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終末の青春配信  作者: 終乃スェーシャ(N号)
二章:過激派ファンと暗殺依頼
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見つめる憧憬、見ていない



 得体のしれない文字は怪物共も読むことができるのか、それとも本能的な直観か、群れを成していたはずの怪物が誓約に従うように二体のみ、じりじりと距離を詰めてくる。


「おい、今回は戦ってくれるんだろうな」


「ふん、何を言う。宇宙アメーバのときに一匹しか倒してくれなかったのは君ではないかねぇ? アシスタントらしく我の背中を守ってほしいものだがな」


 自然と零れ出ていく軽口。隠し事ばかりの青色の便利屋に背中を任せることに、どうしては抵抗はなかった。


 信じているわけではないはずだが。それが当然であるかのように心身に馴染んでいる。


「ギイイ!!」


 尖頭鰐(ディプロスクス)は金切り声を上げた。バチバチと雷撃を迸らせて、鋭く長い爪を振るい飛び掛かる。恐れも躊躇いもなく、そこにあるのは純粋無垢なまでの野生だ。


「ッーー! あの暗殺者よりはずっとマシだな」


 真正面から殴打を振り下ろし破砕する頭蓋。血と脳漿が飛び散って顔にかかる。まずは一体。幸いこの身体は電気に対しては強い抵抗がある。


 迸る熱と痛みはあったが命にかかわるものではない。鋭利な爪の致命傷だけを避けるように柄でいなし弾く。軌跡が切り裂くのは薄皮だけだ。わずかな鮮血を舞い上げながらスレッジハンマーを力任せに横薙ぐ。


 槌頭が脚に命中した。心地よいまでの破砕音。脛骨を血肉ごと砕いて怪物そのものを吹き飛ばす。


 ふと、周囲への警戒を巡らせながらアズレアを一瞥し、魅入られた。


 無数に散るホログラムを目くらましに青い髪が力強く靡いた。一匹、二匹と撫でる双刃。


 畳みかけるように振るわれる群青の円弧は立体的に剣閃を巡らせる。舞う鮮血の深紅色が青色を際立たせる。


 さながら輪舞ロンドのように彼女は高く跳んだ。


 だが、舞と言うにはあまりに冷徹で研ぎ澄まされている。……敵の攻撃を一手だって許すことはなかった。


 あまりにも容易く――切り裂く。そしてグレンに凛とした眼差しを向けて、あきれるようにポカンと口を開けた。


「おぃ……よそ見をすべきじゃあないぞ?」


「ッーーー!?」


 便利屋としては落第点だ。グレンは自嘲する余裕もなく慌てて尖頭鰐(ディプロスクス)の爪を避け、柄で肋骨の隙間を打突する。


 ぬめりけはあるが柔らかい。金属の殴打が皮膚を裂くとよろめき、その隙を遠慮なく叩き潰した。


 ズシンと。響く重い音。所詮は野生動物だ。どちらかが壊滅するまで戦う気はないようで、生き残っていた群れが散るように逃げていく。


“見惚れてやられかけてるの危なっかしい”


“でもその辺の適当な便利屋よりはよっぽど強いんだな。500L”


“いや、比較にならないぐらいアズレア様が美しすぎる……。24000L”


 感嘆するコメント。そして同情みたいに振り込まれる僅かな通貨。


 アズレアに向けて送られた金額が横に並んでいて、グレンは冷ややかな笑みを浮かべた。


「ふん、片付いたようだな?」


「……なんとかな」


 息を荒らげながらも移動を再開した。人の手が途絶えた人工の自然。生い茂る無秩序な草木をかき分けていくが。


「……綺麗な場所ではあるが。金にはならんなぁ。観光地として盛り上げてみるか? どう想う諸君」


 振り仰ぐように天井。撮影ドローンが荒野とは違う生きている土を映し出し、青々とした木々を縫うように飛んで、砕けた天窓から差し込める陽光を見せつける。


“世界がどこもこれぐらい綺麗ならいいのに。ゴミ山ばっか。ドブ臭いし”


