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ハーメルンの方での内容とか活動報告とか、こちらのあらすじとか見ていただければわかるかと思いますが、ただのラブコメではなくちょっと重めな内容となっているはず、、、と思っています。駄目な人はハーメルンまで回れ右をしてそちらで私が書いている別作品をお楽しみください。
それでは、本文どうぞ。
──人間とは不思議な生き物である。死の淵に陥ったとき、彼らは普段以上の能力を発揮する。重い家具を持ち上げたり、とんでもない速さで走ったり、そして──途方も無い距離を、ひたすら歩き続けたり。
これは、ある2人の学生が、思い出の場所を目指す物語──。
「──!──ゃ!」
誰かが、僕──神尾和也の名前を呼んでいる。
「和也!起きなさい!」
「──!!」
慌てて布団の中から飛び起きる。今日は9月1日、まさに新学期が始まるという時だった。時計を見ると──時刻は、午前8時30分。始業は9時である。およそ20分という通学時間を考えると、朝食を食べる時間などとてもなかった。──新学期早々遅刻はまずい。
「やばい、遅れる!行ってきます!」
「急ぎすぎて事故に会わないようにね!」
母の言葉を背中に受け、僕はパンをくわえて家を飛び出した。
──考えてみれば、学校まで走れば10分ほどで着くではないか。何も急ぐ必要はなかったのだ。その結論に途中で気がついた僕は、通学路の半分をすぎたあたりで走るのをやめた。まったく、家が学校に近くて助かった──都心部から少し離れたこの場所からの登校は、公共交通機関を使わずに済むことを身に染みて感じていると、交差点を曲がったところでいつもは見かけない女子高生を見つけた。それだけなら別段なんとも思わないが、彼女は──中学校の時の僕の初恋相手に似ていた。
「そういえば…あいつ、今頃何してるんだろ」
田舎育ちの僕が彼女──神田優と会ったのは、小学校のときだった。都会から転校してきたという彼女は、学校内では少し目立った服装をしていた。茶髪混じりの長いポニーテールを青いリボンで止め、カバンには必ずミルキーマウス──某遊園地の人気キャラクターだ──のぬいぐるみをつけていた。そんな彼女は近寄り難い存在だったのか誰にも話しかけることは無かった。そんな彼女に話しかけたのは僕だった。その時見せた笑顔を、僕は忘れることは無いだろう。ほどなくして彼女は、僕にミルキーマウスのぬいぐるみを僕にくれた。君はいいのかと聞くと、
「いいのよ、別にもうひとつあるんだから」
と、少し頬を赤らめて言った。そのぬいぐるみは今でも僕のカバンに付けてある。
あれから僕と彼女は、自他ともに認める仲の良さを誇っていた。毎日のように2人で遊び、周りから茶化されたりもしていいた──だが楽しい日々は、突然終わりを迎える。
「あなた──今日、ほかの女と歩いてたよね?」
僕の母はその日の食事中、いつものおっとりした姿からは想像もつかないほど激怒していた。
「どうしたんだ急に、俺は仕事仲間と道すがら話してただけだよ」
「そんなことないわ!」
怒声とともに、母が机を大きく叩く。当時中学生でこんなことは1度も経験することのなかった僕は、部屋の端でじっとしていることしか出来なかった。
「私、知っているのよ。あなたが毎晩その女と出歩いて、この前はあいつの家に──」
そこで言葉を切り、少し俯いた母は、耳を澄ましてやっと聞こえるほどの声量で言った。
「──ここまでよ」
「何だって?」
「あなたとはもうここまで、って言ったのよ。明日にはここを出ていくわ。和也を連れて」
最後の言葉に、僕の父は慌てて反論した。
「ま、待ってくれ。離婚するのは構わないが、俺にだって和也を引き取る権利があるはずだ。その話はゆっくり──」
「『離婚するのは構わない』、ですって?そんなことを言うあなたに親権なんてありません。それでは、さようなら」
翌日、母は僕を連れて家を出た。離婚届は双方の合意の元に書かれ、僕の親権は母が持つこととなった。その後僕達は母方の祖母の家で暫く暮らしていたが、1週間後には、実家のある滋賀県から遠く離れた、今の家に引っ越した──こうして、僕は意図せずして彼女と別れることとなってしまった。それ以来彼女には会っていない。
───その時から母は女手一つで僕を育ててきてくれた。あの時の剣幕はすごかったけど、今では本当に頭が上がらないな、などと昔の余韻に浸っていると、校舎が見えてきた。僕は今高校2年生、ちょうど高校生活も折り返しをすぎたところである。
僕が学校に到着してすぐに、ホームルームが始まった。
「──よし、全員いるな。いいことだ」
僕の担任の先生が教室をぐるりと見回し、満足気に微笑む。僕も習って周りをぐるりと見回す。
「どうやら、僕が最後に教室に入ってきたみたいだ──あれ?」
ここで僕は違和感に気がついた──僕の後ろの席がひとつ空いている。さっき先生は全員揃っていると言ったが、それならば一体この席は何なのだろう?──そんな僕の疑問は、すぐに晴れた。
「それではホームルームを始める前に、転校生を紹介するぞ──」
なるほど、先ほどの空いていた席は、転校生のためのものだったのだ。展開からしてどこかで会ったことのある奴が来るだろうが、僕は通学中に誰かとぶつかった覚えはない。であれば誰が来るんだろう──
「それじゃ、入ってくれ」
入ってきた転校生の顔を見た途端、僕は危うく声を出すところだった。
青いリボンで止めた、茶髪混じりの長いポニーテール。そしてカバンには、僕が着けているものと同じ、かなりくたびれたミルキーマウスのいぐるみ。
見間違えるはずがあろうか――僕の幼なじみの神田優が、そこに立っていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
さて、いかがでしたでしょうか?ここまでは正直、ありきたりなラブコメの展開が続いていてつまらんなぁ、と思う人もいるかと思いますがまだ立ち去らないで!この物語はまだ始まったばかり。本番は、まだまだこれからですからね…
それでは、次のお話でお会いしましょう。