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奇襲攻撃

 昼時を大きく過ぎてなお、繁華街は混雑を見せている。……白昼堂々()んでいる者も多い。良いご身分だ。(うらや)ましい。(…高等遊民になりたいなぁ…)


 往来(おうらい)の人混みをかき分けつつも、切田くんはさりげなく後方を確認する。(…やっぱり、か…)追ってきている。古着屋の正面にいた三人は、結局切田くんたちを尾行してきている。がっかりビンゴだ。


(マス目全てが☆かフリー。がっかりビンゴは最強のビンゴだ)


 ――至極(しごく)、当然のことではあるが。全ての人類は赤ん坊からスタートする。生まれ落ちて外部を認識し、快、不快の判断により脳を使い始めた個体が、外圧や摩擦によって学習し、個々の思考を確立していく。


 しかしながら、ある種の神経快楽に染まった個体は、痛みや負荷を(ともな)う学習行動を『不快』だと判断して、()()()()に排除してしまう。


 結果、短絡した神経反射のみを繰り返す個体となり、――外部刺激に対して思考を(ともな)わない、赤ん坊並みの単純行動を積み重ねる事となる。


 畢竟(ひっきょう)、彼らの行動は(つね)にゼロであり、壱をベースに弐を学ぶといった、自己の成長を(ともな)わない。(本能的応対ばかりで、日々の思考リソースや積み重ねが無いんだから…)


 ――すなわち、初期ツリーの範疇(はんちゅう)。当然彼らは、総じて()()となる。(…『ま〜た()()()()()?』てやつね。一体何人いるんだよ…)胸をよぎるのは苛立(いらだ)ちと、ある種の諦観(ていかん)。(…まあ、()()()()()の人がそうしているだけのこと。(まぎ)れの要素は無かったさ…)「…ついて来てますね」


 残念な声にビクリとした彼女は、(つな)ぐその手に力を込めた。「……ごめん、切田くん」か細い声でうつむき、フードを深くかぶり直す。


(…ごめん、か)切田くんは、ひどく複雑な気分になる。(手配がかかるには流石に早すぎる。通信機器が存在している気配はなかった。…それに、彼らは兵士とも思えない。あからさまにならず者)


(東堂さんの判断は的確だ。つまりは、()()()()()()なんだろう)始まるよ!『あつまれ、動物の国!』【タイトルコール&大喝采】ワアァァ…〜オープニング〜 →→→



(……なんだよ、それ……)やりきれない怒りの衝動が、ふつふつと沸き上がる。



 それでも『精神力回復』の作り出す落ち着きが、その怒りを燃え広がらせることはない。……むしろ、落ち着きが作る(から)の空間は、切田くんの胸に昏く冷たい炎を呼んだ。「…僕らを追う理由はどうあれ、彼らの持ち物には価値があります」


「…切田くん?」不安げな問いかけ。それでも彼は毅然(きぜん)として、強く答えを言い放った。


人気(ひとけ)のない場所に誘い込みましょう」


「待って」


 固い制止の声。東堂さんも毅然(きぜん)とした態度で、少し強く反論する。「待って、切田くん。…そんなの駄目よ。()いて逃げましょう。私が切田くんを抱えて走れば、あんな人たち簡単に引き離せる」


 その光景(お米様)を想像し、少し黙る。(……ヤダ)そして何事もなかったかのように冷静に反論した。「…東堂さん。相手は明確な害意を向けてきているんですよ。彼らに捕まれば、間違いなく(ひど)いことになるんです。そうしようとしてきている相手なんです」


「…きみの言うことはわかるわ。でも今は確証がない。ただの決めつけにしかならないのよ」


「証拠集めで先手を(ゆず)ったら、勝てるものも勝てなくなります。そんなのは相手に付け込まれるだけの事ですよ。…あんな奴らに気を使うことなんて」


「…今なら逃げることが出来るのよ。戦う必要なんてない」



 東堂さんはじっと見つめ、懇願(こんがん)するように言った。



「…ね、そうしよ?切田くん」



 ◇



 切田くんは黙考する。(はっきり言っておこう。東堂さんのほうが正しい。…僕の意見なんかより、ずっと正しい)


(…だけど、僕らの現状には(そく)していない…)元の世界においての突発的な害意に対する立ち回りは、――争いは避ける。(かま)わず離れる。が常道とされている。


 実行寸前の事件を社会が抑止(よくし)することはないし、実行中の事件においては、被害者側が武器や拳を振るえる事など無きに等しい。関わる(イコール)必ずやられっぱなしの状況に(おちい)ることになる。離れるしか無いのだ。(…今の僕らは、そんな社会より隔絶(かくぜつ)された状況。そして僕は今、自衛のためのインチキ(チート)武器を持っている。…手段があるんだ)


(そりゃあ、女を拉致(らち)ってへラヘラしようなんて連中、逃げたほうが安全だ。道義にも沿()う。…だけど僕らは、より大きく()()()()()()()()からも逃げ回っている最中で、…しかもまだ、逃げ切れたって(わけ)じゃない…)


(……常識人ヅラで黙っていたって、一方的に叩かれるばかりじゃないか。どうして僕らばかり、こんな目に……)


(……)



(……ぐっ……)衝動のナイフが胸をえぐる。傷口から、黒く激しい金属蒸気が吹き出した。


(……これ以上逃げを重ねろっていうのか!!?)


