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王旗を掲げよ~胎動~  作者: 秋川 大輝
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覚悟

 

 真獣に乗ったサラが手を上げ、僕も礼を示した。

 真獣ならば、王都に着くのも時間はかからないだろう。この馬車が早いとはいえ、まだ数日は掛かってしまう。

 ミルザも聖獣を見たいと言い出して、サラと一緒に先行するようだ。


 その後ろ姿を見送り。

「アムル、どう思う」

フレアの重い声が流れた。


 聞いているのは、エリス王国についてだ。


「まず、王も印綬の方々も信頼は置けます。ですが、問題が一つ」

「国の行く末だな」

「その通りです。先ほど、遠隔書式で商業ギルドからエリス王国と距離を置くように依頼がありました。食料にも困るような状態で、商業ギルドを敵に回せば沈むしかありません」

「それで」


 続けた質問は、ラルク王国の対応だ。


「まず、商業ギルドからの依頼は、王宮からの連絡ミスということで無視します。そして、奴隷解放に伴い、食糧支援は行います。しかし、こちらも無限にあるわけではありません」


 僕の言葉に、フレアが頷く。

 しかし、頷くだけで声は発しない。

 この五年の間に、彼女は成長している。女王として、臣下から聞く姿勢を持っている。

 フレアが聞いているのは事実の羅列だけでなく、踏み込んだ僕の意見だ。


「それでも支援をすべきだと考えます。理由は二つ、創聖皇が用意された王だからです。このまま国を沈めてしまう愚鈍な王とは思えませんし、創聖皇から直接示された指針も気になります」


 もし、世界が動くならば。もし、創聖皇が動くならば。

 ここで道を間違えれば、国の存亡が掛かってくる。


「もう一つは、その王旗。武を外に向ける国になるならば、ラルク王国と同じです。向かう先は二つしかありません」

「敵か、味方か」

「はい。ここで、早急に敵に回さずとも、恩を売って味方に付けるが得策です」


 その言葉に、初めてフレアは笑みを見せた。


「分かった。そうしよう。それで、輸送の件だけど何か考えはある」

「同じ援助でしたら、効果はより大きなものにすべきでしょう。すぐに食料を港に集めさせ、外洋船も集めるべきです。理想は、次に隆也王に陛下が面談されたおり、第一便が出発したとの報告です」

「最終の協定を結ぶ前と言うことね」


 フレアの目が輝く。

 十分に理解をしたと言うことだ。


「誠意を見せることが、次の会談の要衝になります」

「アムル、すぐに手配をして。それと、これらの食糧は無償にて提供よ」


 あぁ、ぼくの女王は本当に大きくなられた。

 物事の本質を理解する知恵と、大きな器を持たれた。


「承知致しました」


 僕は遠隔書式のケースを取った。


「それで」


 ペンを走らせる僕に、重い声が掛けられる。

 先ほどの明るさはない。そうなれば、内容は一つしかないはずだ。


「フレア女王の御意向のままに」


 僕の言葉に、フレアの溜め息が重なる。


「それを考えている」

「セラくんは、僕も期待した修士でした。あのままいけば、国を支える一人になっていたでしょう」

「吾は、それ以前にあの純粋な目が忘れられない」


 ペンを走らせ終え、顔を上げた。


「隆也王が言っていたように、セラくんに妖気を与え続けて過剰なルクスを纏わせたとしたのならば、相手は組織的な動きをしています。一公領主などでは出来るはずがありません」

「セラを攫い、そこに売った者がいる」


 フレアの目が燃えているようだ。


「はい。そこで彼は、死の苦しみを感じ続けました」


 僕は渡された鉄片を出した。


「このナイフ、隆也王は見れば分かるなと言いました。もちろん分かります」


 その錆びた鉄片を手を伸ばすフレアに渡す。


「もともとは、僕が磨いて錆一つないものでした。その汚れと錆、それは彼が握りしめて流した血と涙で錆びたものです」

「これがか」

「はい。よほどの苦しみの中、このナイフを握り締めて耐えていたのでしょう。そして、自分が何者かも分からぬほどに自我が崩壊しても尚、そのナイフを手放さなかった」


 よほど苦しかったのだろう。

 そして、僕の助けを求めたはずだ。

 でも、僕は助けてやれなかった、何もしてやれなかった。


「どう、する」

「僕は個人的に動きます。帰り次第に外北守護領地に乗り込みます」

「やはり、あそこか」

「新たな公領主は、ジムザ公が選任しました。そして、外北守護領地の商権を握っているのは、重商連合です」

「それをアムルが一人で行くのか」

「そのつもりです」


 答える僕の目をフレアの燃える瞳が射貫いてくる。


「吾も怒っている。吾の民を攫って酷い苦しみを与えた。それを許すわけがない」

「ですが、ことは公領主の詰問と法の裁きです。他の公貴の反発も招きましょう」


 言いながらも、それ以上は止めようがないかもしれない。

 隆也王が、公領主を追放し守護領地を直轄地にしたと聞いたのだ。フレアの思いは、痛いほど分かる。

 しかし、エリス王国とは状況が違い過ぎた。


「ラルク王国は安定し、民にも余裕が出来ました。これは、公貴にも当てはまります。公貴は力を付けています」

「でも、反乱は天逆よ」

「首謀者は表に出ません。地方の食い詰めた公貴に罪を被せ、裏で指示をするだけです。天逆の罰は国にも下りますが、裏に隠れた者を炙り出すわけではありません」


 僕の言葉に、フレアは唇を噛む。


「ここは、僕一人で動いた方がいいです。それに――」


 続ける言葉は、膨れ上がるルクスに止められた。

 フレアはルクスを抑えることは出来ないはずだ。感情にルクスが引き上げられたのか。   

  こんなものは初めて見る。


「水が汚れるならば、壊してしまえばいい」


  水は高き所から低き所へ流れる。高き所で汚れた水は、浄化されることはない。

  それに対して、フレアが修士だった時に出した答えだ。


「今壊せば、水は溢れ出します。内乱になります」

「それがどうかしたのか」


 フレアの目は燃えたままだ。

 覚悟を決めている。

 しかし、その危うさが心配になった。

 フレアはセラの死に対して怒っている。セラを攫い、ラミエルのようにした何者かに対して、怒っている。

 ルクスも覚悟も、その感情に流されているのではないのか。


「アムルが一人乗り込み、公領主の罪を暴いて捕らえる。他の公貴、公領主に知られる前に王宮から罪状の発表をすることで反発を抑える」


 フレアの呟くような声は、冷静そのものだ。

 そして、ぼくの行動を読み、その結果まで見渡せている。それを踏まえた上での、覚悟なのか。

 感情に流される。いや、その感情が聖法、聖統なのか。


 創聖皇の示された国の指針、武を持っての内を整え、外を正せ。その言葉が交錯した。

 守りに入り、現状を守ろうとしているのは僕なのか。

 慣習に囚われていたのは僕なのか。


「フレア陛下」


 席を立つと、狭い馬車の中で臣下の礼を取った。


「改めてご指示を。このアムル、陛下のご意向とあれば必ずやそれを果たします」


 王の決断が下りれば、それに従うのが臣下の務めだ。


「アムル」


 フレアの声が落ちて来た。


「吾は、吾の民を攫い、売り払う者を決して許さない。例え、反乱が起きようと許さない」


 これは、女王の決断だ。

 覚悟の上に成り立つ決断。


「承知致しました。すぐに国には軍の編成指示を出しましょう。その指揮は、僕自身が執ります」


 もう一度礼を示した。


読んで頂きありがとうございます。

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