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王旗を掲げよ~胎動~  作者: 秋川 大輝
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反攻


 腰に付けた遠隔書式が動き、背後の並ぶ兵たちに背を向けるように膝を落とした。


「ルーフス、どうした」


 不意に身体を落としたために、傍らからエルドが心配そうに声を掛けてくる。


「第三地点からの連絡だ」


 遠隔書式の紙を取った。

 描かれているは、聖符を思わす模様。

 仲間内で使う暗号だ。文章で書けば文字数が多くなるために、連絡には全てこの暗号を使っている。

 それに目を通すと、エルドにも渡した。


「主上が秘密通路に入った。しばらくすれば到着するから、エルドは通路の確保と迎えを頼む」

「そうか、待ちかねたぞ。全員の準備はすでに出来ている」


 エルドの言葉に、身体を起こした。

 振り返ると、通路には甲冑を身に付けた兵が並び、真っ直ぐにこちらを見ている。


 あっしは彼らを見渡し、

「この狭くて息苦しい場所で、皆よく辛抱したな。それも、もう終わりだ。これよりキルア砦の奪還に向かう」

笑みを見せた。


 同時に、全員の顔にも笑みが浮かぶ。緊張もしていない、力みもない、いい笑顔じゃないか。


「行動は手はず通りだ。一気の制圧には静寂と不意打ちが基本だからな、心して掛かれよ」


 先頭に立って通路を進み、床下の様子を窺った。

 人の気配はない。

 床を上げて、階段を下ろす。


 暗い武器庫の中は、補給品であろう武具が積み上げらていたが、幸い階段の邪魔になることはなかった。

 ゆっくりとそれを下りて、扉に向かう。

 扉の向こう、廊下からは人の気配は感じない。


 指で安全の合図を送り、扉を開けて顔を出した。

 廊下の左手からは広場からの明かりが差し込み、石組みの廊下に濃淡の模様描いている。広場からの喧騒はその石組みに吸い込まれたかのように、どこか遠くに感じられた。

 集中できている証だ。


 ずっと狭い隠れ家に潜んでいたが、身も心も戦う準備に切り替わっている。

 もう一度、指で背後の仲間に安全を伝えると、すぐにエルドたちが音もなく出てきた。

 彼らは廊下を横切って、地下に続く階段に向かう。


 後に続く十人一組の分隊が、それぞれ間隔を空けて陽光へ向けて足を進めた。彼らは城門、守衛棟、厩、それぞれ割当てられた場所に向かう。

 仲間のようにして敵に近づき、一突きでその急所を貫く。この狭い隠れ家で、数え切れぬほどに繰り返し訓練してきたことだ。

 そして、あっしらは。


 背後に並ぶリプラムたち十人を振り返った。

 緊張した様子で、顔を強張らせてやがる。無理もねぇ、こいつらは忍びでもねぇのだ。


「この隊は、王が進めるように広場を掃討する。刃を撃ち合う戦の花形、兵士にとっては願ってもねぇ場所だ。仲間から離れるんじゃねぇぞ、ここを越えれば、お前たちも一人前だからな」


