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終末の青春配信  作者: 終乃スェーシャ(N号)
二章:過激派ファンと暗殺依頼
18/60

これは俺じゃあない

「……なんかあったのか?」


「まぁ、色々とな。……向こうは親しげに接してくるだろうが」


 過去の記録は長く続かなかった。【碧靂】がカメラに気づいて笑顔で手を振ると映像が途切れる。……アズレアの反応を見てからだと、老獪な笑みに思えた。


“美人で可愛いし強そう”


“この動画観てたって理由で殺されたりしない?”


“調べたらモンターニュ社経由でファングッズ売ってた。都市違うから買えないけど”


「ふん……。これ以上あの女を褒めるならブロックするからな……!」


 アズレアは【碧靂】に関するコメントに露骨な不快感を示すと、あざとく頬を膨らませた。たったそれだけで謝罪と入金が画面を視界に広がっていく。


 大袈裟な演技のように思えたが、内心腹立たしいのか。八つ当たりのようにグレンの心臓が青く燃えていた。


「おい、別に痛くはないが気になるから燃やすな」


「ふん。君は今は青色のアシスタントなんだ……。その青い灯火は我のものである証明だからな……」


 まるでマーキングだ。口にはしなかったが乾いた笑みが溢れた。言葉にしていたらコメントとアズレアに何を言われるか分かったもんじゃない。


「それで……ここまで来て俺達に必要なものがこんな映像一つなのか?」


「いや、まだ映像が残っている。もっと前に遡れば出てくるはずだが――」


 暗転していたモニターが再び点いた。音響装置から響く銃声。


 研究所所属だろう兵士を薙ぎ倒し、壁を抉り、淡々とこの施設を破壊していたのは――グレン・ディオウルフだった。


 双眸の«第六視臣フロスベルフ»を光輝させ、振るう≪蒼輝刀≫。地を蹴り砕いて加速し、軌道を先んじて見るように銃撃を避ける。間合いを読むように剣戟をいなし、青い炎を帯びたナイフで胴を袈裟斬る。


「…………違う。これは俺じゃあない」


 魅入られるように釘付けになったすえに、なんとか零すことができた言葉だった。異界道具ではない碧の目を不安げに撫でる。


“お前だよ。認めろ。お前がここを壊したんだ”


“もう一人の俺が――!!”


「嗚呼、くそ。いちいちバカにしないと気が済まないのか? ……俺の身体は造られたもので、精神も人格インクを決まった調合で混ぜたものだ。……だからこれは。俺のオリジナルだったやつの記録だ」


 似ている。彼の動きはアズレアのものと似ていた。軽快だが、舞いと呼称するにはあまりに冷徹で研ぎ澄まされた斬撃。


 剣の間合いの奥にまで詰め込まれたならば高速で武器切替。身を翻した蹴りが鋭い殴打を放っていた。


「もしかしてお前、機械の身体になる前は俺のオリジナルだったのか?」


“嘘だろ……?”


“アズレア男の娘説はやめてくれ”


“寄生虫ごときが戯言をぬかすな。お前らの座標は特定した。お前は絶対に殺す。どれだけ関わりがあったとしても、今のお前は別人だ。違う存在だ。アズレア様の隣に立つべき奴じゃない”


