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4.スタート画面

 サカラの説明も軽く切り上げ、主導は土岐に移った。日本人の彼が何を調べると言うのか。

「俺は異能やチート、いわゆる転移転生に関連する特殊能力について調べます。小故島さん、そこ立ってもらえます?」

 ソファーから志津江が立ち上がるなり応接セットが全て壁際に寄せられる。小学生くらいのリジィも高齢のシシリカイレも、重厚な家具を軽々と担ぐ。それは豊満なサカラも同じで、運んでいないのは志津江の他、土岐だけだ。

「俺はSTR系能力ないんだよ……」

 つい凝視してしまったらしく、土岐はしょんぼりした。それも若い男で力がない事よりは、能力に恵まれなかった残念感が強そうだ。家具の移動が終わり、日本人組とシシリカイレが部屋の中心に集まる。リジィだけ記録係として壁際の家具で書き付けをするようだ。

「始めようか。これから俺の言うことを復唱して、なにかあれば教えて欲しい。些細な違和感とか、『良く解らないけど何か変』とかでも構わないから、必ず教えて」

 何を言わされるのか。ひとまず頷く。

「ステータス」

「ステータス」

「変化は?」

「ないですね……あの?」

 何を言わされてるのか問えば、ゲームではないか調べていると言う。意味が解らない。

「オタクなら異世界ジャンル知ってるんじゃないかな、転生した先はプレイしていたVRMMOの世界でしたーって奴。転生先は小説だったりアニメだったり乙女ゲだったりまあ色々ある訳だけど。実際にゲームの世界なのか、こちらを模したゲームがあちらでつくられたのか、又は本人がこの世界を認識するのにゲームとして捉えているのかはケース毎だから」

 不可解ながらひとまず飲み込むと続きを振られる。

「ステータスオープン」

「ステータスオープン」

「ステータスウィンドウオープン」

「ステータスウィンドウオープン」

「変化は?」

「まったく」

 志津江はゲームも嗜むが、ステータスウィンドウが開くゲームは実況動画でしか見たことがない。つまり全く馴染みがなかった。

「ここら辺はMMOでの呼称だからね」

 土岐は軽く肩をすくめる。そんな仕草をする人間は初めて見た。確かに土岐は重度のオタクのようだ。あるいは外国ノリか。異世界に来ると誰もがオーバーアクションになるのか。

「ゲームと言えば、私としては……」

 と言いかけた志津江の口が閉じることはなかった。ポカンと開けたまま、目を見開いている。瞳は僅かに動く。何かを見ている動作だ。

「小故島さん、どうしました?何が見えますか?」

「ゲームの……画面です」

 志津江の目の前には、大きな竜が薔薇の寝床で蹲り、煌めく何かを抱え込んで眠っている図が展開していた。大きな絵画を目の前にしているようだが、透けて向こうが見えている。透明度50%くらいか。そして目の前の絵にはタイトルだろう文字が優美なレタリングで絵の一部として書かれていた。


『孤独な竜は宝石を抱いて眠る』


「聞いたことが無いな……小故島さんがそう捉えているだけなのか、または俺が知らないだけか……他には何がある?」

「スタート……あ」

 バイオリンのロックインストゥルメンタルが流れ出すと同時に、画面は動画に切り替わる。と言ってもアニメや実写ではなく、ゲームのスチル画像や人物の立ち絵がスライドインやフェードアウトする静止画を組み合わせた動画だ。乙女ゲームのオープニングらしく、ヒロインは後ろ姿だったり見切れていたりで顔はハッキリしない。だが身体的特徴は志津江に酷似している。一緒にいる男性像は白飛びしていて顔は解らず、辛うじてシルエットが解る程度。BGMが盛り上がりを見せたところで、白飛び五人分の立ち絵シルエットが横並びになりフィニッシュ。花弁が散って画面は消えた。凝視したため目が乾く。意識的に瞬きをしていると、土岐とサカラも同じように瞬きをしているのが見えた。