“どこもかしこもあんなワニだらけなのはなぁ……”


“アズレア様のほうが綺麗ですう。結婚して”


 好き勝手な言葉がだらだらと流れていく。……趣きの欠片もないし、この階層にあったのは売り物になりそうもない動植物と、小遣い程度のスクラップがぐらいなものだった。


 引き返し、アズレアは階段を埋め尽くす蔓を焼き切っていく。


「しかし君ぃ、どうして戦闘中にぼーっとしていたのかなぁ? ぜひとも参考までに理由が知りたいのだが」


 青い炎で道を切り開きながら、わかりきったことを尋ねてニヤニヤと。


 アズレアは邪悪な笑みを浮かべた。先程までの鋭い視線は一転して柔らかに煌めている。


「いちいち聞くのか? お前が凄いから気ぃ取られた。以上」


「お、おぅ……存外すなおではないか…………」


 素直というよりも開き直っただけなのだが。アズレアが思っていた反応とはだいぶ違ったらしい。急にしおらしくなって小さな返事だけが零れ出た。


「別に、我は大したことであるし強いが」


「おう……」


 急なマウントにグレンは曖昧な相槌を返した。アズレアは構わない様子で言葉を続けていく。


「この技も我の戦い方も教えてもらったものだ。その人が凄まじく――我にこの世界で生きる方法を刻み込んでくれたのでな」


 瞳を煌めかせるのは憧憬だ。眼の前で笑う人形の少女がどこか手の届かない遠くを見ているようで、グレンは沈黙した。


 ……目には確かに自分の顔が映っているはずなのに、見られていない。


 そう思った途端に込み上げた胸のムカつきと苛立ち。自覚してしまったが納得はできなかった。


 こんな妖しい女にほだされている気がして自分が許せない。


“イイハナシダナー”


“クソ野郎はそういう話ないんか?”


 野次と茶化しばかりのコメントだけは平常運転で、眺めていると平静さが振り戻ってくる。


「俺にはそういう話はねえよ。缶人だし、人格もおかしな技術で塗られたものだからな。あとクソ野郎じゃねえ。……もしかして配信してるのもそのお師匠様絡みか?」


「いやぁ? これは純粋にアピールだな? ほら、我可愛いじゃん? もっと衆目に晒されるべきじゃん? 我が使う道具は売上もあがって企業もハッピー」


 ふざけた態度だ。どうやら憧憬に絡む話題じゃなかったらしい。カツカツと、敵なんていないかのように靴音を鳴らして下層へと降りていく。


 忘れそうになったが海上建造物だ。分厚い窓の向こうは黒い海の中で。濁った水と気泡がぶくぶくと音を立てていた。


「しかし、こんな場所で働けるならドブまみれのスラムよりよっぽどいいだろうな。壊滅したことを考慮しなければだが」


 時折、鋭いヒレを持った魚影が通り過ぎていく。そんな光景ばかりをドローンが映し出していたが、思っていたよりも視聴者からは好感触だった。


 危険なのは現地にいる奴らだけで。他からすれば珍しい光景や企業の内部が見れるのだから当然と言えば当然かもしれないが。


 てっきり、アズレアのことだけが目的かと思っていた。……違うらしい。


「ふん、貴様もこういう場所を見ていくのは好みか? ならば我と相性ばっちりじゃあないかね?」


「変なことを言うな。また殺害予告が来るだろ……」


 辟易としてグレンはぼやいた。

 投稿遅くなって申し訳ないな?

 ちとデカイ山場があったので三週間ほど空いてしまったが用事も済んだゆえ、これからはまたいつものペースで投稿できるだろう。

 ゆえ、もし応援してくれるなら↓の☆☆☆☆☆ボタンを★★★★★に変えたり、ブックマークや感想。とても励みになるのでぜひ、「面白かったです(小並感」とかでも、ニ*ニコにコメを流すぐらいの感覚でくれると、とても嬉しいなぁ?

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