 そう、ここは命のやり取りだ。相手も殺す気で斬りかかって来る、戦場だ。

 生まれ変わってやり直す。そんな甘えた考えなど簡単に吹き飛ばしてしまい、己自身が露わになる。そんな死地だ。

 そして、そこを潜り抜ければ、本当に肚も座ろうってもんだ。


 廊下に足を進めた。

 不意に腰に付けた遠隔書式が持ち上がり、紋章のような図柄を描く。

 一族の連絡表だ。


 ――第三地点にて、キルア関に向かうリルザ王国の騎兵の一団見ゆ、数は百。街道の荷馬車を排除し、抜身の槍を揃えて駆けている――


 同時に、

「そこの武器庫より、槍を取れ」

リプラム達に言いながら、廊下を駆けた。


 第三地点と言えば、ここからは目と鼻の先だ。抜身の槍を揃えて疾駆する騎馬は、突撃体制を現している。

 くそっ。ラベルス街道駅、ダレス街道駅に敵戦力が集中するために、監視の一団を移動させたのが裏目に出やがった。

 この逆侵攻を読んだ者がいたのだ。主上たちと同じ読みをした者がいたのだ。


 すぐに守備を固めねぇと。

 広場では、厩を制圧した一隊が鞍を付けた馬を引き出している。もう一隊は補給品を積んだ荷馬車を寄せていた。

 そして、階段を上がってきた主上と城門の上から手を振る仲間が同時見えた。


「主上たちを馬へ。他は騎馬を迎え撃つ」


 駆け寄るリプラムから槍を受け取ると、あっしは城門に駆けた。

 あっしの動きに呼応するように、仲間たちが荷馬車を城門の前に動かそうとする。

 さすがに心強い一族だ。城門からのサインとあっしの動きで、何が起こっているのかを瞬時に理解したのだ。


 それでも。

 城門を閉めるのは間に合わねぇ。ここは、あっしらで食い止めなければ。

 広場を封鎖するように寄せられる荷馬車を踏みつけ、跳ぶ。


 城門に迫る騎馬の一団。

 前列の騎馬が槍を振り上げると、突っ込んでくる騎馬隊は単縦陣から三列縦隊に一気に変更した。

 そのまま突っ込んで来やがる。一糸乱れぬ隊列の変更に馬足の合わせ方、こいつらは訓練された正規軍だ。それも、精鋭と言ってもいい。


 騎士が槍を倒した。

 あっしは顔を振り向ける。主上たちは引き寄せられた馬に手を掛けていた。護衛の騎士たちは騎乗を止めて、槍を手に左右に展開している。

 大丈夫だ。主上たちも状況を理解している。


 顔を戻すと同時に、大きく槍を振って構えた。

 すでに敵は目前だ。

 先頭の騎馬が強く地を蹴る。


 封鎖しようとする荷馬車を飛び越え、突っ込んで来やがった。

 振り上げる槍はルクスに阻まれ、逸らされる。

 いや、その上から抑えるように走るのは、敵の槍だ。


 身体を回転させ、それを躱しながら大きく槍を振り回した。

 しかし、これも続く騎士のルクスに阻まれながら跳ね上げられ、掻い潜るように槍を撃ち込んでくる。

 何だ、こいつらは。とんでもなく鍛えられていやがる。撃ち込まれる槍を避けようがねぇ。


 思ったと同時に、その槍は弾かれた。

 横に立つのは、リプラムだ。

 リプラムは弾いた勢いのまま槍を跳ね上げる。


 三騎目の騎士のルクスに青い光を散らした。同じ場所に、あっしも槍を送り込んだ。

 今度はそのルクスを破り、肩当てに火花が飛ぶ。

 しかし、その目の前を次々と騎馬が跳び抜けていきやがる。主上たちは大丈夫か。


 背後が見られるように、槍を振りながら足を踏み変える。それに呼応するように、リプラムが身体を入れ替えた。

 こいつ、目配りが出来てやがる。

 あっしのこの動きだけで、リプラムは意図を汲み取ったのだ。


 いや、他の兵も同様に、密集隊形を取ろうとしてやがる。何だ、こいつらも精鋭になりつつあるじゃねぇか。

 主上は。

 先頭の騎馬が主上たちの横を駆け抜けていく。まだ、追撃の態勢が取れてねぇ。


 わずかに遅れて、左右に展開した騎士たちが槍を撃ち込んだ。

 さすがにこちらも鍛えられた騎士たちだ。その左右からの撃ち込みにルクスが瞬き、血が噴き上がる。

 いや、それに対応するように駆けていた三列縦隊の両端が左右に分かれ、馬首をこちらに向けてきた。


 どういうことだ。

 中央を走る数十騎はそのまま駆け抜けていく。

 あの中央の騎馬隊を逃がすために、左右の騎馬隊はここに踏み止まるつもりなのか。


 新たに突っ込んでくる騎馬に、槍を振り向けた。

 その間にも、後続の騎馬は荷馬車を飛び越え、先頭の騎馬を追っていく。

 やはり、そういうことか。


 中央を駆ける騎馬隊を逃がし、左右の隊が捨て駒となって、ここであっしらの足止めをするつもりなのだ。

 本来ならば、最後尾を受け持つ殿軍が足止めをして前を逃がすはずだが、どういうわけか殿軍も逃がしたいらしいな。

 主上は。

 主上たちは馬に乗っている。その右にはサラ殿、左にはラムザス殿まで控えているじゃねぇか。

 これで安心できる。


「野郎ども、続け」


 声も枯れじと叫びながら、あっしは先頭の騎馬に向けて突っ込んだ。


読んで頂きありがとうございます。

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