「今の動画見えました……?」

 恐る恐る聞けば二人とも見えたと言う。

「いや、すごいMADでしたね」

 サカラが言うように静止画の組み合わせは確かに素人動画のようではあった。

「低予算ゲーあるある」

 土岐の評価は身も蓋もない。

 リジィとシシリカイレには見えていなかったようだ。日本人であった事が条件か。しかし竜の絵は二人土岐もサカラも見ていないと言う。

「ゲームのトップみたいだったんですよ」

「あ、それ復唱して。トップ」

「トップ」

 土岐の指示に従い復唱すれば再び竜の画面が出て来た。表情から日本人組には見えているようだが、やはりリジィとシシリカイレには見えていない。

「オコジマさん、検証の間だけ貴方の視界を私達にも共有させていただけますか?」

シシリカイレが提案し志津江は了承した。すると目の辺りを触れるか触れないかというように撫でられ、そのまま頭も撫でられる。

「なるほど。これは面白いですね」

 あれだけでもう志津江の見ているものが見えるようになったらしい。スタート、オープニング等も復唱させられた結果、心で唱えれば志津江一人だけ、口頭指示をすれば日本出身者に画面が共有されることが解った。


「では第一回竜眠会議~」

 勝手な略称で気の抜けるタイトルコールをした土岐が拍手をすると、追ってまばらに拍手が響く。割と皆律儀らしい。志津江は自分の事のため拍手をすべきか躊躇し、手を構えたが叩けずにいた。

「作品について何か知ってる方、いらっしゃれば解説お願いしたいんですけど、います……?」

 日本組異世界組共に手をあげる者はない。

「誰もいないという事で。ではこれまでの映像、情報を元にブレインストーミングで行きましょう。何か気づかれた方からどうぞ」

 土岐は進行役を投げ捨てた。

「あの動画の背景から言って舞台は学院で間違いないでしょうね」

 そう先陣を切ったのはサカラだった。

「建物の特徴、バラ庭園、どれをとってもラーディ東学院でしたね。今の時期ですとオコジマさんは秋入学ですから秋薔薇でしょうか」

「恐らくそうでしょうね。今、大公の三男坊が在学していたかと」

 攻略対象はまだ出会っていないからか、イベント発生していないからか、動画は白飛びしていて個人特徴は不明。だが、乙女ゲームにしても漫画小説ベースにしても、高位貴族が恋愛対象だろう事は推測に難くない。

「平民も含めたら他は誰が対象か現時点では全く解らないですけどね」

 投げっぱなしにサカラは言う。他人事だからだろうか。

「オコジマさん」

 シシリカイレが改まって志津江を呼ぶ。その静かな声に部屋中静まり返った。

「貴方は現時点で大公妃になりたいと思いますか?」

 そう問われた志津江は宇宙猫の顔になった。そもそもこの国に身分制度があって貴族が居ることを初めて知った。いや、サカラが公爵令嬢だったような?でも大公妃のポジションがまずよく解らない。そう率直に話せば土岐が補足してくれた。

「大公は政治の実権を握ってる……江戸幕府の将軍みたいなものかな」

「じゃあ皇族は?」

「いるよ、王族。政権はないけど祭司を主に行ってる」

 シシリカイレの問いは将軍の正室になりたいか、と言う事らしい。大公妃と言われるよりはまだ解りやすいが正直全然解らない。

「ファーストレディになりたい?」

 サカラがより噛み砕いてくれたが

「え、いや、特には……」

 結局よく解らずぼんやりお断りするに至った。日本に居たときだって首相の嫁になりたいと考えたことは無い。ニュースで炎上してた事を思えばどちらかと言うとなりたくない。

「好きな人が首相だったり、好きな人が首相になったりしたら解らないですけど、今その地位に着きたいかと言われると特に着きたくないですね……」

 炎上しない自信がない。SNSは無いにしても噂が無いわけではないだろう。

「解りました。若い娘さんの恋愛事情に首を突っ込むつもりはないのですが、事が政治に関わりますとそうも言えない所もありまして。もし私に言いにくければ、土岐くんやリジィ、サカラでも構いませんので必ず誰かに相談するようにしてください」

「……はい」

 シシリカイレは笑みを浮かべて志津江の返事に頷いた。

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