南蛮鎧
西洋の鎧を模倣した胴は、黒く輝いていた。
肩当と腰当ても黒く、掛けられたマントも漆黒だ。
どう見ても悪役の衣装で、魔王のイメージしか出ない。中二病を患っているならば、かっこいいと思うのだろうが、そうでないおれには、ただ恥ずかしいものでしかない。
王権移譲に合わせて、創聖皇から下賜された甲冑だ。
こんなものを身に着けて動けというのか。
あのユニコーンのような人を乗せない聖獣に、この甲冑。創聖皇とやらのセンスを疑うぞ。
「隆也」
不意に掛けられた声はレイムのものだ。
どこか深い声音に感じるのは、たぶん同じ思いなのだろう。
「なんだ」
「やはり見惚れてしまうほどに、立派なものだな」
レイムがしみじみと言い出す。
何を見ているんだ、こいつは。
「こんな所にいたのね」
言葉を失くすおれの耳に、サラの声が飛び込んできた。
「まさか、宝物庫にいるとは思わなかったな」
後に続くのはラムザスたちだ。
「やはり、隆也もその鎧に見惚れてしまうか」
アレクやシルフも宝物庫に入ってくる。
「そう、見たこともない鎧。強さと威厳に満ちている」
おいおい、一体どういうセンスをしているんだよ。
おれはお前たちのような鎧がよかったよ。
横に並ぶ甲冑を見る。
サラの白銀の優美な鎧にラムザスの真紅の重厚な鎧、アレクの緑の鎧は肩当が大きくシルフの青い鎧は軽快そうだ。
そして、そこに付くマントは全てが純白になる。
おれもそっちの方がいいよ。これでは、第六天魔王の信長じゃないか。
溜息しか出てこない。
彼らに魔王と言っても理解できないだろう。この世界には悪魔とか魔という概念すらないのだ。
全ては、創聖皇が創られた尊いものしかない。
「どうしたのだ、感慨深いのか」
サラが隣に腰を下ろした。
そんなんじゃないよ。
おれは大きく息を付いた。
「戦う覚悟は出来ているが、人を殺す覚悟がまだ出来ていない」
ラミエルとの死闘で何十人、何百人と巻き込み命を奪ったが、自らの刀で人を殺す覚悟がまだない。
殺さなければ殺される、殺さなければ民が死ぬ。
頭では分かっていても人を殺すのは怖い。
だめだ、もう少し時間が掛かりそうだ。
「近隣商業ギルドの荷馬車が外東の街道駅に入り、他の荷馬車は国境を抜けるそうよ。リルザはそろそろ動くころね」
おれの言葉を聞き流したのは、サラなりの気遣いだろう。
覚悟に時間が掛かることを知っているのだ。
「でも、隆也に真獣がいないのは問題」
シルフが呟くように言う。
真獣ね。
おれだってやっと馬に乗れるようになった。そうなれば、真獣が欲しいさ。
「聖獣の主人には真獣は持てない」
レイムが代弁するよう口にした。
聖獣がいるから、おれには妖獣を真獣には出来ないそうだ。おれを乗せない聖獣だぞ、理不尽じゃないのか。
「だから、隆也には馬を用意したわ。この国一番の駿馬よ」
駿馬ね。
「ありがとう」
そう言うしかない。
「それで、隆也よ」
ラムザスの声が重い。
「我らもすぐに動くようになる。軍の連携は遠隔書式で行うが、国体の変革はどうする。まだ途中で、止めるわけにもいかないだろ」
「そうよね。特にわたしとシルフはその場所に行くことも必要ね」
軍の指揮に戦場に行き、今行っている変革が出来なくなることへの危惧のようだ。
「その為の秘書官だ。秘書官と政務官を戦場に同行する。王宮と各地区の政務官、そして戦場の秘書官との間に遠隔書式を用いた連絡網を作る」
「それでは、実際にそこに足を運べない」
シルフが顔を向けた。
シルフも完璧主義だからな。全てを自分が見ないと納得できないのだろう。
「少しは政務官たちにも任せろ。基礎的なことは確立させた、後は彼らでも出来ることだろう。それよりも、おれたちは国土と民を護らなければいけない」
「それは、分かる」
「でも、銀行はもうすぐ開設。予算もあり引き延ばせない」
予算、戦費のことだ。
確かに、このままならばこの国は破綻するしかない。回避するには、自国紙幣の流通と戦時国債の発行だ。
行き過ぎたインフレにならないように、流通紙幣の管理も必要だろう。
「シルフ。しかし、それも戦場に立っていても王立銀行にいても同じはずだ。すぐに出来ることは限られている。ならば、おれたちは政務官を信じよう。王宮に残った彼らは、清廉で優秀だ」
おれの言葉に、シルフが黙り込んだ。
それしかないことに、シルフも分かってはいるのだ。
「明日には軍を動かす。キルア砦でしばらく時間を稼いでくれるはずだ。その間に展開しないといけない」
「そうだな。それで、隆也。ラウゼンを覚えているか」
サラが尋ねて来た。
ラウゼン、もちろん覚えているさ。王になる前、藤沢と山本がいた時に護衛についてくれた騎士団の団長だ。
「外東守護地の騎士団だったが、今は王立軍に編入されている。彼らを隆也に付けた。近衛の後衛ということにしているが、近衛よりも役に立つはずだ」
それは助かる。正直、名誉職にしか過ぎない近衛騎士団など役に立たないと思っていたところだ。
ラウゼンならば、信頼も出来る。
「ありがとう」
今度のありがとうは、心からの言葉だった。
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