表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/4

02 娘はマントの中。



「とにかく、場所を変えてゆっくり話そう。落ち着いて話せる場所……」


 どこ行っても、注目しているやじ馬がついてきそうだ。

 ここは無難に、部屋の中に入れる宿屋にしておこう。

 活動拠点の街キツミのマップを確認。HPなどを回復する宿屋があったはず。

 ちゃんとマップが表示されて、ホッとする。うっすらと半透明だけれど。

 人もどの場所にいるか、表示されいるのはゲームと変わらない。

 フレンド登録していれば、名前表示もされるけれど……ここにはフレンドがいない。

 元々フレンドはいなかった……。

 とりあえず、宿屋にタッチをしてマーカーをつけておく。

 そのまま、方向の矢印が視界に現れるので、ソラちゃんの手を引いて歩き出す。

 ソラちゃんは、嬉しそうにニコニコしている。

 私は注目を浴びすぎて、げんなりしている。

 セクシーなロングドレスを着ているせいか。はたまたナイスバディなせいか。

 注目の視線が痛い。こっそりスクショされるだけなら、まだマシに思えた。

 そうだ。私のアイテムボックスには、マントがあったはず。

 装備として設定すれば、マントを羽織ることになった。

 もふもふの黒いファーがついた純黒のマントで、露出が隠せる。

 男達の舌打ちが聞こえたが、気にしない。

 スースーしていたウエストが隠せて、安堵。


「わー!」


 手を引くソラちゃんは、マントの中だ。

 大丈夫かと問おうとしてけれど、ソラちゃんは楽しそうにはしゃいでいる。

 まっ、喜んでいるなら、いいっか。


「いらっしゃいませ! マタタビ宿屋へ!」


 にっこりと出迎えてくれるのは、獣人の女性店員さん。

 猫耳と尻尾を生やした種族である。

 ゲームだと宿屋に入る直前、「休憩して回復しますか?」の文字が浮かぶけれど、それはない。

 普通の宿屋のようだ。


「とりあえず、一週間、部屋に泊まりたいのですが、空いてますか?」

「はい! すぐにご用意できる一人部屋がありますよ!」

「ソラも! ソラもいるなの!」


 一人部屋と言う女性店員に、自分がいることを主張するソラちゃん。

 あ。マントに隠れてしまったか。


「二名です」

「失礼しました! 二名様ですね! 二人部屋でお間違いないでしょうか?」


 ほっこりしたように微笑む店員さんは、マントから出てきた女の子に癒されたらしい。

 私も可愛いと思いました。


「はい」

「宿代は前払いで5600ベリーとなります。そちらに食堂がありますが、別料金となります」

「わかりました」


 きゅるるるっ。


「……」

「……」

「……」


 マントの下からお腹の虫が鳴った。

 お腹を満たしたばかりの私ではない。

 マントを捲れば、恥ずかしそうに俯くソラちゃんがいた。

 お腹空いたんだね。


「食事も今いただけますか?」

「かしこまりました! ではお食事中に部屋を整えておきます!」

「よろしくお願いいたします」


 二人して、ソラちゃんを微笑ましく見てしまう。

 女性店員さんとのやりとり終えた私は、ソラちゃんをつれて、広い食堂スペースに移動した。

 開いている席について、テーブルの上に置いてあったメニューを見てみる。

 よかった。字、読める。日本語に見えた。


「ソラちゃん。何食べたい? 好きなものは何?」

「ソラ、嫌いなものない!」


 キリッと言い退けるけれど、またきゅるるるっとお腹が鳴る。

 恥ずかしそうにお腹を押さえる姿、可愛い。


「じゃあ、すぐに作ってもらえるものにしようか。すみませーん」

「はーい」


 呼びつければ、豊満な体系の女性がやってきた。

 猫耳と尻尾をつけている。同じ毛色だから、受付の人と母娘かしら。


「この子がお腹を空かせてしまっているので、すぐに用意できる料理を出してほしいのですが」

「そうですね、出来立てのシチューとパンなら出せますよ」

「ではそれを一人前ください」

「あら、一人前でいいのですか?」

「あーそうですね……パンは二人前ください」


 一人一品注文すべきよね。

「かしこまりました!」と女性は、カウンター奥へと戻っていった。


