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逃 亡 × 恋 愛  作者: 可惜夜ヒビキ
第一章 思い出の花
3/6

1-3

まだ投稿を続けて三つ目ですが、新しい話を二つほど考えています。詳しくはそのうち活動報告とかで流します。今のところこの話とは全く違うものになりそうなので投稿開始したらそちらの方もあわせて読んでいただけると幸いです(見切り発車になりそうですが…笑)。


それでは本編どうぞ。

紅く染まった包丁を片手に、僕は茫然と立ち尽くしていた。思考が滞りかけた頭で、何とか先ほど起こったことの一部始終を再生する。



きっかけは、母と優の何気ない会話だった――優が僕と同じ小学校だったことが分かった途端、母は突然、手に持っていた包丁で優を刺そうとしてきた。母を犯罪者にはさせない、そして何より僕の大切な幼馴染である優を、殺させはしない――そんな感情の中で母さんを止めようと全力で逆らった僕は、いつの間にか母が持っていたはずの包丁を手に取り、そして母のみぞおちの辺りを刺していた。そのまま母は倒れ、動かなくなった。止めどなく溢れる血は、僕と優の足元をたちまち覆い尽くし、彼女に食べてもらうはずだったケーキも、家族や友人との思い出の写真も、幼い僕と優が写っている一枚を残して赤く染め上げられた――



昔から、テレビで殺人事件のニュースを見ては、怖いなぁ、とか、自分は被害を受けたくないなぁ、とか、どこか他人事のように思っていた。しかし、よもや自分が加害者側になってしまうとは――。


「――僕、もうここにはいられない。どこか遠いところに行くよ」

「だったら私もつれてって」

「えっ…ゆーちゃん、だけど、それじゃあ君も――」

「私、もう一度あの"樹"が見たい。だから、私も一緒に行く」

「ゆーちゃん…」


彼女の言う"樹"とは、僕たちが生まれ育った場所に生えていた、大きなケヤキの木だ。しかし、ここから僕たちの故郷までは、短く見積もっても歩いて半年以上はかかる。それほど長い時間、見つからずに二人でやり過ごせるだろうか?いや、それよりも、そんな危険なことに優を巻き込んでもいいのか――。

だが、僕の瞳を見つめる優は、まっすぐな瞳をしていた。


「…分かったよ、ゆーちゃん。この先何があっても、僕達は一緒だ」

「うん、ありがとうカズ。私、絶対にカズと離れないよ」


優は、いつものような朗らかな元気のある笑みではなく、穏やかで落ち着いた笑みを見せた。その姿に僕の心臓が跳ねたことを、僕は彼女に伝えることは金輪際なかった。





それから僕らは、西――かつて僕らが育った、約束の地へと歩き始めた。その手には包丁を握って。

僕らは毎晩誰かの家に忍び入っては食料や必要ありそうなものを盗んだ。見つかった時は包丁を持つ手に力を込めた。そうして僕らは約2か月かけて、東京から三重県までやってきた。












「――続いて、先日から行方が分からなくなっている高校生の男女二人組についてです。男子生徒の母親が死亡した状態で見つかったことを受け、警察は何らかの事件に巻き込まれたとみて、捜査範囲を関東全域にまで広げることを今朝明らかにしました。2人の学生は未だ行方がつかめておらず――」


それは、山中にある家に忍び込み、その家に住んでいた男性を刺して冷たくなったのを確認し、テレビをつけて情報を集めていた時だった。僕と優は食事を済ませ、暗い部屋の中でニュース番組を見ていた。


「遂に私たちも有名人デビューだねー」

「いやいや、有名人というか完全に迷子、ことに至っては犯罪者扱いだよ…」

「もしかして、サインとか求められたりするのかな!?やーん、どうしよう」

「僕の話聞いてた!?…まったく、ちょっとだけ頭を冷やしてくるよ…」
















こうして少しだけ席を外したことで、僕と優の関係が大きく変わってしまうことになろうとは――














「あれぇ~、カズじゃん!今までぇ、ろこ行ってたの~」

「ゆ、ゆーちゃん!?なんか、いつもとちが――」

「ふぇ~?私はいつもと同じらよ~?」


どうやら、僕が少し席を外した隙に行っている間に冷蔵庫に入っていたビール缶を飲んでしまったようだ。今まで話を聞いてきた限りお酒なんて飲んだことのない(加えてもちろん未成年の)彼女は案の定酔ってしまい、今に至る。何であの時唐突にビール缶に手を出したのかは、後で聞いてもついぞ教えてくれなかった。さらに厄介なことに――


「かぁ~ずぅ~、寂しかったんだから~…んむっ」

「ちょ、ちょっとゆーちゃん!?」


彼女は、酔うとキス魔になってしまうようだった。何の羞恥を抱くこともなく、僕に抱きついて離れない。クラスメートがこの光景を見たら目にもとまらぬ速さで退散してしまうであろう風紀的によろしくない体勢のまま、彼女は僕の口に舌を入れてきた。


「んくっ、んんっ……ぷはぁ!ねぇ~、もっとちゅーしよーよ~」

「ま、待ってよ!一体どうしたって――」


さらに歩み寄る優に対し僕は思わずじりじりと下がる。しかし優の方が早く僕に飛びつき、僕は優に押し倒されてしまった。また彼女は僕の口に舌を入れてくる――と思ったら、今度は僕に抱きついたまま離れなくなってしまった。


