片恋一直線! <<カタレンイッチョクセン>>
とても好き。
すごくカッコ良くて、すごくキレイ。
一目ぼれと同じかもしれない。
だって、見てるだけでも、ドキドキするし、どうしたらいいのか分からなくなるし。
「ちんたらちんたら、やってんじゃねぇぞ、テメーら!」
おらあああ! と、後輩の尻でも蹴り上げそうな勢いで追いかける庄司先輩。
いつも一生懸命なのがとても好き。
汗って臭いだけのものだと思ってたけど。
先輩が流す汗って、キラキラしてて、もう青春の象徴だとか!
すごいなぁ、先輩って。
わたしは、あんな風になりたい。
世の中に清涼剤をふりまくような、いかにも青春、いかにも努力、人を、主に後輩を巻き添えにして頑張る先輩。
いるだけで奇跡。人の、わたしの世界観をこんなにもキレイなものに変えてくれるなんて、本当にすごい。
こういう人と会えただけで、本当にわたしは幸運だと思う。
「‥‥いや、それ、アンタだけだから」
わたしの先輩に対する想いを聞いて、頭かかえるのは‥‥なんなんだろう。
なんか変なコト言ったかな。
「それでも、人ひとりをこんなにも変えたんだよ! すごいよ!」
がっしり肩を掴んで力説する。
「‥‥そうだね、すごいね」
声が呆れ返ってるような気がするけど、同意は得られたワケだし。
にっこり満開の笑顔を向けて。
「ねー!」
可愛らしく首を傾げてみせる。
‥‥‥‥。
いや、だから、なんで、そこで溜息つくのかな、この子は。
食事再開、食事再開、と。
「で、気にかかってたんだけど」
調理実習で作ったケーキに手を伸ばした所でストップする。
い、いつも淡々って話す子だけど。
なんか、一層、淡々ってしているような気がする。
目線が冷たいような‥‥はぅ。
「うん」
「そのカップケーキ、先輩にあげないわけ?」
思いもしなかった、そのアイデアに両手上げてバンザーイ! だ!
「グッドアイデア! いらねぇよ、って嫌そうな顔する先輩もカッコいいよね!」
ちょっと想像しただけでウットリだ!
「断られるの前提かい!」
おぉぉ、突っ込まれた!
手刀の型が決まってるなぁ‥‥決まるだけ、突っ込ませた証拠だけど。
えへへーっと笑ってみせて。
「知らない子から、そう簡単に貰ってくれるないっしょ」
彼女とか、かなり親しい人からじゃないと、嫌がられるって、本にも載ってるし。
‥‥‥‥うん。ちょっと上げたいなぁ、と、本買ったんだ、け、ど。
うん、マンガのような夢は見ない、見ない。
「学校の調理実習で作ったもんだから、だいたい気楽に貰ってくれるって‥‥」
そうなのか? そうなんだろうか?
全然想像がつかない。
想像がつくのは。
「おおおお! どんな風に断ってくれるんだろ!」
思わず握りこぶしっ!
眉間にシワを寄せる先輩ぐらいしか想像つかない。
笑って、心の中は、意外とマイナス思考な自分、という事実に滝涙。
「‥‥貰う方は、全然想像つかないんだ」
呆れられたけど、呆れられたけど!
「不気味とか思わなくても、照れて貰ってくれなさそう♪」
どんな表情であれ、先輩は先輩。わたしの好きな先輩、カッコイイ先輩♪
「嬉しそうだね」
その溜息は。
わたしの極上の笑顔と、喜びの声で、ぶっとばして差し上げましょう!
「先輩を身近で見れる――――!」
いい案をありがとう、親友よ!
もしかしたら、貰ってくれるかも、の。1%の望みにかけて、わたしは行く!
先輩、待っててね!
瞳をキラリン! と輝かせているわたしを、わざとらしい溜息ついて見ている友人がいるけど。
関係なしに、ちょっとわたしは自分の世界に入っていた。
放課後。
「せんぱーい!」
グラウンドの端。隅っこ。
いつものように後輩を追い掛け回している先輩に声をかけた。
「‥‥あ?」
あああ、やっぱり、眉間にシワ!
近くで見た先輩は、鼻血がでそうな程カッコイイ!
