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終末の青春配信  作者: 終乃スェーシャ(N号)
四章:とまらないで
40/60

青色に近づく

表紙を作成したのでもしよかったら見てくれると嬉しいぞ?

 夜闇は今に自分たちを呑み込んでしまいそうだったのに、夜空は既に光に呑み込まれていた。


 ……呆然としそうになる。敵対したのは色付きだけではない。都市を支配する企業そのものだ。


「グレン、これを……君に預かっていて欲しいんだ」


 気がつけば隣にアズレアがいた。指が絡み合う。


 ぎゅっと、青い炎が継がれた。奥にあった想いを一緒に握り潰すみたいに、指に力が籠る。


「捨てたって構わない。力として消耗したって構わない。ヴェルディオ・レルフの、……君の生前の肉体の持ち主だった者の魂……いや、君風に言うなれば人格かね」


 困惑して可否もできないうちに、青い炎は体のなかに吸い込まれた。


 交わることなく、胸のうちを僅かに灯していく。……心身が青い炎に呑み込まれて上書きされてしまうことはなかった。


「我々は«青き番犬ロスト禁章・ファーディア»で誓約した、互いに守るという近いを破って――死んだ。いいや、死んだから約束が破られたのか? ……本当はな。これで君を上書きしようと思ったんだ。関わりのある肉体でないと長くはいられないからな。だから君に近づいたんだ。……最低だろう」


 ニヤリと、開き直るようにアズレアは自嘲したが。強がりにすらなれない空元気だ。


「……それをどうして俺に。好きだったんじゃないのか? 大切な人だったんだろ……?」


 アズレアが青色の便利屋について語ってくれたときのことが脳裏に過って、否応なく表情が歪んだ。


「好きなんかじゃない。大嫌いさ……。威張ってたくせに死んだのだからな。だから殴ってやりたかった。バカが。バカがって。罵って……謝りたかった。……大切な我が師だ」


 声を震わせながらもハッキリと。アズレアは誇るようにそう断言した。


 同時、グイと力強く両肩が握られて。額がごちんと、音を立てて重なった。


 引き攣った相貌が目と鼻の距離にまで近づく。心臓が、こんな状況でも強く脈打つ。


「だが、グレン――……グレンを塗り潰したくない。グレンが塗り潰されるのも嫌だ。我にとって君は大切なんだ。バカみたいだろう? とんだ戯けだろう?」


 アズレアは全てを曝け出していった。


 弱さも、醜さも。全てを露わにしながら上擦った声が途切れていく。


「君は師匠じゃないし、弱っちいし、叶いっこないくせに無謀でバカで格好つけだが……大切なんだ。これを持ったままでは君と対等でいられないんだ。…………だから、渡した。……力になれるかも……しれないしな?」


 アズレアは滲んだ涙を拭うと、決然として、別れを決意するみたいに笑みを浮かべた。


「…………アズレア」


 静かに名を呼んで、応えるようにジンは胸に手を置いた。目を見合わせて、アズレアの双眸に映り込む自分自身に辟易した。


「覚悟が足りなかったのは……俺だ」


 アズレアの首に掛けられていた«第六視臣フロスベルフ»を手に取った。


 そして、この身体に埋め込まれた碧の眼に触れて、指を深く突き入れていく。


「……ッがあああああ……!!!」


 瞬く間に狂い叫びたくなる激痛が走り雷撃が眼前を迸るなか、抉り込み、――【碧靂】の眼を引き抜いた。


 エーテルの血がどろどろと顔を染めていく。夜を照らす蛍光が飛び散って流れていく。


 グレンは埋め込まれた彼女の眼をそのまま口に放り飲み込んだ。雷撃が内臓を焼いて、尽きない雷撃がエーテルの血を活性化させていく。


「……最初からむしろこうすべきだった。利用できるものは……全部利用してやる。俺は青色に近づかなきゃいけなかったんだ」


 空っぽになった瞳に、«第六視臣フロスベルフ»を押して埋め込んでいく。【剣威】のように、傷はすぐに塞がっていった。埋め込んだ目に神経が結びつく。


 視界はどんなときよりも冴えていった。困惑するアズレアが視界に映って、どうしようもなく愛おしてくて頬を撫でる。


 柔らかな相貌にエーテルの血が付いてしまって、慌てて拭いとると、少し不満げに青色の視線が見上げた。


挿絵(By みてみん)



