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終末の青春配信  作者: 終乃スェーシャ(N号)
三章:青い決断
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だいっきらいだ

 足音が響き渡っていった。そこがどこかもわからないまま奥へ、奥へと。闇を照らすのは薄気味悪い碧色ばかりだ。クラゲ、クラゲ、水しぶきのように宙を漂うエーテルプランクトン。さながら白血球のように行き先を妨げてきて、そのたびに刃が青く輝いた。グレンが空間を切り裂き、アズレアが青い炎を灯して切り裂いていく。


「随分と慣れてきたものだな? どうかね? 我との逃避行は。危険な匂いがぷんぷんして気持ちいいかねぇ?」


「ふざけたことを……! そっちが付いてきてほしいって行ったんだろ……! 別になんとも思っちゃいない」


 飛び出すみたいに出た嘘に眼を背けて、瞳が映し出す方向へと走り続けた。


 行くべき先はずっと視えているはずだというのに、先が見えない不安が焦燥を湧きあがらせて、駆ける足を急かしていく。


「……ただ、聞かせてくれよ。俺だったやつ……つーか、俺のオリジナルはどんなやつだったんだ? ……その、どういう関係だったんだよ」


 顔を合わせることはできなかった。アズレアがどんな表情を浮かべて話すのか、想像もしたくなかった。


 すぐ後ろで、悩むような呻きが聞こえた。こそばゆいような吐息。


「……性格について言うなら、うむ……そうだな。嫌味なやつだったな。何かあっても俺にしかできないだの、俺だからお前を助けられたとか、そんなのばっかだった。おまけにタコやクラゲだとか。うねうねするものが苦手だった。情けないだろう? そのうえ恩着せがましいしいんだ。我を色付きにしたら上の立場から指図してやるだのなんだの……!」


 愚痴から始まった。言葉に悩んでいたわけではないらしい。すらすらと溢れ出てくる文句。荒々しく吐き出された言葉に込められた苛立ち。


 アズレアの飄々さが、あんまりにも簡単に、幼く剝がれていったから。


 グレンは頬を引き攣らせたまま、絶対に彼女のほうを見ないようにした。冷静さが、刺々しく澄み切って突き刺している。


「そんなのばっかだったが傲慢さはあって当然でもあった。我よりも桁違いに強かったのだよ。異界道具の使い方も、動きも、冷静さも。絶対、絶対どんなやつよりも強かった……。我さえいなければな」


 自分から聞いておいて、グレンは言葉も出せずにぎゅっと歯を軋ませた。痺れて、微弱な電気が迸り巡る苦い味を前に、舌が硬ばる。


「だから――――大嫌いなのさ。威張ってたくせに死んだんだ。強い、強いって言ってたくせに、大丈夫だって言ってたのに……! ……我のせいでな。ハッキリと言うべきだったんだ。だいっきらいだ。調子に乗るな。弱いくせに……とな」


 そんな言葉を聞いて、グレンは初めて振り返った。


 アズレアはすぐに顔をそむけたが、吐き出された言葉は確かに震えていた。


「我は……叶うことならもう一度殴ってやりたいのだよ……。それに……謝りたかったんだ……」


 絞り出すように言い切るとぐしぐしと目元を拭った。奮い立たせるように顔を横に振って、グレンへじっと目を合わせる。


「……グレン、君を初めて見た時……奇跡が起きたと思ったんだ。けど君はグレンだった。グレン……。ムカつくことはあるけど、それをしたのは碧の便利屋だ」


「ッ……名前を何度も呼ぶな」


 調子を狂わされて、思ってもないことを言った。瞬間、揶揄うようににへらぁと、笑みが蕩ける。


「なんだい? 恥ずかしいのかねぇ? グレン、グレン……グレン?」


“いくら払ったら俺の名前でそれやってくれる? 50000L”


“絶対やってくれないだろ。あ〜”


“こんな状況でなにやってんだこいつら……”


 茶化しと妬みが視界を横切るものだから、すぐに理性が振り戻った。


「ふ、ふざけてる場合じゃないだろ」


「ふざけてなんかいないさ。今はもう、君がグレンなんだってわかったのだよ。我は君のこと、満更でもないぞ?」


「……勝手に言ってろ」


「言ってるではないか」


「…………」


 何も言えずに強引に会話を閉ざした。


 進む先に見えるエーテルの沈殿タンク。巨大な鈍色の円筒で死んだ発光生物を分離し、グリーンケーキなる固形燃料に変換するための場所だ。


 地図上は確かに赤い荒野へと向かっているらしいが、……地上の方がマシだった気さえしてくる。


 目の前の敵を避けるために地下を通ってたはずだろう。……思わず頬が引き攣った。


「《月光腸》……」


 グロテスクに伸びうねる紐状の生物が宙を泳いでいた。


 チカチカと碧に、緑に、無数の虹彩を帯びて、鼻につくエーテル臭を漂わせながら。


 ソレに敵意や悪意はなかった。鳴き声も威嚇もない。


 ただ単純に、条件反射のように歯も牙もない口腔を向けていて、迸る微弱な雷光が空気全体に広がって、皮膚が痺れる。


 瞬間、抗いがたい意識の混濁。視界の酩酊。


 グレンは即座に《蒼輝刀》で自身の身体を切ったが、すでに痛みさえも感じなかった。


「……ッー、アズレア……っこれは、まずい」


 言い残すように、グレンは膝をついて昏睡した。アズレアに身体を支えられながら、どうしようもなく暗闇の中へ引き摺り込まれていく。

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