王宮官吏の反発
「隆也」
フレア女王たちが出ていくのを見送ると、わたしは身体を乗り出した。
「あのセリの答え、どういう意味なんだ」
「サラ様、私も知りたいです」
ダリアも駆け寄ってくる。
あの青年の答え、どうしても分からない。一人でどうする気なんだ。
「ダリアならば、どう答える」
隆也の問いに、ダリアが頷くと人数と期間を上げていった。
そう言えば、ダリアは自分の領地で炭焼きをしていたと言っていた。彼女なりに考えていたのだろう。
「それは問いかけに対して、生産を開始することを前提にしている。でも、質問の意図はどれだけ早くに炭が用意できるかだ」
「買い入れればいい」
シルフが呟くように答える。
「そう、三万本の木を商業ギルドに売る代金で、炭を一万本買い付ける」
「でも、それでは炭の値段が高くないですか」
さすがにダリアは計算が早い。
「山の木を伐採するのだ。放っておけば荒れるだけになる。セリは山一つあればと先に言った。それは余った木の販売の代わりに、植林を依頼するということだ」
そうか、商業ギルドを通すから隆也はこのエリス王国ではなく、ラルク王国として考えるように言ったのだ。
しかし、それだけであの答えを導き出すのか。
隆也が笑ったのも理解できた。
「上辺を少し見せてお茶を濁そうかと思ったが、あのセリという者には通じそうにない。厄介な相手を置いていくものだ」
「国体を全て見られてしまう」
シルフの言葉に、また分からなくなる。
国体を見られて都合が悪いのか。
「国全体の作り変えだ。最初に行うのはリスクが伴う。前例を見て検討するのとはわけが違う」
レイムが怒ったように言った。
そういうことか。ラルク王国はこの国の状態を見ながら、一新される姿を観察できる。失敗すればやめればいいし、一新されるならば国情に合わせて修正すればいい。
それをわざわざ見せるのも癪だな。
「どうするの、隆也」
「さて、どうするか。幸い、残るのは一人だ」
言いながら、わたしに目を向けてきた。
まさか。
「そうだな。一番見られても構わないのは、そうなるな」
「ここは任せるのがいいだろう」
ラムザスとアレクが次々と言い出す。
ちょっと待ってよ。
「あのねえ、こちらも大変なのよ」
「でも、教育と警備だろ。どれほど見られてもいいじゃないか。我は軍の編成だから、他国の者には見せられない」
ラムザスの言葉に、
「シルフは通貨と銀行の精査、とても無理」
シルフが目を逸らす。
「アレクの所は」
「俺は商業ギルドとの決別だぞ。無理に決まっているだろう」
それには返す言葉もない。
「あの賢者が勧めた者だ。よほどに優秀なのは分かった。ならば、サラの相談相手にすればいい」
相談相手って、簡単に言うわね。
しかし、これ以上は聞き入れてむくれないのだろう。
「分かったわよ。それで、わたしの職務以外で質問をされたら、どこまで答えればいいの」
「知っていることで構わない。下手に隠せば、不信しか生まれない」
「知っていることを話してもいいの」
「サラなら、問題ない」
シルフも頷く。
何、なんか腹が立つんですけど。
わたしの知っていることは問題ないの、それともわたしが理解していないから問題ないの。
「もういい、聞かないから。それで、学院の計画は出しておいたけれど、見てくれたの」
「任せる。おれの承認なんかいらないから、好きにしてくれ」
またこれだ。
簡単な概略を言われるだけで、後は全て丸投げしてくる。
ただでさえ、警吏の選抜に官舎の準備に追われているというのに。
隆也は、隆也は、隆也は。こっちのことも少しは考えて。
「ルクス学の留学生だが」
隆也の声が聞こえた。
それは無理よ。
さすがに叱りつけようとした口は、
「カザム」
呼んだ声に閉じられる。
「選んだ十人を王宮に呼んでくれ」
「かしこまりました」
どこからか声が聞こえた。
あの会談の間、カザムはこの部屋のどこかに潜んでいたのか。
いや、陰ながらの護衛では当然のことなのだろう。他国の元首がいるのだ、万が一のことがあってもならない。
だけど、そんなことより。
留学生の十人はカザムたちが探していたのか。だったら、以前から隆也は今日のことを見越して手を打っていたことになる。
あの隆也がそこまで考えていたのか。
それ以上に、カザムたちはどれほどの仕事を押し付けられているのだろう。
「主上」
再び声が流れてくる。
「どうした」
「内務大司長の秘書官が来ております」
その言葉に、わたしも含めて皆の顔が曇った。
ダリアはセリの宿舎を手配に行っている。それでは、ここに迎えるしかない。
まだ来ているのは秘書官だからいいが、その後ろには激高する王宮官吏が連なっているはずだ。
「アレク、その秘書官を通してやってくれ」
「いいのか」
「秘書官も上から怒鳴られてきついだろう。ここで追い返せば矛先はその秘書官にも向く」
案外、優しいことを言う。
しばらく待つと、遠慮がちに扉が叩かれた。
すぐにアレクが扉を開く。
立っていたのは、憔悴しきった女性だ。
その顔色を見ただけで、如何に過酷な状況なのかは理解できる。
同情するわ。
「内務大司長からの伝言か」
隆也が顔を上げた。
その一言だけで、彼女の背筋が伸び、緊張が走るのが分かる。
無理もないわね、普通は王が直々に話をしないのだから。でもね、前に座っているの隆也よ。
ここでは、常識は通用しないの。
「は、はい。今朝の就任の儀の国体の一新の件で、納得のいきかねることがあるそうです」
「公領主制の廃止に、公貴の廃止だろ」
「はい。その通りです。相談もなしに強行されるのは、王宮の上級政務官をないがしろにする暴挙で、すぐにでも王自らの説明と撤回をして頂きたいとのことです」
その言葉に、隆也が笑った。
「ここでは気を使うな。秘書官の名前はハミルと言ったな」
「はい」
隆也の笑いに、ハミルは余計に緊張しているようだ。
「まあ、そこに掛けるといい。言われたのは説明と撤回ではなく、謝罪と撤回だろ。言葉を飾る必要もない」
「あの、ありがとうございます。それで、すぐに返事がなければ、全ての大司長以下司長クラスは辞職をさせてもらうとのことです」
やはり、そうなるのね。
隆也もそれを予想して特命政務官を作っていたみたいだけど、それでは数が足りなすぎる。
分かってはいたことだけど、これでは国が沈みかねない。
どう対処すればいいのか。
わたしも隆也をもう一度説得しなければならなかった。
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