ずささっと、貰ってきた可愛らしいピンクの大きなハートマークが描かれた、ラッピングのサランラップに包まれたカップケーキ!
仰々しく、差し出す。仰け反っている先輩に。
「はじめまして! 是非ともカップケーキを食べて頂きたく!」
ロマンチックとは程遠い登場ですが! これが先輩との初対面!
何気に、じーん、と感動。
「誰だ、てめ」
ちょっと低く。脅すような先輩の声。
声もナイスで、しかも、内容が!
「わたしの名前聞いて下さるんですか!」
顔を上げれば、胡散臭げに見つめる先輩。
「‥‥‥‥聞きたくねぇ。それもいらね」
「うんうん。ですよね」
なんとういうか。
嫌がられるかな、逃げられるかな、と思っていたんだけど。
思っていた以上に好反応!
「ですよね、じゃねぇだろ! なんなんだ、テメーは!
うぎゃあああ! と、髪かきむしる先輩ですが!
あああ、カッコイイ。
うっとり。
「先輩を慕う、後輩その1です!」
元気よく! 挙手!
「あ――?」
ちょっと不機嫌そうな所もナイス、です!
「せ、せんぱいっ、胡散臭さ100%の女子が出現しましたよ!」
先輩の後ろに、よく見かける後輩Aくんが、わたわたと挙動不振に、かわいい感じで手を振り回している。
その通り!
「そりゃ、見知らぬ女の子がいきなりカップケーキを食べてください、って来たら、胡散臭さ100%でしょう!」
そうそう、そう思‥‥。
‥‥‥‥胡散臭? とまで思われるとは!
あああ、思わず肯定しちゃったよ!
「なんで、そんなに嬉しそうに言うんだ!」
ああああ、先輩、そんな後退さらないで下さいよ!
かと言って、否定もできない状況で。
ぽりぽりと、照れくさくて。頬をかいたりして。
「え。いや。やっぱ、先輩と初めてお話してるなぁ、とか思ったら上がっちゃって」
誤魔化してみたけど、誤魔化しになってないような。涙。
「嘘だろ」
はい? 何が。
きょとん、と不審そうな先輩の顔を見上げると。その横から後輩A君が。
「先輩が、女子に好かれるワケねーじゃん!」
きっぱり断言!
なんて、失礼な!
――――ぼか!
「いて! そういう所が女子に敬遠される理由じゃないッスか、先輩!」
しかも、口答えするとは、なんてヤツ!
「なにぃ、先輩の愛のこもったゲンコツに、なんて事を!」
先輩が可愛がっている後輩A君だけど。
是非とも是非とも殴らせて頂きたく!
腕まくりしていると。
「‥‥あばたもエクボっつーコトワザがありますが。これは、ちょっと限度が超え」
なーぜ、そこで指差すっ?
「先輩の敵は全て敵!」
先輩の後ろに隠れるようにいる辺りが、更に憎たらしい!
「‥‥いや、敵っつーか。初対面で、俺の後輩に怒るてめーが、敵」
「はぅ!」
ダメージ!
先輩の冷たい視線とばっちり合って。
小さくなる。
ええっと。確かに、先輩からしてみたら、そうなのかも。
‥‥がーん。
一歩下がる。
もう一歩下がって。
三歩下がる。
「ええっと。出直してきます!」
クルリ、と背を向けて脱兎ッ!
わたしの馬鹿――――!
先輩に敵認識されてしまった。うるるる。
‥‥‥‥。
あ。泣いているというか、泣いているフリだったりするけれど。
ストップ、ストップ。
しっかり胸に抱いたままのケーキ。
せめて、最後には、受け取って欲しい、と。女心としては思うワケで。
急ブレーキ、一八〇度回転。
――――たたたた!
警戒心バリバリで、むかつく事に、後輩A君は先輩の背中にしがみついているけれど。
先輩に駆け寄って。
「これ、食べてくださいね!」
無理矢理、押し付けて。
今度こそ、脱兎、脱出!
校舎に向って全力疾走!
「‥‥世の中には変な女の子もいたもんですね」
後輩A。
ポツリ呟かれても、聞こえてるんだよぅ!!
頷く先輩の声を聞きたくなくて。
ドキドキ弾む心臓を押さえながら、耳を塞いで走った。