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終末の青春配信  作者: 終乃スェーシャ(N号)
二章:過激派ファンと暗殺依頼
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記憶違い

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 淡々と地下を降り進んでいく。海中のフロア全体を埋め尽くす蔓植物を、アズレアは煩わしそうに焼き切っていった。


 そして、ずぼりと。鬱蒼とした地面で見えなかったが深くまで浸水しているらしい。機体の膝上にまで淀んだ水面が迫った。


「うぇぇ……おんぶしてくれたまえ。アシスタントだろぅ?」


「いや、まだ降りるならどうせもっと深くなるだろ……。おんぶしたところで焼け石に水だろ」


「たわけ。水を継ぎ足してどうする」


「……はぁ」


 曖昧な相槌をこぼしながら、グレンはその華奢な機体を背負った。……球体関節だというのに。密着する身体はやけに柔らかい。


 包むような青色の髪が首元をくすぐっている。


“これが企業と個人で対峙できる色付きの便利屋の姿か……?”


“なんでそいつなんだ? 俺はどうして一人砂漠を横断して荷物を運ぶだけ。片やグレンは色付きの……うぅ。鬱(規制用語)”


“不満たらたらっぽそうな言動するくせに従うんだな”


「従わなかったらどうなるかわからないだろ……。色付きの便利屋だぞ。こんなでもさ」


「ならボクが背負ってあげるのぽー!」


 破裂音。次元バッグから巨大な影が飛び出す。幼い声。……デカキノコだ。どうやら脚までつかる水は海水ではないらしい。しわくちゃだった身体は芳香を帯びて完全復活した。


「グレンも背負ってあげるのぽよ?」


「…………いや、いい。俺が任されたことだから」


「どうしてのぽ? グレン、すっごく嫌そうだったけど、本当は別にそうでもないのぽ?」


 ――――沈黙。グレンは声を詰まらせると、開き直るように黙々と障害物をスレッジハンマーで押し潰していく。


“なぜ男なんだ”


“今の女かキノコだったら全部許せた”


「黙れ。……彼女は怪しいし、迷惑だが。確かな技術と経験はある。俺はそういうものを否定するつもりはない。それに、さっきから寄生虫だのと言ってくるコメントの通り、彼女がいるほうが効率がいい」


「君は恐ろしく素直じゃないなぁ?」


 アズレアは嘲り、後ろからぐにゃぐにゃと頬を引っ張ってくる。そしてゆらりと脱力したまま、不意に気配を研ぎ澄ました。


 ジトリと前方を見据える双眸。つられるようにグレンと一匹もまた警戒を巡らせると水音が響いた。


 飛び出る触肢。周囲の瓦礫と機械のスクラップを粘液で縫い合わせた殻を背負った頭足類タコだった。


 全長は……車程度なら飲み込める程度だろうか。


「陸ダコの仲間だろう。……仕方ない。我が軽く切り刻んでこよう。下がっていろ」


 ぴょんと、意外なことにアズレアは背から飛び降りた。躊躇いなく水に足をつけると、柄だけの刀を握り構える。


「導いて。《蒼輝刀》」


 異界道具の力を行使するための詠唱。さながら引き金を振り絞るかのように、アズレアは粛々として唱えた。


 青い雷光を迸らせて、その場の熱や音さえも切り裂きながら刃が伸びていく。


“なんでそんな野生動物に本気――”


“アズレア様がそれ使うの久――”


 一閃。円弧を薙いだ青色の斬撃は空間そのものを切り裂いた。その場の空気、目の前の敵。果てに流れていく言葉さえも寸断し、断ち切れる。


 一瞬だった。目を見張るまもなく事は終わって、静寂が訪れた後になって、グレンは笑みを引き攣らせた。


「それは……異界道具か?」


「ふむ。そうだな。使ってみるか? 案外、我より使えるかもしれんぞ?」


「……冗談だろ。同じ切れ味にはならない。俺が使ってもなまくらだ。それより急にどうしたんだ? てっきりそれぐらいなら俺にやらせるかと思ったんだが」


 グレンにとっては何気ない呟きだった。ただ、彼女にしてはらしくもない行動だったように思えて尋ねると、凍りつくようにアズレアは静止した。


 ピタリと――。向き合ったままフリーズして、何かを思い出すように目を見開き、……視線を逸らした。


「……いや、てっきり君が軟体動物は嫌いかと思ってな」


「タコなら朝に食べてたのぽね。カリカリしてて美味しかったのぽ」


 デカキノコの無邪気な言葉を無理に飲み込むように、アズレアは少し寂しそうに微笑んだ。


 ギィと軋む機体。力なく揺れる長い髪。


 妖しさよりも、見ていられないような想いが上回って、グレンはじゃぼじゃぼと前へ進み始めた。


 一歩、また一歩と歩くたびに脚が沈んでいく。


 敵は一匹ではなかった。水飛沫をあげて強襲する触肢が包み込むように四方へ伸びて、鋭い嘴が向かう。


 グレンは正面から――叩き潰した。


 ぐしゃりと、グロテスクな音を響かせて、アズレアのような余裕も美しさもなく殴殺してみせる。


「……俺がタコ嫌いのほうがよかったか?」


 垣間見えた弱みを逃してあげるほどグレンはできた人間ではなかった。アズレアは笑みを失って、頬を引き攣らせてジトリと睨みつける。


「……嫌味なやつだな。君は。……ふん、ちょっとギャップがあっただけさ。君らしくていいんじゃあないか?」


 ぐしぐしと、アズレアは目元を拭った。

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