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 数日の研究協力の予定から住み込み就職となったため、今後の方針について話し合った。異世界の研究と平行して家事と常識を学ぶため、使用人教育を受ける。ただし寮の部屋や仕事配分等の受け入れ体制が整うまでは、通常の協力者と同じく客人扱い。この期間は異界研究のみとして使用人教育は免除。到着日である今日は、長距離移動の疲労を考慮し一旦解散となった。

 客室までは黒髪黒目の日本人顔メイドさんが案内してくれると言う。マリヤと名乗った彼女に思うことは(本名かなぁ)。志津江のように発音の難しい名前で、こちら風の物を新たに付けたのかもしれない。本名だった場合失礼過ぎて聞くに聞けないが。通された部屋はホテルのようで少しテンションが上がる。部屋を見て回っている間にマリヤが夕食を部屋に運んできた。和食でも何でもない、この国の一般的な食事だ。しかし野菜スープは野菜が沢山の食べるスープだし、ブルストは太くて長くて五本と多く、パンは柔らか目のフランスパンのよう。つまり一般よりは結構良い食事だった。しかもデザートに固めのプリンがついている。食べたらする事もなく、早々にベッドに入る。ほどなくして、落ちるように眠った。


 研究協力初日。昨日とは同じ面子で異なる応接間に通された。島崎改めサカラ(現世での名前らしい)が、志津江に紙の束とペンを渡す。束を繰れば中はアンケートだった。

「異界の文化だけではなく、転移や転生の原理や発生条件についても研究中なんです。質問項目も多いですが選択式なのでそれほど大変でもないと思いますよ」

 そうシシリカイレは言うが、基準が解らないため本当に大変ではないのか判断しがたい。適当に流して志津江は渡されたペンを持ち直し、改めて『転移者はこちら』と書かれたページを捲る。


今回は何回目の転移ですか?

□初めて

□二回目

□三回目以上(空欄に回数と頻度をお書きください)


こちらへは、どのようにして来ましたか?(初回訪問時)

□車や電車に跳ねられて

□穴を通って

□家屋の水場(風呂やトイレ等)を通じて

□自然の水場(海や川等)を通じて

□光りに包まれて

□寝て起きたら来ていた

□覚えていない、気付いたらいた

□その他(空欄にお書きください。不明な場合や判断しかねた場合もこちらを選んで記載をしてください)


こちらへ転移する間に誰かに会いましたか?

□会った

□会っていない


会った方にお尋ねします。それは誰ですか?

□神(こちらの世界の)

□神(元の世界の)

□その他(空欄にお書きください。不明な場合や判断しかねた場合もこちらを選んで記載をしてください)


 およそ網羅されていた。こんなに色んなバリエーションでこの世界に人が来てるのか。当てはまるものをさくさく選ぶ。


言葉についてお尋ねします。こちらへ着いてすぐにこちらの人が話す言葉を聞き取れましたか?

□聞き取れた。意味も解った。

□聞き取れなかったが意味は解った。

□聞き取れたが意味は解らなかった。

□聞き取れなかった。意味も解らなかった。


 問いの意図が解らず質問すると、言葉が解る志津江のようなタイプの他に、テレパシーで会話をする転移者もいるとの事。回答を進めた先でその詳細項目があった。識字についても問いがある。回答するうちに自分がどんなタイプでどのような特徴があるのか、まるで樹から仏像を削り出すように自分が明確になるのを感じた。シシリカイレは研究のためと言ったが、アンケートは回答者が今後をより良く生きる為の助けとしても作られているようだ。活かせるかは完全に人によるが。


チートやスキル、異能を持っていますか?(任意回答)


 最後の設問は記述式だった。これまでの質問が端的で細やかだっただけに違和感は強いが、内容が内容だ。察しはつく。任意に甘えて志津江は何も書かずにシシリカイレへ差し出した。久しぶりに多くの文字を見て、目の奥がじんわりと痺れる感覚を覚えた。ゆっくりと瞬きをする。そんな志津江の様子に気付いたシシリカイレによって本日の協力は終了となった。


 翌日と翌々日は主に聞き取り調査を受けた。元の世界での生活から社会情勢、転移についてと回答したアンケートと同じ内容を、より仔細に説明して終わる。二日間で全てが話せる訳ではないが、長期協力予定のため、これから始まる研究の導入としての確認らしい。そして協力開始四日目、もはや慣れた応接室で土岐が宣言した。

「今日からは小故島さんのスペック確認します」

「スペック」

「復唱!良いね良いねオタクだね」

 復唱した志津江に、土岐が説明をする。転移をきっかけに、何か異能やチートが芽生えたかもしれない。その有無から、あればどのような能力か調べると言う。無害であれば構わないが、危険な能力であれば事前に知っておいた方が良い。責任者のシシリカイレや研究協力の助手には内容を知られてしまうので、断っても良い任意であるとも言われたが、同意した。

「頭に花が咲く、とか言う恥ずかしい異能も過去にはあったみたいだけど、大丈夫?」

「だ、いじょうぶ……です」

 危険な能力があった場合、制御を教えてくれてその上身の安全や生活を保証してもらえるのと、知らずに人を傷付けて捕らえられるのと、どちらが良いかと聞かれたら選ぶまでもない。あったとしても変な能力じゃありませんように!

