嘲る雷光
ちょい短いけどキリの良さ的に
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――雨が降っている。都市を覆い尽くす分厚い暗雲。灰色の雨は碧の電光に照らされ光艷やかに夜の底を打ち付けていく。
「ふん、……せっかくのお出かけだというのに雨なんて、ワタシは運がないなぁ」
エイン・ルシフェラーゼは素裸のまま鬱屈そうにエーテル電光の職員へぼやいた。都市を巡るエーテルそのものである彼女は、自在に身体の形を変え整えていった。
乳房が、軍用機のように無駄のない優美さを見せ、肢体は引き締まった筋肉を模倣していく。自分自身を完全な姿に作り上げると、そっと腕を伸ばし広げた。
秘書にスーツを着させコートを羽織らせる。最中、自身は悠々とエーテルの原液を何瓶か飲み干すと、デートの準備でもするかのように長い黒と碧の髪だけは自分の手で整え直していく。
グレン・ディオウルフは思っていた以上に素晴らしく有能で、直接回収しに行かないと逃げられてしまうから。
【碧靂】としての装備を準備していく。
「はぁ……お気に入りだったのに。大切に、大切に、綺麗に磨いた碧色が……」
心底ショックだった。
青色の便利屋を殺して得た完成された肉体に、異性として好ましい人格を着せて、最後の仕上げに自分の血と眼まで与えたのに。
今となってはワタシの眼を抉り出して食べてしまった。もう彼の視界を覗くうこともできない。
――心底ショックだった。
彼は言うなれば宝石のようなものだったから。
べたべたと触りすぎないように細心の注意を払いながら、時折手元に転がしてみたり、手入れをしてきたというのに。
少し目を離した隙に違う女がワタシの造った傑作に手をつけて、誑かして、青色に濁らせてしまって。
「アズレア・ファリナセア……」
憎くも美しい同業者の名前を口にした。同じ色付き。とは言え彼女は前任の青色と比べれば大きく劣る。だが、美しい。強く、しぶとく、多感で――ファンクラブにもサブスクライブしていた。
きっとグレン・ディオウウルフと並べたうえで、かの色を稲妻のごとき色彩に染め上げれば光沢を増してくれるだろう。
「ふふん……♪」
考えると無意識に鼻歌が溢れた。
きっとこんなことを誰かに打ち明けても理解はしてもらえないだろう。今のグレンにこの想いを口にしても、人でなしと罵られてしまうだろう。
けれどその通りなのだから仕方ない。だけど、人か人でないかの問題は些細なことだ。彼の友達になってくれていたアレキサンダーとやらの言葉を借りるならば。
好きなことを、したいことを実行するために動いているだけなのだから。
だから理解も共感もなくていい。勿論、可愛いグレンがワタシを肯定して、人と見てくれるならばそれが一番うれしいことだけど。それを求めるには――。
「……育て方を間違えたかなぁ」
大事な彼が映っていた配信画面を覗いてみるも映像はとっくに遮断されていた。他の者のアカウントでも同様。
……配信サイトは違う都市の企業だ。色付きの配信者などという大層なインフルエンサーを損失しないために当然の処置かもしれない。
「ラマファ調汀協会、リード協会、ロレンティーニャ監査、そしてエーテル電光の二課以下の職員及び驟雨線の駅職員の配備連絡が完了致しました。エイン様」
淡々と業務を遂行してくれたのはワタシの可愛い【剣威】だった。
唯一の幸いは彼女が壊されなかったことだ。ずいぶんと傷だらけになってしまったけれど、彼女はグレンと交戦したうえで戻ってきてくれた。
「なら……ワタシ達も配置に向かおうかぁ」
満面の笑みを浮かべた。
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