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終末の青春配信  作者: 終乃スェーシャ(N号)
二章:過激派ファンと暗殺依頼
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尊厳

 グレンは反射的に、少女の身体を支えた。


「……ッ、おわった。ようやく、組織に入れたのに。さいしょの、……しごとで」


 戦意はへし折れ脱力しきっていながらも、彼女は気絶していなかった。


 達観もできないまま言葉を引き攣らせていく。


 悲観するように嗚咽すると縋るように自身の首輪を引っ張った。堅牢な金属の輪は地面を砕く膂力を持ってしてもびくともしない。


「リード協会……番犬どもの掟があったな」


 最初の仕事を完遂するまでは正規所属にはなれない。どれだけ簡単な仕事でも難しい仕事でも。最期にかかわる運を彼らは測る。


 彼らは仕事に失敗しても帰還さえすれば咎められることはないが。最初の仕事だけは違う。番犬にすらなれなかった仔犬は捨てられる。


“買わないとこの子死なない?”


“仕方がないだろ。そういうこともある”


“買ったら人格インク買えなくなるんじゃ。前回と違って金目のものもないし”


「……殺そうとした相手の頼みなんて。聞いてくれないだろうけど。……頼む。あの電撃で眠らせてほしい。爆発、いつするかわからないの……怖い」


 掠れた声で懇願された。牙の隙間から漏れる震えた吐息。しなだれた尾が脚を撫でた。


 嵌められた首輪は忠義の証でもあり情報保護の装置でもある。


 身体に直接技術を刻み込んでいるから、金を支払わない者にその肉体を渡すつもりはないということだ。


「自分が選んだことだろう。……嗚呼、やってやるが。どうなっても恨むなよ」


 使える肉体を残さないようにするのは尊厳を守るためでもあるはずだ。


 死んだ肉体を書き換えられることもある。


 捕まって、生きたまま違う存在に変えられる可能性もある。運が良ければ奴隷程度で済むかもしれないが。


「こうやって……缶人のモデルにされる可能性もあるからな」


 独り言だ。ごたごたと余計な考えが巡る。自分自身と彼女、両方の思考を断ち切るように微弱な電気を巡らせた。


 バチン! と髪の毛が静電気で音を立てる。今度こそ意識が途絶えたのか。不安に揺れる瞳が閉じた。


 華奢な腕に刻まれたコードを読み取むと残高が自動で減らされた。リード協会へ購入ができたのだろう。首輪が外れ、ぽちゃんと水に沈み落ちた。


「デカキノコ、預かっといてくれ」


「任されたのぽ!」


 少女の身体を投げ渡すとデカキノコは傘で受け止めた。ぼよんと、小さく跳ねる。


「君ぃ……そんな残高で次の人格インクはどうするつもりだい? いや、悪いとは言わんが……君はいつか悪い人物に騙されるぞ。その、それが君らしいのかもしれないが」


 隣で見ていたアズレアが呆れるように口を半開きにして呆然としていた。便利屋としては当然の反応なのだろう。


「……金はすっからかんだが。稼ぐ方法がある。お前の配信を見てるやつがな。この女に首輪でもつけて散歩をさせてやれって言うんだ。だから、こいつ自身に責任は取らせるさ。一人あたり10000Lでもつぎ込んでくれたら……二十人が買えば元は取れるさ」


「本気で言ってるなら趣味が悪いぞ……貴様」


 ジトリとした軽蔑を笑い流して、グレンは地上を見上げた。


 過激アンチのナドゥルは光砲銃サテラカノンのチャージを完了したまま、発砲しないでいた。収斂し切った光が砲口の中心で眩く熱を帯びている。


「どうした? 撃たないのか? この捨て犬の面倒を見終わるまで待ってくれるなんて親切だな」


「はッ。寄生虫を殺すのに雌犬を墓標に備えるのは忍びないだろう?」


「もう彼女は巻き込まないだろう? 撃てないのか?」


 グレンはアズレアを巻き込む位置まで歩み寄って砲口を見上げる。ナドゥルの表情は装備の所為で伺えないが強く足元を躙り踏んだのが分かった。


 滲む殺意が可視化されていく。彼女の熱心な信仰者かと思ったが。引き金を振り絞ることに躊躇いはないらしい。


「……冗談だろう。ここごと壊れたらいくらあいつだってタダじゃ済まないし犬も死ぬぞ」


「愚か者め。アズレア様がッ! たかがオレの攻撃などで傷つくと思うか!!」


 劈く怒号。信仰が理性を上回る瞬間、ナドゥルは途方もない光熱を解き放った。


 空気を切り裂く轟音。眼前に迫る純白の煌炎。怪物を殺すために作られた絡み手の欠片もない純粋な破壊の力。


 ――触れれば、いや、触れる前に消し飛ぶ。


 瞬間的な理解と同時、五感は酷くゆっくりと周囲を感じ取った。


 走馬灯のように巡る記憶は、自分のことなどさしてなくて。


 あるのは碧色と青色と……この身体に残った何かだ。


 グレンは身を限界まで屈め疾駆した。«蒼輝刀»で正面を貫いて、脚に絡む水を切り立つ。空気抵抗を切断して可能な限り――疾く、疾く。


 限界まで知覚を研ぎ澄ましたとき、異界道具との共鳴が臨界点を超えた。


 顔と腕に広がっていく龍鱗。造られた身体は自分の知り得ない膂力を帯びていく。


 «第六視臣フロスベルフ»が必要なものを映し出し続けていた。


 光撃から逃げ切るための最短ルート。そして、――胸のうちを灯す青い炎によって刻まれた誓約ゲッシュだ。それは一つではなかった。


「ッ――――」


 問いただそうとして声をあげようとするも言葉は間に合わない。


 だが、青色の契約が窮地を前にして恩恵をもたらしてくれていた。


 ――疾く、疾く。踏み込むほどに自分自身も知り得ない力が湧き上がる。激情が沸き立ち、異界道具と共鳴し続ける。


 振り絞るように雷電を帯びて――光が呑み込む前に走り斬った。


君ぃ、↓の☆☆☆☆☆ボタンを★★★★★に変えてアズレアチャンネルを応援してくれると、とっても嬉しいぞ?

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