王の審問
開いた目に、鋭い光が差し込んできた。
「ネビル様。目が覚められましたか」
あまりの眩しさに目を閉じたが、声で騎馬衛士のソルだと分かる。
どういうことだ。そうだ。私は隆也王に突っ込み、そして倒されたのだ。
ならば、ここは。
今度はゆっくりと目を開く。
大きな窓からは真っ直ぐに陽光が差し込み、身体全体を照らし出しているようだ。
反対側に目を向けると、見慣れた衛士たちの姿が映る。
「ここは、どこだ」
「キルア砦の居館になります。ですが、やっと意識が戻られたのですね」
「やっと……あれから、どのくらい経ったのだ」
「一日です」
一日も意識を失くしていたのか。
居並ぶ衛士たちを見渡した。六十名はいたはずだが、数が足りない。
「他の者は」
身体を起こし、ベッドに座った。
「ノブスとムルゲは骨折をして、医療施設で加療中です。他の十六名は、打撲の治療を受けに行っています」
「加療に治療、エリス王国がそれをしているのか」
「はい。他の者は軽症ですので、薬と聖符を貰っています。ネビラ様は脳震盪とのことで、ここでお休み頂いておりました」
どういうことだ。私たちは捕虜になったのだろ。その捕虜に、治療を施すのか。
捕虜にした相手が公貴ならば、身代金を取るためだとは分かる。しかし、彼ら衛士のほとんどは、平民出だ。
何度か経験した内乱でも、私たちは反乱を起こした衛士たちの治療などはしなかった。
中には、生きていられるのは面倒だからと止めを刺した友軍もいたと聞く。
それに、居館の部屋。
砦の地下にある牢ではないのか。
「この砦に、牢はないようです。我らは、三度の食事とある程度の自由を与えられています」
三度の食事に、自由。
ますます訳が分からない。
「それで、カルディナ関はどうなのだ。まだ、耐えているのか」
私の言葉に、皆が首を振る。
「戦の音は聞こえません。それに、カルディナからこちらに捕獲された資材が運び込まれています」
カルディナ関は落ちたのか。では、父上たちはどうなったのだろう。
息を付くと、それを待っていたように部屋の扉が開かれた。
立っているのは、エリス王国の衛士だ。
「ネビル・ノルク。意識が戻ったか」
部屋の外からでも見ていたのだろうか。
私は立ち上がると礼を示す。
この厚遇に対する礼だ。何を求めているのか分からないが、部下を助けてくれた礼は示さなければならない。
「意識が戻れば、国王陛下より審問がある。ついて来い」
国王陛下、国王直々の審問なのか。
「誰かとお間違いではないでしょうか。私は一介の軍務司士でしかありません」
私の問いに、
「審問は、軍務司士にではない。ネビラ、貴君に対してだ。すぐに同道せよ」
衛士はそのまま身体をずらして道を空けた。
衛士を束ねる職責ではなく、私自身への審問。それに、道まで開けられれば、この寝起き姿のままで行くしかない。
もっとも、着替えようにもその着替えすら持ってはいないのだ
廊下に出ると、階段を上がっていく。
造りはカルディナ砦と同じようなものだ。上がった階数で、入れられた部屋が三階だと分かった。
これも驚きだ。三階と言えば、上級公貴の居室となるはずだ。
考えもまとまらぬうちに、五階の大きな扉の前に案内される。
「あの、やはり私のこの格好では不敬ではないでしょうか」
「恰好を気にされる王ではありません。それに、王もご多忙で、意識が戻ったらすぐに案内するように言われました」
そのまま扉が開かれた。
現れたのは広間だ。
本来ならば、会食に使われる広間のはずだが、机が並べられて軍務司長と五種正装の政務官らしき人々が忙しそうに働いている。
その熱気に圧倒されそうだ。
広間を衛士に案内されて、さらに奥の扉に向かった。
カルディナ関と同じならば、そこは応接室のはずだ。その奥に執務室があり、居室が続いているはずだ。
いや、入った先にも机が置かれて五種正装を身に纏った男女が働いていた。
この戦場に、そして王の側近に女性がいることに驚いてしまう。
違うな。本当に驚いているのは、そんことではない。