「……ええい、子供扱いするな」


 手が振り解かれても構わずに頬を撫で直す。本能的な衝動だった。


「うぅ……。小動物みたいな扱いもやめろぉ……」


 恥じらいとプライドが交錯する小さな呻き。アズレアは手を払うことをやめて指に顔を寄せていく。


「……好きなんだよ。アズレアが恥ずかしがるとこ、笑うとこ……全部。強がりなところも、飄々と振る舞ってるときも。青色に持っているプライドも……ぜんぶだ」


 グレンからしてみれば告白でもなかった。ただの感情の吐露でしかなかった。抑えきれない衝動に対する言い訳だった。けれど歯止めが効かなくなるみたいに、アズレアは口を小さく開いたまま硬直していく。


 拒絶することなく、小さくぎゅっと目を瞑り、背を撫でる手に力がこもる。体が密着していく。そして――。


『こちらナドゥル。配信に全部映っているぞたわけが。アズレア様、申し訳ありませんがそろそろ移動をお願い致します。そしてグレン、お前はアズレア様の弱みにつけ込むクソ野郎だ。そちらにラマファ調汀協会が移動してきています。指定されたポイントへの移動を。そしてグレン、お前はアズ――』


 無線を切って、二人して我に帰るみたいに撮影ドローンに視線を合わせる。


“色付きと敵対してイチャつくの無敵か?”


“脳みそ破壊されたけど許した。生きてプレミア配信してくれ。50000L”


“そうだよ。50000L”


 流れていく配慮も秩序もないコメント群を前にアズレアは堪えきれずに上気していった。


「……グレン様、すごかったですよ。この一瞬で大金が、えへへ……。生き残ったら少しでもいいので取り分があると嬉しいな。な、なくてもわたしはか、飼い犬なので……御主人様には従いますけどね」


 引き攣った笑い声を響かせてデレデレと頬を染めて尾が揺れる。しかし空咳をかくと話を切り替え、真剣な眼差しに戻った。


「……コホン。ナドゥルのクソが指定した場所は一等区のロミロミリゾートの――」


 エーテル電光に所属する者とその親族だけが居住できるエリアだ。


 スラムと違って黒い海の浸水もなければ怪物の死骸が漂着することもないし、昼は燦々とした太陽を浴びて、夜は蛍光生物の照らす輝きを享受できる。


 ……本社が位置する区画でもあった。


「――駅です。管轄は驟雨線スコールライン。エーテル電工の下部組織で霧機関と生体発電技術で武装した駅員がいるので注意するようにと。可能なら都市外へ向かう鉄道へ乗れれば脱出できますが、不可能だと判断次第、線路を徒歩で移動するようにと」


 端末に地図データと経路が送られていく。幸い、距離は遠くなかったが。コードウォーカーの支社を経由するように指示されていた。


「……急ごう。……アレキサンダー、協力してくれるか? みんなの力が必要なんだ」


「まっかされたのぽー! きっとボク達、友達だったのぽ。だからね、ボクは助けるのぽ」


 無垢な声が夜闇を切り裂いた。ほんの少しだけ涙が滲んで、決別するようにグレンは震える吐息を呑み込んだ。アズレアの小さな手を握り締める。

↓の☆☆☆☆☆ボタンを★★★★★に変えたり、感想をくれるだけでもとても嬉しいなぁ。ぜひともアズレアチャンネルを応援してくれたまえ。感想、ポイント、レビュー、ブクマほんとうに。嬉しいんだ

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