ぼくとけいちゃん
「けいちゃーん、あーそぼ!」
蒸し暑く、天気予報でも猛暑日になると予報されていたとある夏の日、その日も僕はけいちゃんにあそばないかどうか誘われたんだ。
だけど僕としては、家の周りになんかなーんにもないから〜、って遊びたくなかったから無視していた。
するとけいちゃんが
「むー!じゃあ、私がかくれんぼをするからけいちゃんが見つけに来てね!」
そう言うと、ドタドタ、と木造の床板でステップしながら居なくなった。
しばらくして、けいちゃんの声が聞こえてくる。走ったためか、少し口の中の水分が足りていないのか、声が細い。その声が足音と共に近づいてくる。とこ、とこ、と。
「よーん、ごーお、ろーく、、しーち、はーち、、、きーう、10」
音が重なって聞こえてくる。きっとこれは僕の鼓動の音だ。まるで自分が隠れる側になっているみたいで···
「聞こえてるー?13、14、15、16」
僕ははっきりとした答えを出すことはできなかった。答える口すら持ち合わせていない。感情の通わない酷く無機質な声が辺りに響きわたる、
「21、22、23、24、25──」
冷や汗が流れる、
かくれんぼに参加したくなってきた。
「36、37、38、39、──」
口をノックする。開く様子は微塵もない。
体が動かない。まるで何かに乗っ取られたかのように、
「51、52 53 54 55──」
僅かな恐怖を覚える。抗う、叩く、どうにかしてけいちゃんに伝えないと、一緒に逃げよう!、って
風もないのに鏡が揺れる、カタカタ、と
「61、62···63、64、65──」
ふと、外側に気を向ける。どこからか足音がしてきた。
、 、と。得も知れない恐怖をまた感じる。足が欲しい、追いかけるための、そして逃げるための。
鏡が震える、カタ、カタ、カタ、と
「78、79、80、81、82、83──」
恐怖と諦めが胸の内を駆け回る。けいちゃん、かくれんぼをしよう!僕が鬼だ!
鏡にけいちゃんが写る、
「92、93、94、95──」
足音が近づいてきている、僕は影響を与えられない。
悲しくなんてない、辛くなんかない、だって──
その時、けいちゃんと目があった。その瞳の中には僕がいた。瞳の中の僕は酷く切羽詰まった顔をしていて、そしてそれ以上にけいちゃんと瓜二つだった。鏡の中の私は瓜二つだった
鏡にひびがはいる、パキ、と
「97、98、99──
あ···けい、ちゃん、みーつけた
100」
足音が止む。気配が薄い。僕の気配はすでにない。足音は去っていった
243、244、255、256、257──
548、549、550、551──
737、738、739、740、741、742、743──
991、992、993、994、995、996、997、998、999────
「おい、誰か!洗面所で女の子が!座敷の方でも誰か────」