米とお酢と魚と大豆の融合 ~好きってなんだ?~
好きを突き詰めすぎると、こうなるってことさ。
「ふぅん、つまりお前は寿司が好きじゃないんだよ。」
時はとある土曜日の昼下がり。市販されているカードを利用してモンスターを戦わせるオフィシャルなカードゲームに興じているときに、対戦相手(友人J氏)に面と向かって言われたこのたった一言で、僕の中の宇宙にはビッグバン的大爆発が起こっていた。端的に換言すれば、「衝撃的な一言を言われた。」ということだった。ビッグバンに倣ってこのあと生命でも誕生すればよかったのだが、あいにく僕の世界には新たに知的生命体はおろか、アノマロカリスすら発生する見込みはなかった。
想定外の角度からの板外戦術。ジャングルで突然襲い来るスコールのような、一切の予兆を見せなかった鮮やかな強襲は、見事に僕の豆腐メンタルに風穴を開けた。そしてゲームにも負けた。
「・・・ククク、面白い冗談だ。Jさんよぉ。
『寿司屋に行けばサーモンしか頼まない』でおなじみのこの僕が、【寿司を好きじゃない】だってぇ・・・?」
小学生の時に刺身を初めて食べたときにそのおいしさに気づき(恥ずかしいことだがそれまでは刺身を食わず嫌いしていた。あれは人生の大損失だった。)、次に寿司屋に行った際にいくらかの種類のネタの寿司を食べ比べ、『サーモンが一番うまい』という境地にその時至った。そしてそれ以降20年間もの間、サーモンのみしか食べ続けてこなかったこの僕が・・・いうに事欠いてサーモンを・・・【SUSHI】を好きではない・・・だって?
「じゃあひとつ聞くぞ?」
僕のセリフを受けて、J氏がさらなる追撃を仕掛ける。
「なにかね?」
「ハイ、想像してください。
今、あなたはスーパーのお寿司コーナーにいます。目の前には【10種類程度のネタが1つずつ入ったパック】と【サーモンだけが10貫入ったパック】の2つが置いてあります。どちらを取りますか?」
何を聞いてくるかと思えば・・・くだらない。そんなもの、答えは決まっているだろうに。
「愚かな質問だな。考えるまでもない。」
「だよなぁ? じゃあいっせーのーで、で同時に答えを言おうか。」
出題してきた以上、奴も自分の答えを持っているのは当然のことだろう。【同時回答を強いる】なんて小細工でこちらの動揺をさらに誘い、以降の対戦で精神的に優位に立とうという浅ましい狙いがあるのだろうが、無駄なことだ。
なぜなら、奴もまた【寿司好き】であり、サーモンを好いていることを僕は知っているからだ。ここで回答がカレイに鱧らない、違うハモらない。なんてことは万に一つもないだろう。というか、あってはならないと言ってもいいかもしれない。
「良いだろう。では、いっせーのーで、」
奴の挑戦にのり、会話テンポの優先権を奪い取ることで、即座に回答に移らせる。隙は見せない。ここで強烈なカウンターをくれてやる。
「【サーモン10貫】」
「【10種盛り合わせ】」
・・・・・・。
「なんでだよぉぉぉぉ!!!???」
万に一つもない、というのは毎回こういう扱いにならないと気が済まない病気にでもかかっているのか?
「裏切ったのか!? 俺を売ったのか!?」
「いや、あたりめーだろ。」
こちらは今ひどい裏切りにあったというのに、奴には裏切りをしたという自覚がないのか?
とんだサイコ野郎もいたものだ。おそらく前世は罠カードを無効にする系のショッカーだったのだろう。
「J氏のサーモン愛はどうした? どこへ消えたんだよ? あれだけ【俺は寿司の中ではサーモンが好きだ】と言っていたのに・・・。
さては偽物だなおめー!」
「いや確かにサーモンは好きだけどさァ。いろんなネタを味わいたいだろ、普通。
それでこそ、【寿司好き】を名乗れるってもんでしょ。
お前のソレは、ただの【サーモンが好き】ってだけで、「寿司」という広大なカテゴリのなかの、ほんの一分野を好きってだけ。それで【寿司を好き】と名乗ろうなんて、おこがましいし、図々しいんじゃないか?」
・・・。
ぐうの音も出なかった。
物を好きなるって、難しいのね。
深夜テンションで書きました。