第4課題 LEECH 第7問
「おー、超~似合うじゃん、鐘子!!」
「あぁ、そうですか。ありがとうございます!」
事務所に戻ると、幸雄がテンションたっぷりに褒めてくれた。
久しぶりに褒められ、ちょっと嬉しい。
「ところで、これから一体何をすればよろしいですか?」
「まずは俺とエッチ」
「へ?」
「冗談だよ」
前の会社なら、セクハラで速攻裁判沙汰だ。
「とりあえず電話応対。電話の内容は大体『こんなものが運べますか?』、『いつまでに運べますか?』とか、『いくらで運べますか?』といった質問だ。最初のうちはとりあえず俺に全部聞いちゃって。そのうち慣れてきたら、鐘子で適当に判断して応えちゃって良いから」
「え、そんな私の判断で応えちゃっていいんですか?」
「いいよ。鐘子のいう通りに俺達が運べばいいだけだから」
へー。じゃあ、ペットボトル1本、1円で都留からブラジルまで運びます、っていう受注したら、絶対に運べよ!
「わかりました」
「それと、電話の応対の合間にやってほしいのはエクセル入力。鐘子、エクセルって知ってるか?」
こいつ殺したろうか? 私の前職(外資系IT企業)とか、特技(エクセル、ワード)とか、履歴書見とけって。
「は、はい。少しなら」
「お、話が早いね。そしたらエクセルを使って、俺達が各自建て替えたガソリン代や高速代金を入力して、月末に各人いくら払うのかを計算してくれ。これはちょっと高度な作業だから、分からなければ聞いてくれ」
枠作ってシグマで合計するだけじゃん。
サルでもできるわ。
「わかりました。やってみます」
そうそう、気になるあれを質問してみよう。
「あの、求人チラシに『エクセル・ワールドが出来る方』ってあったんですけど、あれってワードの間違いじゃないですか?」
「お、鐘子、気付いた! やった、マジ嬉しい! 俺はそのワードとワールドの違いが分かるくらいのITスキルを持った人を探してたんだよ。鐘子、俺様の罠に嵌ったな! はっはっは」
ITっていう程のもんじゃないだろうが!
「それと、俺様のワールドについて来れるかってこと」
幸雄が、何やら小声で続けた。
「え?」
「よーし。それじゃあ説明終了。今日も一日頑張ろうな、鐘子」
何だろう。
まぁどうでもいいや。
「かしこまりました」
「ぶっぶー。鐘子、敬語はダメって言ったじゃん。『了解、幸雄』ね。はい、やり直し~」
こいつイチイチ面倒臭いな。
「了解、幸雄」
「はい、合格~」
本当に先が思いやられるが、久々のヒトとの会話、職場の雰囲気、二世代前のパソコンがキュルキュル音を立てて起動するまでのイライラした時間。
ちょっと忘れかけていたものを取り戻したような気がした。