「んー…」

「ゆ、ゆーちゃん……?」


すると、優は普段通りの、しかしいつもよりも小さな声で僕の耳に囁いた。


「私、中学の時は演劇部だったんだ。もちろん、前の高校でもね。

















…お酒に酔った演技だって出来たんだよ」


その瞬間、僕は何故彼女がこれまでの行動に至ったかを悟った。口を開けたままその場で凍り付いてしまった僕から離れず、優は僕の顔を、僕の反応を楽しむかのように眺めると、彼女は僕の頬に、自分の両手を添えた。













「んぅ……」


そして僕と優はもう一度、そして今までで一番長い口づけを交わした。僕は彼女の腰に手を回して抱きかかえた。そうして永遠に続くかのような数秒間が終わると、彼女は僕から少し離れた場所で正座し、僕と向き合った。


「えっと、改めてなんだけどカズ、私と――」

「待って」


優が皆まで言う直前、僕は右手を上げて彼女を制した。


「こういうのは、男子である僕の方から言わないと締まらないってもんでしょ?だから…」


首をかしげる優に、今度は僕が向かって歩み寄り、両手をそっと彼女の体に回した。その体勢のまま、彼女の耳に囁きかけるようにして言う。




「僕、君のことが昔から好きだったんだ。ずっとずっと昔の、あの樹の下で遊んでた時からそうなんだよ、優。だから――僕の彼女になって欲しい」






その時彼女が流した涙と、満面の笑顔は将来忘れられないものとなるだろう。














「――はい。私も、ずっと昔からあなたのことが好きだったよ、カズ」

















「ん…」


窓から差す日差しを受け、僕はうっすらと目を開けた。目をこすりながら上半身を起き上がらせ、昨日の夜のことを思い出していく。


――ずっと昔からあなたのことが好きだったよ。


あぁ、優と僕はただの友達からさらに踏み込んだ関係となったんだ――。そんな感慨に浸りながら布団から出ようとした時、僕はある違和感に気が付いた。


「何か、寒い…」


周りを見回すと、僕の服が部屋の隅で無造作に置かれているのが見えた。いったい誰が、まさか昨日僕はシャワーにはいろうと服を脱いだまま寝てしまったのか?いや、流石の僕もそんな馬鹿はしない、ではいったい誰が、まさか昨日僕はシャワーにはいろうと――頭の中でぐるぐる思考を続けながら俯いた僕の目に、さらなる衝撃が飛び込んできた。なんと、隣で――あろうことか裸の僕の隣で――こちらも一糸まとわぬ姿の優が、気持ちよさそうに寝ているではないか。


「んなっ…これは――」


――僕は昨日、何をしてしまったんだ!?


最後まで言わずとも、その言葉で優は目を覚ましたようだった。少し長いまつげを数回瞬かせると、僕の顔を見て柔らかい笑顔を浮かべた。…顔を赤らめているのは、気のせいだろうか?


「おはよ、カズ。よく眠れた?」


少し様子のおかしい彼女に戸惑いつつも、彼女に朝の挨拶を返す。


「あぁ、おはよう優…」


そんな僕を見、少し面白がっているような優の表情に、僕の頭の中は「?」が増えていくばかりだった。


「ねぇ、変なことを聞くようだけど――昨日の夜、何か変なことでもあった?」


僕の言葉に、彼女は顔を一層赤らめると、お腹の辺りを撫でながら小声で呟いた。




「ばかぁ…」




その様子に、何かとんでもないことをしてしまったかもしれないという猛烈に嫌な予感が僕の全身を駆け巡った。あの後いくら聞いても、彼女は何があったのかを教えてはくれなかった。


















それからすぐに、僕たちは家を後にした。途中、散歩中のお年寄りとすれ違った時は僕も優も終始冷や汗をかいていたが、幸い僕たちの正体は気付かれなかったようだ。そんなことがありながらも僕らは歩き続け、それから二日が経った。


すっかり日が昇って日差しが暑くなってきた頃、使われなくなって大小さまざまな植物が生い茂っていた電車の廃線のトンネルの中、それは突然起こった。




「うっ…」

「ゆーちゃん…?」


僕が隣を見ると、優はそこにはいなかった。後ろを振り返ると、優がうずくまっているのが見えた。息を絶え絶えにして、頭を抱えている。そして、こちらの目を見たかと思うと、


「か、カズ…」


と、僕の名前を呼んだと思った、と同時に――その場に倒れた。


「ゆーちゃん!?駄目だ!!頼む、目を開けて!!」


僕がいくら呼び掛けても、彼女は荒い息をしたまま起き上がることはなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。ハーメルンの方ではこの話の描写に年齢制限を設けていたのでだいぶ書き直しを加えました。第一話、第二話とほとんどコピペで作ってきた話なので新しいとこを考えるのは正直まぁまぁ大変でした(笑)。


さて、ここからは本編の内容を…

今回の話から、2人は"ただの友達"ではなく"恋人"となり、思い出への旅を続けます。しかし、第二話の後書きでも話した通りこの話は第三話も含めて残り二話、つまり次が最終回です。早くも終わりが見えてきましたが和也と優は果たしてあの樹まで辿り着けるのか――次回も殆どハーメルンからのコピペになるかもしれないのでなるべくそっちは見ないように!


それでは、次の話でお会いしましょう。

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