(だれが逃げるかっ!!あいつらカモだぞ!?)


(第一、どうして悪意を向けられた側が逃げ回らなければならないんだ。そんなの筋が通らない話だろうに!!)……カリカリと歯車の幻聴が聞こえ、切田くんの激情はスッと冷える。――すげ替わりの空洞によぎる、昏き想い。


(…そうだよ。僕は理不尽な悪意には反撃したいんだ)


(あっちが仕掛けてきているんだぞ?何が悪い事がある。この反撃は正当なものだし、やっつければ()()()()()()が一つ減ることになるんだ)


(……僕の持つ『マジックボルト』は、要人警護の杖持ちにも正面から撃ち勝っている。着発の遅いマスケット銃に、現代銃のサブマシンガンが負ける道理なんてないんだよ。……能力が、相手の上を行くように出来ている。僕は世界に選ばれたんだ)


(しかも、彼らの装備を手に入れるチャンスでもある。着の身着のままの僕らにとって、こんな好機はそうそう(おとず)れるものじゃない…)奥底で煮えたぎる灼熱と、心の底を(こお)らせる冷徹な打算。……それに、少しの高揚感。


 背後をつけ狙う卑劣な蟲共を、昏い目で見下げる。(御大層な腰の剣だって役に立たない。時代遅れのチンケな刃物に、現代兵器の能力パワーが負けるものかよ。ハハ…)


イカサマ(チート)使って正当な側にひっくり返すだけのお仕事さ。悪意を正しく打ち払って何が悪いんだよ。どうせあいつら、下衆(げす)()()()()()ばかりで、ろくに(なん)にも考えていないんだぞ?)



(…そして、()()()に、そこで()()()()が行われるのだとしても…)



(……それは、襲ってきた盗賊を倒して持ち物を(うば)うことと、何の違いもないはずだ。そうだろ?)「大丈夫。僕が殺ります」決意を込めて、切田くんは言った。「今の僕ならば十分に勝てます。あんな奴ら、簡単に返り討ちですよ」


「……切田くん……」東堂さんは、なにか言いたげに唇を噛み、視線をそらした。


 ……それでも、その手は強く握ったまま、離すことはなかった。



 ◇



 東堂さんをつけ狙う三人のならず者。彼らは迷宮ギルドに所属する、迷宮探索者のパーティーだ。大柄な一人は『戦士』、ローブ姿は『魔術師』、軽装は『盗賊』としてギルドに登録されている。


「馬鹿みてえだろ。全部、向こうの都合だろ?」「ふん、仕切りの都合だと。便利ではあるんだろうさ」自分の技術をわかりやすく宣伝するには良いレッテルでもあった。信用の置けぬ仕事(ビジネス)仲間など、上辺(うわべ)だけ分かっておけば十分である。


 迷宮探索では様々(さまざま)なアイテムが手に入る。有用なものは自分たちで使い、残り物はギルドに売りつけて金に替える。


 ただ最近では、発掘品を(あつか)う密輸ルートが活発で、ギルドよりも高く換金することが出来た。……(とが)める者など誰もいない。迷宮ギルド職員も黙認である(生温(なまあたた)かい笑顔)。何かしらの利益を供与されているのだろう。


 そんな発掘品の処分ついでに歓楽街へと繰り出した彼らではあったが、――そんな時だった。その奇妙な二人組を見かけたのは。


 東方からの流民。少女と少年、黒髪黒目のふたり。



 そして、少女のほうは、まるで流民に身をやつした東方の美姫のようであった。



 ……美しい。目が離せなくなるほどに。



 彼らは見惚(みほ)れ、とりこになる。……そして自然と、欲望が身をもたげた。


 連れの少年はさらに年若く、頼りない。ずだ袋を背負っているので荷物持ちなのだろう。他に護衛らしき姿はない。――この二人からは、なんの武の(たしな)みも、実戦を生きるものの身のこなしも感じ取ることは出来ない。




 カモである。




 ガキは殺し、少女の方はじっくり遊んでやったあとで、発掘品と一緒に密輸商人にでも売りつけてやればいい。(十二分に値が付く事だろう)――流民の一人やふたり消えたところで、気にする者など誰もいないのだ。


 フードを目深に被った奇妙な二人組は、仲良く()()()をつなぎ合わせて、少し早足で歩き去っていく。尾行に気づいているのかもしれない。――彼らは路地を曲がり、徐々(じょじょ)人気(ひとけ)のない場所へと向かっていた。