「ソラちゃん。召喚獣の召喚には、召喚石が必要だったよね? 違う?」

「うん、召喚石使った」

「どこで手に入れたの?」


 召喚石は、クエストの特別報酬とかでもらえる貴重なアイテムだったはず。

 借金で縛られていたこの子が持っているのは、おかしい。


「拾ったの」


 あっさりと答えたソラちゃんは、ケロッとしていた。


「拾ったの、使っちゃったのかー……」

「うん! きっと、神様がくれたの! 人生一発逆転するために!! ママと会わせてくれたなの!!」


 そういう考えもあるけれども。


「なんかすっごく大きな召喚石だったなの!」

「それを売れば、クランから解放してもらえたんじゃない?」


 かなりレアな召喚石だったのかしら……と片隅で思いつつも、聞いてみた。


「ううん、絶対に盗られたもん……あの人、意地悪だもん」


 しゅんと俯くソラちゃん。

 確かに、ソラちゃん自身がお金を用意しても、いちゃもんつけてこき使い続けそうだもんなぁ。

 私はソラちゃんを慰めるために、頭を撫でてあげた。

 頬を真っ赤に染めるソラちゃんは、気持ちよさそうに目を細める。

 何その表情。可愛すぎか。


「……」


 実の親がいないのかいるのか、訊けそうにないな。

 母を求めている時点で、いないに決まっている。

 親なし子。そして雑用でこき使われている。可哀想だ。

 シチューが運ばれてきたら、ソラちゃんはますます可愛い顔をした。

 ほくほくと温かいシチューをスプーンで口に運べば、わふわふと口の中で冷まそうとし、そして咀嚼。ごっくんと飲み込み、目を輝かせる。落ちることを防ぐためのように頬を押さえ込む。

 可愛い仕草である。

 私も私で、パンを食べることにした。

 丸みを帯びたパンをちぎって食べてみる。

 んん! バターが効いている美味しい味!

 やっぱり、ここは現実だ。文字通り、噛み締めながらも、考えた。

 さて。どこまでゲームと一致しているか。調べないといけない。

 とりあえず、メニューを開く。

 本来ならボタンを押すところだけれど、握っていたはずのコントローラーはない。

 さっきから念じているだけで開くのよね。

 ゲームだと、【ステータス】【マップ】【設定】【お知らせ】【ヘルプ/サポート】【ショップ】が表示されるのに。

 【ステータス】と【マップ】しか表示されていない。

 左側には【クエスト】【アイテムボックス】【パーティ】【フレンド】【ミッション】【メニュー】の欄があるけれど、【クエスト】と【フレンド】機能は使えないみたいに文字がうっすらしている。

 いや元からフレンドいないので、そういう仕様だけれど。

 恐らく【クエスト】の方は、何も引き受けていないので、はっきり表示されていないのだろう。

 このゲームでは、冒険者という職業があるけれど、私は登録をしていない。

 冒険者として登録せず、自由に探索を楽しむプレイスタイルがあるので、それを選んでいた。

 冒険者登録のメリットは、依頼を引き受けたらパーティを募集が出来ることとかで、ソロを貫く私には関係なかったのである。

 冒険者登録が必要な依頼もあったけれど、それ以外を引き受けつつ、お金とレベルを稼いでいた。

 ふっ。昔の話よ。

 でも、今は情報収集のためにも、登録してみるべきかもしれない。


「ソラちゃん。冒険者ギルドに行ってきていい?」


 頬一杯にパンを詰め込んだソラちゃん。


「ゆっくり食べて」

「うん! ママ!」


 口元をナフキンで拭いてあげると、嬉しそうにニコニコしたソラちゃんにまた癒される。


「ギルド行くなら、あたしも行くなの! ママと一緒がいい!」

「んー……じゃあその前に」


 ぱくっと最後の一欠けらのパンを口に放り込んだ私は、にっこりと笑い返す。

 ソラちゃんは、きょっとんとした。

 猫耳の女性店員さんから部屋の鍵をもらったあと、場所を聞いた仕立て屋に行き、サクッとソラちゃんの服を仕立ててもらったのだ。

 ボロいワンピースのままでは可哀想なので、淡い水色のフリルつきワンピースを買ってあげた。

 気に入ってくれたようで、くるっと回ってスカートを舞い上がらせたソラちゃんは「どう?」と満面の笑みで見上げてくる。

 ……天使かな???