 荒れるコメント。ふとアズレアを一瞥すると視線が鋭く突き刺してくる。


「ふざけているのか? 本気で言っているならすぐにでも色付きの本気を見ることになるが」


 食い入るように威圧的な声が被さった。引き攣る頬。軋む牙。


「冗談だって……。冗談でも言わないと頭が痛くなるんだ。俺の存在は俺が思うよりずっと希薄なんだよ」


 身体が思い出していくようだった。沁みついた技。


 ――俺はそんなことを訓練もしちゃいないのに、手脚が疼く。映像を見続けるほど、動きの意味が理解できてくる。……自分が自分じゃないみたいだ。


 そのうち、瞬きが消えた。息は浅く、荒くなっていった。瞳の異界道具が激しく共鳴するように脈動して、否応なく光輝の灯火を揺らしていく。目の使い方までも理解していく。


 異界道具の使い方は思い出すだとか、覚えるだとかではない。歩き方なんて意識しないのと同じで、それが当然であるように頭のなかが書き換えられていく。


「グレン、大丈夫のぽ? 具合悪いのぽ? ボクが助けてあげるのぽ」


 デカキノコが背中を擦ってくれた。ぶにゃぶにゃとした感触。無垢な声に理性が引き戻されて、ふらつきながらも自分自身を肉体に保つ。


「……俺のオリジナルに関係があったからかかわったのか? 別に怒っちゃいない。……むしろ理由としては納得できる。結果的に俺はあんたと知り合えた」


 まるで会ったことを良いことのように捉えた言い方になってしまった。……間違いじゃあないだろう。一人よりは賑やかだ。


 怒っちゃいないなんて嘘を咄嗟について、傷つけないようにだとか。変な配慮ばかりに気が巡るのは不快じゃない。


「……むぅ。まぁ、そうだ。君からすれば相当失礼な理由だろう。すまないとは思っている」


 青い視線がジトリと。いつになく素直な言葉だった。惹かれるように顔を覗き込むと、緊張と不安が飄々とした態度を濁し切っている。


「だがそれでも、……これは君に返しておこう。今なら多少なりとも使える気はするだろう? それに便利屋は一つの武器だけに拘るべきじゃあない。使い分けだと考えてくれればいい。これで宇宙アメーバに苦戦もしないだろう?」


 小さな手から、握り込まされるように«蒼輝刀»を渡された。


「……なら、お言葉に甘えて借りておこうか」


 返しておくと言われたことを否定するように強調してぼやいた。


「それと、別に俺は――――」


 グレンは言葉が途切らせた。息を呑んで目を見開く。


 光輝し続ける«第六視臣フロスベルフ»が、見るべきものを映し出して、地上階から照準を突き向けられていることを理解する。


「ッー!!」


 瞬間的に身体は動いた。足元を踏み砕いて、デカキノコをアズレアごと突き飛ばし、自分自身も淀んだ水のなかへと飛び込む。


 次の刹那、白い光が柱のごとく視界に広がった。突き刺す閃光。構造が純白の熱線に溶け斬れる轟音と地鳴り。


 遅れて、激しい濁流が渦を巻いていくのが聞こえた。下層までぶち抜いてくれたらしい。破壊の光が途絶えると、晴天が突き刺した。


 見上げた先にいたのはリード協会の少女と、見覚えのないフルアーマーの男だ。暗視四眼鏡。対人用ではない過剰火力な光砲銃サテラカノン。腕章のロゴは≪コードウォーカー≫……怪物専門の駆除清掃業者のものだ。


 一度でも会っていたら忘れようもないはずだが。


「……誰だお前は」


「当ててみろよ。寄生虫がッ! 正解でも不正解でもてめえに冥土旅行をプレゼントしてやる……。アズレア様、オレが勝ったら二人でモンターニュ社の賭博都市とかにデートしてください」


 怒号と媚び。イカレた言動ですぐに理解できた。……コメントで何度も殺す殺すと書き込んでいた張本人だろう。


「はぁ……。俺を殺すためにここまで来たのか? その可愛い暗殺者まで雇ってさ。見ろよ。俺にもずいぶん熱心なファンができたらしい」


 精一杯の皮肉に苦情を沿えたが。アズレアはへらへらと今の状況を楽しんで、嘲り笑うだけだった。青い髪が吹き付ける風に揺れていく。


「たわけ。あれはアンチだとも。ほら、どうにかしてみたまえ。どうにかできないと首を吊るされてタコの餌にされてしまうぞ。そして我は賭博都市にデートさせられるらしい」


「それは困るな……」


 ぼやいて、青い刃を深く構えた。

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