 ◇



 運河のほとり。集積場である建物や空き地には、木材や石材が整然と積み重なっている。水運によって資材を運搬しているのだろう。


 少女と少年が細い路地を曲がるのが見えた。……(あた)りに人の気配は無い。狩り(ハント)にはうってつけの場所だ。先頭の戦士が、ニヤニヤ笑いでハンドサインを出す。


「…へっ」気に入らねえと吐き捨てながらも、――盗賊は()()()のように建物を登り、屋根の向こうへと姿を消した。


 その様子を見た戦士が、意味ありげに目配せする。魔術師はニヤケ顔で肩をすくめた。――狩猟開始。戦士は大声で、ズカズカと路地に踏み込んでいった。




「おい、待てよ、お二人さん!そう逃げんでもうっ…ふうぅぅぅん…」




 そして突然うずくまり、悲痛な声を上げた。

 突如放たれた二発の光弾が、戦士の両膝を(つらぬ)いたのだ。



 ◇



「撃ってきやがったっ!?マジかよ…!?」魔術師は慌てて足を止め、路地の角に張り付く。――「ヴゥウウウウウっ!!痛っでぇええええっ!!」(わめ)く戦士にシャープペンシルを向けたまま、路地の向こう側へと叫ぶ。「両手を上げて出てきてください!さもなくば、この男を殺します!!」


「切田くん…」


「東堂さん、下がって。最悪撃ち合いになります」不安そうに手を(すく)ませて、彼女は壁際まで下がった。


 魔術師は忌々(いまいま)しげに歯噛みする。(…イカれてんぜ。『人質(グニゴム)ごとブッ殺してやるから出て来い』、って?無茶苦茶言いやがる…)「…おいガキィ!なんてことをしやがる!俺たちが何をしたっていうんだよ!?…たまたま通りがかった俺たちが、迷子に声をかけてやっただけなのによぉ!?」


「茶番はやめてください!まともに話す気がないのなら、こちらは強行するまでです!!」


 路地の向こうが慌てる。「まてまてまて!…わかった。今姿を見せる!ただ、これだけは言っておくぞ。俺達はお前たちに手を出してなどいないし、これからも出すつもりなどない!茶番などという言いがかりはやめろ!!」


「……早くしてください!」(…()()()()()()()って、どうしてそうやって、いつも見え見えの言い逃れを押し通そうとするんだ…)


(…そうさ、見え見えさ。攻撃魔法を使う人なんだろ?分かりやすく手の内を(さら)すような真似をして…)曲がり角へとシャープペンシルを向ける。……相手が魔術兵と同じ謎バリアを張っていたとしても、機先を制した上での多連装(マルチプル)『マジックボルト』ならば、撃ち負けることはないはずだ。


(……さあ来い。詠唱しなければ撃てない時点で、僕のほうが速い)(かど)(ひそ)む魔術師はすぐには出てこない。躊躇(ためら)っている。……切田くんは少し、苛立(いらだ)つ。「()らす気なら撃ちますよ!!」


「待て!ゆっくり出ていくから撃たないでくれ!!……待て、待ってくれよぉ?」



「…今出る!!」



 動き出した人影が、ちらりと垣間(かいま)見えた。



 その時。鋭い音を立てて飛来した投げナイフが、背中に深々と突き刺さった。「ぐっ…!?」(…なにっ!?何がっ…)


 思考を白く染める激痛。体に割って入る、冷たい金属の異物感。――その一瞬に魔術師は半身を出し、切田くんへと短杖を向けた。



「【蜘蛛の巣(スパイダーウェブ)】だっ!!」



 バスンと鈍い音を立てて放たれた白い塊が、(……っ!!?)(やいば)()()()()()()顔面に激突した。引きちらぎれる(ほど)()()って、バンと地面に叩き伏せられる。――背中から激突し、投げナイフが(さら)に内臓を割る感覚。だが、切田くんは悲鳴も(うめ)き声も上げることが出来なかった。


 顔一面に、白い粘着質の物体が張り付いて、(…ぐっ…息が…!?)目も、鼻も、口も、すべてが(ふさ)がれているのだ。(いや、視界が!?『マジックボルト』の狙いがつけられない!?)


「切田くん!!」東堂さんが悲痛な声を上げた。


「ヒュー、こんなガキが魔術師とは(あせ)ったぜ。これだから流民は怖いね」魔術師が、(かど)より進み出ながらせせら笑う。


「…だが対人戦は素人か?魔術師相手にするのなら、『障壁』では防げないこいつに限る。【蜘蛛の巣(スパイダーウェブ)】、【蜘蛛の巣(スパイダーウェブ)】!」シャープペンシルごと右手を、そして空いた左手にも粘着弾を撃ち込み、完全に(はりつけ)(貼り付け)にする。


『…この…っ!?』東堂さんが怒りとともに拳を握りしめ、一歩進み出る。



 だが、すぐにギョッとして立ち止まった。



「待てよ、おねえちゃん。抵抗すると弟くんが死んじまうぞ?へへっ…」



 いつの間にか駆け寄っていた盗賊が、倒れた少年の喉元に、短刀を突きつけていたのだ。

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