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終末の青春配信  作者: 終乃スェーシャ(N号)
三章:青い決断
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アズレア

 ――旧ルミネンス電光本社は今となってはエーテル電光管轄都市の毛細血管だ。


 企業がメガコーポに食いつぶされた跡地は、都市を支える発光生物らの餌であるエーテルを地下から都市全体に巡らせる機構へと成り果てていた。


 人の立ち入りは禁止されていたが出入り口はいくらでもある。使えなくなった不純物の排出口だ。下水道だとか処理水の出口とでも言えばいいのか。


 黒い海に面した裏路地の区画。かつてのビル街が澱み沈んだ場所を進んでいく。浸水の程度は他と大差はないが。流れの停滞した潮は酷く鼻についた。


「あそこが入口か。最低だな」


 すぐに目的地を見つけることができた。


 海へ流れ落ちていく碧と青色の混ざった液体。かつての通路は水路へと変わり、どろりと粘性を帯びた廃棄エーテルの希釈液を垂れ流していた。


 水音と気泡を立てている。流れ込みのせいか、酸素欲しさにうねうねと、無数の海洋ナマズが泳いでいた。


“汚い”


“そもそもエーテルってなんなの? どういう技術特異点なの?”


“企業秘密だろ……”


 好き勝手に語るコメント。配信は結局停止されないままだ。カメラを止めようが居場所はバレ続けているらしい。……仕組みは理解できない。企業の特異点技術か異界道具だろう。


「まだあんな栄養があるのに流しちゃうのぽ?」


「なんか肛門から入るみたいで嫌だなぁ。まぁ、門があるだけマシなんだろううがな?」


 さっきまでの意気込みを撤回したくなるようなことを各々口々に零していく。


「変な表現をするなよ。気味悪いだろ……」


 厚底の靴が水を鳴らした。ばしゃ、ばしゃと。少し進むと整備用通路に上がることができた。軋む金網の床。


 奥へ進むほど背を照らす陽光が遠ざかっていき、生暖かい風が顔を撫でた。


 湿度を帯びていて、鼻腔を撫でる薬品と甘ったるいエーテル臭は粘ついている。


 この身体も少なからずエーテル電光の発光生物利用技術の影響を受けているせいか、むしろ地下通路を移動するほど五感が冴えてくる。


「……アズレア、一つ聞きたいんだが」


「ッ!? 今われのこと名前で呼んだ!? ようやく!? ようやくか!? もう一回呼んでもいいんだが!? さぁ、我にもう一度聞かせてくれたまえ!?」


 ――気が抜けていた。知らぬ間に彼女のことを信じていたのか?


 無意識のまま名前を呼んでしまうと恥ずかしいぐらいアズレアは反応した。激しく揺れる青い髪。二度見して、僅かな処理落ち。


 思考のローディングを終えると鬼気迫った様子で目を見開いて、ぐわんぐわんと両肩を掴み揺らしてくる。華奢な腕だが、色付きの腕力でやられるのは凶器に変わりない。


「もう一度だけでいいから我を――」


「っ、そんな無理矢理言わせるな。絶対言わないからな……!?」


「むぅ……。して、聞きたいこととは?」


 気迫が萎んだ。頼りない後ろ背が寂しさを鳴らした。


 悪いことをしてしまった気がして、胸の奥で残響が曳いていく。


「……結局、どうして会いに来てくれたんだ? 俺は、あんたの求める人じゃないし。肉体が目的だとしたら変に妥協してるっていうか……その、中途半端だ」


「正直言うと、最初は強引に拉致でもするつもりだったがね? 少し気が変わったのだよ。これは君自身に対しての敬意と言えばいいのか? ……あまりこんなことを聞くな。照れるだろう?」


 うっすらと赤く染まる頬。視線は行き場を失うようだった。


挿絵(By みてみん)


 瞳の奥で揺れる逡巡。……彼女はまだ、何かを隠している。


「拉致の話から恥ずかしがられても困るんだがな」


 どうせ無理矢理言わせることもできないから、グレンは呆れたフリをして諦めた。


 自分でさえこうして名前を言わないようにしているのに。アズレアが素直にぽろぽろ喋ってくれるはずがない。


 止まりかけた歩を再び進めていく。……地上は水没した区画も多いはずだが、地下に余計な水が流れ落ちていることはなかった。絶えず響く水音は全て廃エーテルだ。


「ルミネンス電光もかつてはそれなりの規模があった企業だったんだがなぁ。本社がこれじゃ、エーテル電光の手足になったのも納得できるな?」


 アズレアの何気ない呟きが反響していく。声が狭い通路の底にまで伸び続け、やがて薄闇に溶けて消えた。開けた場所に出たらしい。


 液化したエーテルから溢れる冷えた光に照らされながら、四方を警戒していく。


 企業跡地の痕跡はない。もはや都市の外郭貯水槽でしかない。もしくは廃エーテルの処理プールだ。


 区画に分けられた碧の液体が油膜を帯びて澱んでいた。


「……嫌な臭いがする。見られてるんだもんな……。そりゃ、何事もなく済むはずもない。そもそも立入禁止区域への侵入は重罪だ」


 揺れる水面。湧き上がるようにゼラチン質の蛍光が浮かび上がった。……«エーテルクラゲの電灯»だ。


 企業、それにエイン・ルシフェラーゼが所持する異界道具でもあり、企業技術によって造られた技術特異点の一つ。


「あれには物理的な干渉はできん。無論、電気もだ。君はもう大丈夫だろうがねぇ?」


 一匹、二匹の話ではない。無数のクラゲが宙を漂い、周囲を鮮やかに照らしていく。雷光がもたらす傘の外周に形成された眼点がこちらを捉えていた。


 グレンは応えるように«蒼輝刀»を構える。

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