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終末の青春配信  作者: 終乃スェーシャ(N号)
二章:過激派ファンと暗殺依頼
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リード協会

「ふざけんな。ここで戦うとなぁ……! 弁償できないんだよ!」


 悪態を突いて必死にデカキノコを外へと押し込んでいく。この部屋で応戦して壁やらを壊せば人格インクを買う金が無くなる。事実上の死だ。


 負債を負えば最期、蒼い炎に類似した契約と鍵の技術特異点から逃げることはできない。


「まじで……!! 痩せろおおおおお……!!」


 物理的な力を全て反発するように弾性に飛んだ身体をグリグリと部屋の向こう側に押し込んでいく。が、そうしている間にも研ぎ澄まされたような殺意が近づいてくるのが理解できた。


「っちぃ……!」


 思わず舌打ちが溢れる。


 グレンは撮影ドローンを睥睨しながら、諦めるように瞳を強く光輝させた。


 墜落した星間倉庫をいち早く見つけるのにも使った異界道具。造り物である自分の身体に備わっていた怪物の眼。


 «第六視臣フロスベルフ»はグレンの苛立ちに共鳴すると、見るべきものだけ視界に知覚させていく。


 緋く、影が視えた。表情や武器を見ることは叶わない。ただ漠然と、自分を付け狙う暗殺者が部屋の前にまで迫っているのを理解できた。


 咄嗟に自律誘導雷機センチドローンを飛ばし雷撃を弾き放つがそれでどうにかなるほど甘くはなかった。せいぜい、数秒の時間稼ぎ。


「ッー……ドローン、高いから壊さないでくれるといいんだが。デカキノコ! 悪いが強く叩くぞ」


 力の行使を遮断した。副作用が頭のなかを蝕んでキリキリと軋む。瞳の周囲を龍の鱗のような異物が覆うなか、グレンは容赦なくスレッジハンマーを構えた。


「多分、大丈夫のぽ! 可能な限り優しくお願いし――」


「死んだらあの女を恨め! 敵討ちはできないが損害賠償ぐらいは請求してやる! まずは刺客をどうにかしてからだが」


 冷や汗が滲む。可能な限り優しくなどと言われなくても、本気で振るえるほど心を捨てれてはいなかった。躊躇うほど優しくもないが。


 ドン! と、鈍く殴打が響いた。衝撃が腕全体を走り、デカキノコが心地よいぐらい勢いよく吹っ飛んでいく。窓ガラスが共振し、大量に砕けた。


“結局壊してるじゃん”


“金あるのか? 大丈夫? 1000L”


「ぐちぐちうるせえ……! 余裕がないんだよ……。本当に心配ならもっと貢いでくれ。そしたら俺がなんとかあの女に色々着てもらうよう交渉するからさぁ……!」


 グレンは青褪めながらナイフでガラス片を払って、眼下に広がるゴミ山へと飛び降りる。――着地。わずかに足が痛むが部屋からは離れることができた。


「おい、デカキノコ。無事か?」


 ピンピンしていた。返事を聞くまでもない。


 グレンは牙を噛み締めて、スレッジハンマーを深く構え直した。胸の内側で燃え盛る蒼い炎が刻限を突き付けている。


「このままミナマタ港湾まで向う。あいつが暴れ過ぎればすぐにでも自警団なり企業の下部組織が対処に来るはずだ」


 とは言ったものの――追いつかれた。


 飛来する影。落下に身を任せ向けられたのは巨大な両手剣ツヴァイハンダーだった。間合いに触れる瞬間、グレンは鎚頭を力任せに振り上げる。


 金属と金属が重くぶつかり合う轟音。摩擦し飛び散る火花が瞬いて、潰されそうになるほどの衝撃をなんとかいなしきった。


 劈き響く金属音。巨大な刃が円弧を描いて、遠心力によって所持者に距離を取らせる。それでようやく、グレンは敵と正面切って向かい合った。


「その首輪と狼尾の施術。リード協会か」


 標的を晒し者にするまでを職務にした暗殺集団の便利屋だ。全員が身体強化のために独自の改造を受け、契約を受ける際には首輪を嵌める。眼の前の少女の姿は聞いた話の通りだった。


挿絵(By みてみん)


 ピクリと揺れる頭部の耳。荒々しく逆毛立った狼の尻尾。


 少女は赤色の睥睨を向けた。何かしらの異界道具を持っているのだろう。非科学的な力は鋭い殺意に共鳴して、双眸に光を灯していた。


 考えられるとすれば非合理的な両手剣か。新品の白いスーツにはあまりに不釣り合いだった。


「……知ってるなら話は早い。あなたを大通りに吊るす」


 少女は軽々と剣を持ち上げ鈍色の刃先を突き向けた。首輪から伸びる鎖が、朝の日差しに煌めく。


「悪いが――吊るされると契約違反になるんだよな。弁償もできない。お前にはどうにかして……責任は取ってもらうぞ。そうだな。このクソ野郎共に聞いてみるか?」


“敗けろ。吊るされろ”


“断言する。どちらかが倒れる”


“捕まえてお散歩配信をプレミア放送”


“一般視聴させろ”


 野次と悪意が視界をまたたく間に通り抜けていく。緊張など露もなし。呆れて冷静さが広がった。グレンは冷や汗をそのままに苦笑いを向ける。


「まぁ、どっちも生きてなんて平和な考えはしないほうがいいな」


 吐き捨てるようにぼやいた。スレッジハンマーの引き金を振り絞ると、耳障りな駆動音と共に紫電が迸る。


↓の☆☆☆☆☆ボタンを★★★★★に変えてアズレアチャンネルを応援してくれると嬉しいぞ? 世知辛いからな。

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