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終末の青春配信  作者: 終乃スェーシャ(N号)
二章:過激派ファンと暗殺依頼
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粉砕撃

 同時、背後での着弾。視界を揺らす衝撃と閃光。光と水の飛沫が地上を超えて降り注ぐ。


「おい! お前は大丈夫なのか!?」


「君ぃ、我の心配をしている場合かね?」


 アズレアはすでに宙を跳んでいた。なんてことのない様子で身を翻して、地上層に着地していく。


 見上げている場合ではなかった。粉砕した壁から流れ込む黒い海水が、濁流のごとく噴き出し迫る。


「アレキサンダー!! 俺を打ち上げろ!」


 命をヘンテコな茸に預ける羽目になるのはこれで二度目だ。


 自嘲する猶予もないまま、グレンはデカキノコの傘に飛び乗る。


 そして、ボヨンと。力強い弾性が受けた力をそのまま以上に返し、グレンの身体を宙へ放り出した。


 地に足を着けるより先にワイヤーガンの引き金を振り絞る。射出されるアンカー。身がわずかに裂けながらもデカキノコは確かに掴んだ。


 ――着地。ワイヤーを支える腕の骨が一瞬で軋み肉が攣った。すぐ下で宙ぶらりんになって振り子のごとく揺れていくデカキノコ。


「間に合わないのぽ!」


 渦を巻く黒い海水を見下ろして、デカキノコは悲痛な叫びをあげた。ぎゅっと守るように小さな手でリード協会の少女を抱え続ける。


「青色を信じろ」


「たまにはいいことを言うじゃないか。少し照れるだろう?」


 すっと横から華奢な手が伸びた。軋む球体関節。桁違いな力をもって、アズレアはワイヤーを勢いよく持ち上げた。


 デカキノコと少女が釣り上げられ、晴天を舞っていく。見届けてから、グレンは改めてナドゥルと、過激アンチと対峙した。


「それでどうする。もう一発撃つか?」


「たった一発で息を切らして、無傷でもないだろう。腕と背だ。お前はもう避けられない」


 向けられる砲口。収斂する光熱が研ぎ澄まされていく。金属音にも似た劈きを響かせて、チャージが完了――――。


「遅いんだよ。その武器は!! 対人用じゃない」


 する前に、青い刃で空気を貫き肉薄した。至近する間合い。交錯する眦。


 ――貴方の攻撃は重いけど、遅いね。待ってくれると思うわけ?


 つい数時間前に自分が言われた言葉をそのまま投げつける。敵はすぐにサテラカノンを放棄した。≪蒼輝刀≫の斬撃を避けようと身体を捻る。


「これは貸してやるよ。お前の大好きなアズレア様が使ってた武器だぞ」


 グレンは端から刃を振るう気はなかった。力なく投棄する。


「ッ気が触れたか!?」


 ナドゥルは宙を飛ぶ刀をすぐに握り掴んだ。空間を切り裂く刃を、そのままグレンへ振り下ろそうとして、さらに一手、遅れを取っていく。


「お前の大嫌いな俺からはこれをプレゼントだ」


 無防備な敵を前に、腰に吊るしていたたスレッジハンマーを。


 振り上げる。力強く。


「――――――!?」


 言葉にならない絶叫が轟いた。


 耳鳴りがするほどの叫びが、黒い水平線に溶けていく。


 一転して訪れた静寂のなか、グレンは共感するように目を薄め閉じた。


 …………頭蓋も破砕しうる槌頭が潰し殴打したのは、ナドゥル・クリシュナーの股間だった。


「ッーーー! ーーーーーっ!!」


 叫び声が乾いた吐息に混じる。


 男は脚を萎ませ、力なく蛇行していった。苦痛に悶絶し漏れる吐息に喘鳴が混じっていく。……そして、倒れて動かなくなった。


“死んだ?”


“完。2500L”


 くたばり痙攣するナドゥルの姿を撮影ドローンが晒し上げていく。


「……謝っても仕方ないとは思うが。すまん。……そこに当てるつもりはなかった」


「フッ……! 最高の一撃ではないか。サムネにしてやろう。我の水着とセットでな。喜んでくれるさ。我の動画に主役級のゲスト出演だからなぁ」


 痛みを分からないだろうアズレアだけが平然と鼻で笑った。


 僅かな一瞥もすぐに途切れて、清々しい笑みを浮かべると黒い水平線と晴天の青を眺めていく。


「その男の処遇は君に任せよう。雌犬もだ。君が購入したんだからな」


「……一応連れて帰ってやる。俺に情けをかけられたと分かればこいつも少しは反省……はしないだろうけど。殺さなくていいものを殺したくはない。嗚呼、だが装備はもらおう。金がないから」


 サテラカノンに四眼鏡、ボディーアーマーの上だけ。そして持っていた薬品類、グレネード類、拳銃、ナイフの類を押収。あらかたバッグに詰め込んだ。雑にナドゥルを担いで、帰りのボートへ投げ込む。


“貧乏人に慈悲はない”


“そいつボコしたのはよかったぞ。クソ野郎”


「そりゃどうも。慈悲が必要なら金をくれ。金を。それと、良かったならクソ野郎とか言うな。おじさん呼びよりはマシだが」


 どうでもいいコメントに含み笑いを零した。船に乗り込み、アズレアへ手を伸ばす。


「たわけ。ちょっと浮かれているだろう? 我にこんなエスコートは必要ないぞー」


 なんて、だらけた声色で言いながら。アズレアは手を握った。

↓の☆☆☆☆☆ボタンを★★★★★に変えてアズレアチャンネルを応援してほしいなぁ。コメントも気軽に欲しい。ブクマも欲しい。我をぜひとも応援してくれたまえ。

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