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終末の青春配信  作者: 終乃スェーシャ(N号)
一章:青色の契約(配信者に絡まれ無理矢理アシスタントにされた。逃げれば死)
3/60

簡単なエンカウント

「それじゃあ今一度視聴者さん達のためにここがどこかを教えてあげよう」


 撮影ドローンが周囲を巡る。現在いる場所はこの墜落した設備の中枢だ。しかし電源モジュール、照明、監視カメラなどの装置はどれも稼働することはなかった。


「ここはねー。クライオニクス星間庫っていう企業が作った異星とこの星の交易中継地点だね。あとは企業が大切なデータを保存したりもするけど、基本的には交易品の冷凍保存をする企業で、この施設は冷凍倉庫船って感じかなぁ? まぁ墜落しちゃったわけだけど」


“生存者はいないの?”


“わたしそこ就活落ちたから、墜落万歳。オチただけに……ね”


“売星奴”


 ごく少数のコメント以外は最低なものばかりだった。緊張しているのがあほらしくなりそうで、グレンは眉間に皺を寄せた。


「生存者はいないなぁ。けど怪物に食われた痕跡とかはあったから。宇宙アメーバとかシャッガイの昆虫とか、宇宙か異星のクリーチャーに襲われたのかな。宇宙は危ないからなぁ」


「おい……危ないって言いながらぺらぺら喋りまくるのはどうなんだ? 音が聞き取りにくいだろう」


 カメラが捉える薄暗く無機質な通路。いまだ非常灯の一部だけは点灯していて、うすぼんやりと青い光が見えた。どこか不気味で、どうしてアズレアがこうも平然としているのか理解しがたい。


「嗚呼、君のことを放置しちゃうところだったなぁ。ごめんよ?」


 ヘラヘラと、心のない言葉を口にしてアズレアはグレンの目の前へくるりんと回り込んだ。


「君、君ってやめてほしいんだが」


「ハッ、我のことをアズレアって呼んでくれないくせにかぁ? ダメだね」


 片足のつま先だけで立って背を伸ばすと、それでも届かずにグレンを見上げながらツー、と指で撫でた。ギィと、軋む脚部。


“なんで出会ってすぐにそんな痴話喧嘩できるん?”


“自由を奪われ哀叫するグレン・ディオウルフGB:省略URL”


“朕ならいくらでも名前を呼べるのに……”


 無数のコメントのなかにチラホラと貢ぎが垣間見える。彼らはここでお金を支払って何を得ているのだろうか。


 グレンは疑問に思ったが、厄介ごとが嫌で口にはしなかった。


「まだ冷凍倉庫の区画には行けてないから、探してみようか。何かあるとしたらそこだろうから」


 アズレアはドローンの進む先を移動し始める。わずかに思い悩んだが、グレンはすぐに後を追った。


 通路は迷うことはなさそうだった。曲線状な一本道。進んでいくとそのうち、いくつか扉が見えたが。


「開くか試してみまーす。皆も部屋の先になにがあるか当ててみてね」


“俺の部屋”


“トイレ”


“プレミア公開オンリーしないと出られない部屋。40000L”


“それってセッ”


 ふざけた言葉の渦のなか、アズレアは踏ん張るように扉を掴み引いたがビクともしなかった。分厚い自動扉は設備がシャットダウンしたら金属の壁と大差ない。


「グレン、こわせるかぁ? 我にはとてもじゃないが開かん」


“猫被ってるだろこれ”


“さっき扉にゲッシュして開けてたやん”


“あざとい”


 どうやら力を確かめようとしているらしい。ここにはいない大勢に見られているのが気がかりだが。駄々を捏ねる理由にもならない。


「少し離れてください。無理矢理開けますので」


 深く軸足を整えハンマーを構えた。引き金を振り絞ると激しい雷鳴を奏でて蒼い稲妻が迸る。そのまま力任せに、重々しい金属塊を扉へ打ち込んだ。


 めぎゃりとひしゃげる自動扉。雷槌が深くまで殴打を突き刺すと、勢いそのままに扉が部屋の奥にまで吹き飛んでいった。


“エーテル電光の所有物だなぁって感じの攻撃だな”


“そういえばそれ、スレッジハンマーか”


“俺の次ぐらいにはかっけえな”


 揶揄とからかいと称賛。照れ臭くて顔を背けたが。アズレアの表情はジっと不満を訴えるようだった。


「さっき我に音だのなんだのと言うたわりには随分、動画映えをしてくれるなぁ? 我より派手なのは気に食わん」


「扉を開けるのに必要な音と、ただ騒いで不要な音を立てるのは違うと思うんだが」


「はっ、屁理屈だのぉ。結局大事なのは結果だと我は思うんだがね? して、もちろん必要な音を立てたときに発生した遭遇エンカウントの責任は取れるんだろう?」


 それもテストなんだろう。一瞬にして緊張が高まると、うざったるいことにコメント群が余計に増えた。


 どちゃりと、ダクトから不定形の液体が滴り落ちた。動物が腐敗したような赤黒い血肉の体躯。歪に飛び出した牙と目は仮初めのもので、つねに再生と崩壊を繰り返しながらそれは対峙していく。


“キッショ!”


“敗けろ。そのままアズレアちゃんを襲え!”


“AI認識フィルターつけてくれ頼むから。まじできもい”


 あまり応援のコメントはない。アズレアが負けてほしいだとか、目の前の醜悪な不定形に対する苦情ばかり。


「ほれ、君ぃ……ここに来れる程度ならそのスライムもどうにかなるだろう? 我はぜひとも見てみたいなぁ」


 悪辣な笑顔。どうして負けてほしいだとか言われているのかがよく分かる。整った相貌は邪悪に、蠱惑的に。じっとグレンを見詰めていた。


「スライム? これが? お前スライム見たことないだろ……」


“これがスライムなのぉ?”


“そうだよ”


“昔の職場にこいつに似たのよくいたわ”


「本気でスライムだとは思っちょらんわい! 宇宙アメーバだろう? しかもあれじゃ。脳を溶かし食べちゃうタイプ」


 アズレアは声を荒らげながら視聴者に向けて解説していく。ふざけた態度も束の間、どちゃり、どちゃりと。ダクトの隙間、こじ開けた部屋の奥やら。赤黒い不定形に包囲されていった。


「飛沫を間違っても呑み込むんじゃないぞ? 死ぬから」


「わかってるっつーの…………」


 グレンはスレッジハンマーを構え直した。引き金を一度振り絞ると、激しい紫電が迸り、重々しい槌頭が赤熱していく。

君ぃ、↓の☆☆☆☆☆ボタンを★★★★★に変えてアズレアチャンネルを応援してくれると喜んじゃうんだがな?

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