「可愛いよ、とっても似合ってる」


 それから仲良く手を繋いで、冒険者登録と依頼を引き受けられる冒険者ギルド会館へ向かった。

 ギルド会館は、ゲームとよく似ている内装だ。

 入って右にある掲示板が、依頼を張り出している掲示板。とは言え、見る限り、紙ではなく板で発行しているようだ。板が、ぶら下がっている。

 左にはマップらしきものが、額縁に入れて飾られていた。

 ゲームでは中央には何もなかったが、今はソファーが置いてあって何人かが座っている。

 それを見てから、数人が並んでいるカウンターへと向かう。


「冒険者登録をしに来ました」

「はい。では、ステータスを確認しますので、こちらの石板に手を置いて魔力を込めてください」


 ステータス確認か。

 手を置こうとして、私は躊躇した。

 そういえば、召喚されてから自分のステータス確認してない。

 どう表示されるのだろうか。

 そもそも、魔力を込めるってどうやるの?


「大丈夫ですよ。犯罪履歴がなければ」


 受付の女性が、にこやかに言う。

 私に犯罪歴なんてないんだけれど。

 心配なのは、魔力の込め方だよ!

 ええいままよ! とやけになって手を置き、力を込めた。

 スッとスクリーンが手を置いた石板の上に表示される。


[名前 アエテル・ウェスペル レベル130

 性別 女性   種族 人族

 適性職 魔導師

 称号 【魔女王】 異世界から召喚されし者

 HP 390000/390000 MP 650000/650000

 攻撃力5550 魔法攻撃力16000

 防御力18050 素早さ6000


 特殊スキル 能力透視 感知


 犯罪履歴 なし]


 あ、よかった。普通にプレイヤー名だ。レベルもそのまま……。

 当然、犯罪履歴もなし。


「ひゃ。ひゃくっ、さんじゅう~っ!!?」


 急に大声を上げたものだから、私もソラちゃんもびくっと肩を震え上がらせた。

 声を上げたのは、にこやかに対応をしていた受付嬢である。


「れれれっレベル130!!?」


 くるっと石板を回して、自分がよく見えるように正面から確認しては、頭を抱えて叫んだ。

 古参なら、普通のレベルなんだけれど……?

 ざわざわ。ギルド会館内にいる冒険者達が、注目してしまっている。

 受付嬢は、卒倒してしまった。


「えっ、大丈夫ですかっ?」


 カウンターを乗り出して確認するが、目を回している様子。

 大丈夫ではなさそう。他の受付嬢が必死に揺さぶっているが、気を失っている。


「おい! そこのねーちゃん!!」


 ざわつく後ろの方を振り向けば、どうやら私のことらしい。


「レベル130だって? どんなインチキをしやがった!?」


 いや、インチキなんてしないし、そもそも出来ないのでは?


「罰を下してやる!! 決闘だ!!」


 インチキと決めつけて、決闘を申し込まれてしまった。


「受ける筋合いないんで、お断りします」

「ハッ! つまり、インチキを認めるんだな!? レベルを改ざんしやがって!!」

「インチキしてません」

「往生際が悪いぞ!」


 なんでそう決めつけるかなぁ……。

 他の冒険者にも睨まれる始末。

 なんとなく、絡んでくる男の冒険者を能力透視で見てみた。


[名前 ガルパン・ゲロレ レベル25

 性別 男性   種族 人族

 適性職 剣士  称号 冒険者

 HP 6000/6000 MP 3500/3500

 攻撃力2350 

 防御力1850 素早さ900]


「えっ、よわっ」


 ほぼ初心者レベルではないか。

 それで絡むとか正気なの?

 思わず、口にしてしまった。

 侮辱と受け取った男の冒険者は、青筋を立てた。


「表出ろ!!! てめーが格下だってことを思い知らせてやる!!」

「ママは強いもん!! ねっ!? ママ!!」


 男の冒険者に言い返したのは、マントに隠れていたソラちゃん。

 いや、ソラちゃんは、私の実力知らないよね。

 証明して、と言わんばかりのキラキラな眼差しを注がれてしまった。

 うっ……うっ……! ううっ……!

 私は致し方なく、決闘を受け入れた。



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