「じゃあこれ、同意書ね。サインしたら始めましょう」

 ペンを受けとるなり署名しようとするも、土岐の後ろに控えるシシリカイレが怖い。笑顔に圧がある。きちんと同意内容を読み込む間に他の研究メンバーが揃った。


「じゃあまずは魔力量と属性検査します」

「魔力」

 シシリカイレの一番弟子、異世界生まれ異世界育ち非転生者、生粋の異世界っ子リジィが水盆を机中央に据える。

「そう、魔力。大気中にも人体にも、森羅万象あらゆるものに宿ってる、基本は目に見えないエネルギー。その性質は便宜上、地水火風の四つに分けられてて、そこから複合性質とか細かく派生して行くんだけど、異界では基礎知識なんだよね?」

 当然とばかりに振られたが勿論そんな訳はない。

「そうですね、ただしオタクに限る」

「一部の人のみって事?コジーはどうなの」

「……オタクです……」

 余計な事を言ったばかりにいらない傷を負った。後ろで土岐が笑っているのも傷口に塩。愛称で呼ばれた事が救いだ。認められている、忌避されてはいないと言うことだから。転移後に居候していた村でも同じ呼び名だったが当時は全く救いではなかった。『おこじま』も『しづえ』も発音しにくいから適当に部分抜粋されただけの記号としての名前。それもリジィが呼ぶと親愛があった。リジィ可愛い。

 リジィの指示に従って、両手をそっと水盆に沈める。五分ほどして少し体勢がきつくなったところで手をあげるように指示された。志津江が手を拭う間に、リジィは水盆に紙を浸す。五枚の白紙と一枚の黒紙は即座に色を変えた。白紙はそれぞれ赤・青・緑・黄・黒に、黒紙は白く染まる。いずれも原色に近いが白っぽい物もあれば暗い色もあり、全てを並べればバラバラな印象だ。ただ白だけは、蛍光増白剤を使ったような輝く白さだった。白と言えば生成を指すこの世界において驚きの白さだ。

「属性強度はバラバラだけど、全属性には間違いないね。魔力量も多いからこれは学院かな」

 結果を紙に書き付けながらリジィが言う。

「何ですか学院て」

 少なくとも村では聞いたことのない単語だ。水盆の片付けをしながら土岐が教えてくれる。魔力の扱い方を教える国立学校があり、一定基準以上の魔力量を持つ国民は入学必須との事。この近辺ではラーディ東学院が相当するため、略して“学院”と呼ぶらしい。

志津江はその学院入学基準に達する魔力量を持っている、というのが診断結果だった。

「学費のあてがないのですが……」

「基準以上の方は学費免除ですし、必要経費は研究協力の謝礼で賄えるので大丈夫ですよ」

 サカラが志津江の心配を的確に解消した。流石に異世界生まれ異世界育ち前世は日本人。

「マリヤも通ってたから聞いてみると良いですよ、詳細はまたシシイ様からあると思います」

「あ、はい」

 話していると程なく水盆の片付けが終わった。


「コジーの魔力は全属性、中でも光が一番強いことが解りました、おめでとう!」

「ありがとうございます」

 光属性とはつまり治癒魔法とか浄化とかそういう奴だろうか。国中探しても希少だったりするのだろうか。

「光属性の能力は光を点したり、副次効果で隠された物を見つけたりだね」

 的確に土岐が志津江の推測をへし折る。光属性では治癒は出来ないらしい。紫外線消毒的な浄化なら出来るそうだ。

「室内干しの生乾き対策しか思い浮かばないんですけど……」

「雨季は便利だと思うよ」

 落とした土岐に慰められた。

「光の利用は多岐にわたります、また追々お話ししましょう。学院についてもまた後程」

 シシリカイレに軌道修正してもらい、続きの説明を受ける。基本は漫画アニメと同じだがやはり違うところもそれなりにあるとの事。光属性が一例だろう。魔力を使うための詳細は『いずれ学院で習うから』と省略された。元々能力の有無を調べるのが今日の本旨であり、まだ終わっていないらしい。また先行して魔力の扱いを習って学院で悪目立ちするのも志津江の本意ではなく、省略に否やは無かった。


 説明が終わると、リジィと土岐が席を立ち壁際に下がる。

「じゃあこれから、私が精霊の加護を調べますね」

 そう言ったサカラが、独特な節回しで歌い始めた。讃美歌のようでとても綺麗だが興味の無い志津江はぼんやり立ち尽くす。特徴的な節回しの時に志津江の回りがダイヤモンドダストのように輝く。それは赤だったり青だったりその時々で異なる色に煌めいた。虹の七色を網羅した後、輝きは白く強くなり、眩しく感じる頃に弾けるようにして消えた。同時に歌も終わったらしい。サカラが厳かに告げる。

「全属性ですね」

 でしょうね、と言いかけてあまりに砕けすぎかと志津江は口をつぐんだ。精霊とのつきあい方は今後サカラが教えてくれるらしい。勉強することが増えた。

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