責任は国にあってあなたたちではない。それに、あなたたちはこのエリス王国で違法行為はしていないようだから、罪はない」
「そう、なのでしょうか」
「農地整備、街道拡張、どちらかを選びなさい。労務は朝の八時から夕方五時まで週に五日間。残りの二日のうち一日は学びをして貰う。先師はエリスの学院から派遣され、学習度に合わせての学びよ。残りの一日は完全休養日となり、食事は日に三度」
やはり、条件に聞き間違いはない。
死を覚悟し、奴隷さえも受け入れる覚悟で、この王に斬り込んだのだ。
それを労役だけでいいというのか。その労役も一定区域を行えば、解放されて帰国できるのか。
「それは、捕虜になった全員が同じなのですか」
「いや、王都に向かうのはおまえたちだけだ。他は国中に散って労務を担って貰う。それも、こちらが決めた作業内容でだ。だが、待遇面は同じだ」
「私たちだけが王都ですか。どうしてなのでしょうか」
「おまえたちの監督をする二人の都合だ。カザム、二人をここに」
その言葉に、
「承知いたしました」
どこからか声が聞こえ、入って来た扉が再び開かれた。
そこに立っているのは、二人の青年。
彼らが王様付きの政務官ではないのは、その緊張した面持ちからも明らかだ。
「ロークとリプラムという。この二人は、おまえと同じ軍人だ。この二人を王都の士官学院に通わせるようになるから、その都合でお前たちを王都に移送する」
「士官学院ですか」
尋ねたのは、がっしりとした身体の青年だ。
「そうだ、ローク。おまえたちは、士官学院で戦のことや兵への接し方を学び、軍の中枢に入るための学びをする」
戦のことを学ぶ学校。父上がよく言う軍略のことか。そんなことを学ぶ学院が、エリス王国にはあるのか。
だが、なぜ若いこの二人が、私たちの監督になるのだろうか。
「おまえとローク、リプラムは敵ながら共通点も多い。一緒にいることで学ぶことや気付きもあるだろう。三人に良い刺激になるし、成長も出来ると思っている」
学び、気付き、成長。敵として斬りかかった私にもその対応なのか。
ただの軍務司士相手に恩を売ることも、手なずけようとすることも意味はない。求めている事が分からない。
「畏れながら、国王陛下。共通点とは何でしょうか」
もう一人の若者が、礼を示しながら口を開いた。
「それは、おれに聞くことではない。話してみれば分かることだ。ローク、リプラム。この者は武具を手放した以上、今は敵ではない。それを忘れるな」
その言葉が合図だったのだろうか。
印綬の継承者と政務官が立ち上がる。
私もその動きに促されるように、立ち上がると礼を示して部屋の外へ足を向けた。
「初めましてだな。オレはロークという、元近衛騎士長になる」
部屋を出ると、がっしりとした若者が顔を振り向ける。
「ぼくは、リプラム初級兵になります」
もう一人の若者もそれに応えた。
私は、捕虜の私は言うべき言葉を持たない。
それでも、二人は私に顔を向けたままだ。
「私は、リルザ王国の軍務司士、ネビルと申します」
頭を下げる。
「そうか、第何軍になるのだ」
「いえ、私は王宮守備隊の軍務司士です。エリス王国に来たのは、バルキア様の補助をルビル様に依頼されたからです」
答えながら、彼らに続いて政務官たちの並ぶ部屋を出た。
続く部屋も多くの軍務司士たちが、書類を手に忙しく働いている。その間を抜け、廊下に出るとやっと息を付けた。
「ところでぼくには、まだ何の指示も来ていません。ローク様は士官学院とかについて何か聞いていますか」
リブラムも息を付いてロークに顔を向ける。
「士官学院が将校を育成する学院であるとは、カザム殿から聞いた。しかし、そこにオレが行くことは今初めて聞いた」
士官学校、将校。どれも初めて聞くことばかりだ。
エリス王は、軍の中枢に入るための学院だと言っていた。軍の中枢と言えば軍務司長だろうが、その為の学院なのだろうか。
「ぼくも何も聞いてはいません」
「それは、これからだ」
不意に背後から声が聞こえた。
振り返ると、いつの間にそこに来たのか、男が壁に背を預けて鋭い目を向けている。
同時にリプラムが礼を示し、遅れてロークも礼を示す。
平服を着ているが、軍の偉い人なのだろう。慌てて私も礼を示した。
「ルーフス隊長、どうされたのですか」
「主上からお前たちに詳細の説明と案内をしろ言われてな」
「ぼくたちをですか」
「そうだ。士官学院っていうのはな、軍務の細けぇことを教える学院だそうだ。本当は三年間通うそうだが、戦時だから基礎を数か月で叩き込むとカザム殿が言っていた」
「カザム殿ですか」
頷いたのは、ロークだ。
「それでだ、短期間で叩き込むには広い視野が必要で、おめぇたち二人にはそこのネビルという捕虜との交流がいいだろうとの主上のお考えだ」
私との交流。監督する二人との交流。どういうことなのだろうか。
「ネビル、おめぇにとっても成長出来る機会になるそうだ」
言うと、男は背を見せて歩き出す。
ついて来いということのようだ。
「あの、隊長。ぼくの家はただの平民で、その士官学院に行く学費もありません」
「平民の出、当たりめぇだろ。この国には、もう公貴はいねぇんだ」
そうだ。このエリス王国には公貴はいないのだ。
エリスから亡命をしてきた公貴たちは、口々に王が国を私するために公貴制度を排したと訴えていた。
リルザ王国は、彼らの依頼を受けてエリス王国を正すという大義で軍を起こしたはずだ。
私自身、全ての公貴を廃止する横暴さに、驚きと怒りを感じた。
しかし、政務官にも彼らにも王に対する不満を感じられなかった。現に、ロークという元近衛の騎士長ならば、間違いなく上級公貴のはずだ。
「それにな」
前を行く男が、階段を下りながら続ける。
「おめぇたち二人は、王立軍の正規兵だ。士官学院に学費はなく、衣食住全て提供される。その上だ、棒給もそのまま支払われるそうだ」
衣食住全てが無償で、棒給まで出る。彼ら以上に私が驚いた。
そこまで厚遇されるのならば、彼らの士気も高いだろう。
「ですが、ぼくはルクスもそこまで強くありません」
「ったく、相も変わらず細けぇな。リプラム、ルクスが何だっていうんだ。それにな、おめぇたち三人が一緒にいれば、そのことも分かるだろうよ」
三人、私もその中に入るのか。
だが、何が分かるのだろう。いや、王様の言っていた共通点というのはそこなのだろうか。
ルクスの何かなのか。
「それでは、ここからは命令だ」
男が足を止め、鋭い目を向けた。
「ローク、リプラム。身辺を整え、二時間後に広場に集合。ロークは部下も合わせて集合しろ。彼らには王都で基本訓練を行って貰うぞ。ネビル、おめぇも部下を集めて二時間後に広場に集合。加療中の二人はこのまま置いていけ、骨が固まり次第に送る」
二時間。
それだけの時間しかないのか。すぐに準備を始めないと間に合わない。
私は礼を示すと二人と同じように慌てて部屋へと向かった。
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