政務官が、あの周囲を威圧するような政務正装を身に付けていないことと、ここまで真剣に仕事に打ち込んでいることだ。
リルザ王国のように、寛いでいる政務官がいない。
息を付く私に、
「意識が戻られたのですね。では、王の元へご案内いたします」
まだ若い女性が立ち上がった。
この女性が、この若さで王様付きの政務官なのだろうか。
女性は奥の扉をノックし、それを開いた。
中からは、入ってもいいとの言葉を待たずにだ。リルザ王国では、考えられないことだ。
女性は当然のように入って行くと大きく扉を開いた。
本当に、エリス王国の王と会うのだ。あの威圧感を思い出し、身体が震えそうだ
それにだ。正直、私はリルザの王ですら遠くで見たことがあるだけで、会ったことなどない。
再び息を付いて、私はそのまま足を進めると、部屋の入り口で片膝を付く。
剛体となって威圧感が叩きつけてきた。
礼を示し、口上を伝えようとする私に、
「そんなのはいいよ。それより、こっちに来るといい」
声が降り落ちてきた。
顔を上げると、椅子に座る少年と傍らに立つ少女が見える。
あの少女はすれ違い様に私の槍を断ち切った印綬の継承者だ。
そして、少女からの威圧感は感じるが、王である少年からは威圧感を感じない。どういうことなのだろうか。
「意識は戻ったようだな。おまえに少し聞きたいことがあって、来てもらった。そこに座るといい」
柔らかな声に、足を進めた。
「名前は、ネビル。所属は第一軍か」
「いえ、私は義の印綬、ルビル様の直隷の王都防衛隊になります。今回は、智の印綬のバルキア様の補助に参りました」
「そうか。聞きたいことは二つある。どうして、キルア砦の奪還に気が付いたのだ」
「はい。その考えに至ったのは私ではありません。同僚のマグネと父の軍務司長です。街道を分断するようにダレス街道駅を抑えられたことで、こちらの戦力が集中してしまう。そうなれば、キルア関周辺の軍は移動することになり、手薄になったこのキルア関が危なくなると考えたそうです」
「ほう、同僚と父親か。よく気が付いたものだ」
「はい。知識も知恵も私には敵いません」
どうしてだろうか。この王には素直に話が出来る。
そうか、威圧を感じないのだ。心が平穏のままに話が出来るのだ。
「よければ、教えて頂きませんか。王様と対峙をした時に、その威圧感に恐怖し、身体が震えました。ですが、今はそれを感じません。王様はルクスを抑えられるのでしょうか」
私の言葉に、王は楽しそうな笑みを見せた。
「質問を返して来るか。肚は座っているな。そうだ、おれはルクスを抑えられる」
「失礼いたしました」
頭を下げる私の前に、王はメイスを出した。
私の会心の七連撃を受け止め、叩きのめしてきたメイスだ。
「これはな、おれの印綬になる。この印綬は刀という片刃の剣だが、カルマス帝から貰った鞘を付けている。その鞘はな、斬る必要のない相手には抜けないことになっている。そして、おまえたちとの合戦の時には抜けなかった」
カルマス帝、三帝の一人だ。そのお方から鞘を下賜される。
それに、その鞘から剣が抜けなかった。私たちは斬る相手ですらないのか。
「聞きたいことのもう一つは、なぜ先頭にいたおまえが、中団の軍を率いて反転した来たのか。兵にはどのように伝えたのかだ」
兵、衛士のことだろうか。
「殿軍にいたのは知恵のある同僚でした。その者は今後のリルザ王国には必要な人材の為に、彼を逃がすために反転しました。兵というのが衛士のことでしたら、ただ私は彼らに命を預けてくれと頼んだだけです」
「おれたちの国では、軍を構成する戦士を兵士と呼ぶ。衛士は警備をする者として分けている。これで、おまえのことは理解した」
理解。どういうことなのだろう。
「では、これからのお前たちの処遇の話をしよう」
王様はそう言うと、私をここに案内した政務官を呼んだ。
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