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vsダークライ

 ――無敵河原(むてがら) 羅紀子(らきこ)は無敵である。無敵であり、幸運である。


 よって、無敵河原(むてがら) 羅紀子(らきこ)が今回の戦闘に負けることはないし、不幸で不運なめぐり合わせによって危機に(おちい)ることなど決してない。


 能力を(ふく)めた彼我(ひが)の戦力差は絶大。そんな絶対的存在に対し、正面から当たらねばならぬ親衛隊の三人に、今回勝てるチャンスは全くない。


「……それほど堂々と単騎で(のぼ)って来るならば、正面より当たる事が罠となる『スキルホルダー』だろうがよ!」暴風()()け天を突く、バロン=ポテトが高らかに笑う。「わかりきった事ぉ。通常ならば徒党(ととう)を組むか、無様(ぶざま)に逃げ回る局面だろぉがっ!!ハハハ!!」敵の機動に合わせて上昇し、彼我(ひが)の距離を(たも)つ。


「それとも捨て石となって、命を捨てて突っ込んできたとでも言いたいか?そんな猿芝居(さるしばい)で天才の見る目は誤魔化せんぞ!!」相手も【フライ(飛行)】と同等スピード。追いつく事など決して無い。――「飛行魔術師と『スキルホルダー』の数が趨勢(すうせい)(にな)()(なか)であるならばっ!」


「『ホルダー』の群れる場所なぞ、権力をもって!……潰さねばならんよなぁ?当たり前だろそんなのっ!!」旋回する羽付き達へとサインを出す。「行ってこい強行偵察!頭の不自由な貴族のお坊っちゃんなど、このバロン=ポテトが有効に使って捨て駒にする!」


 部下は思わず、バロンの心遣(こころづか)いに感じ入った。「おお、流石はバロン!(ほこ)りを胸に正面より切り結ぶ、一番槍の(ほま)れをお与えくださるのならば!!……今、必殺の!決闘に(のぞ)む騎士の心得(こころえ)にありましょう!!」羽つきの一人が心の所作(しょさ)にて、優雅にお辞儀を返す。「あのバロン=ポテトが目をかけて下さったのだぞ!我々も(こころ)(つく)くして(こた)えねばなるまい!」僚機(りょうき)にハンドサインを送る。


「二対一で仕掛けるぞ!『サンダーブラストフォーメーション』だ!」「了解!」


 急降下する片割れと連携(れんけい)して、――上昇の叛徒(はんと)を頭と底とに挟み込む。「空戦では我々に一日(いちじつ)(ちょう)があるようだなぁっ!魔除け泥棒っ!!」


「フハハ、雷破閃刃。【ショック(衝撃)】誘電を通り道に、我が【ライトニング(雷撃)】は今、正邪を(あらわ)す必殺の、超射程攻撃となる!」下方僚機(かほうりょうき)の手のひらが、放電に光る。「空に(ひらめ)く、本物の青いイナズマのようになぁ!『サンダーブラストフォーメーション!』もらった!!」一息の呪文詠唱。


「『(また)揺蕩(たゆた)き魔力の因子よ!回路を(つた)い、流れてざわめけ!』」


「【ライトニ……】」稲妻の如き一閃(いっせん)に、細い光の鞭が正中線を通り抜けた。脳天より()()()()()()になった親衛隊員の意識は、分断して消失した。



「『応答剣(アンサラー)』」百メートル超に延伸(えんしん)した光の鞭を引き戻し、ラキコが(つぶや)く。



 二つになった片翼の比翼たちが断面より臓物ばら撒き、()()()()()()で墜ちていく。――バロン=ポテトは(あご)に手を当て、フフンとなる。「『聖剣スキル』、ハズレ勇者か。速攻ではなくカウンタータイプのようだな」戦況を見つめるバロンの視野に、背を向け去り行く、もう一方の羽つき近衛兵の姿が見える。……必死に後方を(うかが)っている様子も(うかが)える。


「んむぅ、その判断は正しいぞお、若人(わこうど)よ。…戦争とは、始める前から勝ち負けが決まっている。相手の戦場に引き込まれたのならば、当然逃げねばならんよなぁ?」ニカッと笑う。思わず笑い返したくなる素敵な笑顔だ。


「――ただし、私の命令前に逃げたのだから敵前逃亡で死罪だ!私を殺すか国境に向かわねばならん事が、()たして分かっているのかなぁ?」肉迫する叛徒(はんと)へと向き直り、()()()()()の下降に転ずる。「ふん。近中距離の戦力でしかない『聖剣』スキルなぞ、呼んだ側からすればハズレであろうが。…なるほど。一人で突っ込んでくるのも道理というもの」


「しかぁしっ!!」ハハハと高らかに笑った。「『カウンタースキル』とは直接の害意を向けられずとも、発動するものなのかなぁ!?」相対的な暴風(つんざ)く、高らかなる呪文詠唱。



「『変性せよ魔力。(つど)いて(たぎ)つ油液となれ!バーナム=パーナム。いざ燃えゆかん!破壊の焔よ!』」



「その場で(はじ)けよ!【ファイアーボール(火球)】『エクスプロージョン』!!」


 両者のド真ん中に出現した火球が、即座に爆裂した。散弾と化した炎上油脂が、枝垂(しだ)(ざくら)の如く全方位に振り巻かれる。


 ――下方叛徒(かほうはんと)が大きく回避しざまに、光の鞭が空を裂いた。


「おおっと!通常の武器ともなるか。だが遅い!!」鋭角機動で避けるバロン=ポテトにも降りかかる炎の散弾は、寸前で力を失い、自由落下する炎の雫となる。間違いなく超常の力が働いている。――嫌な笑顔で、ニカッとする。「ははぁん?」


「守っているなぁ!?」そのまま急降下ですれ違い、街並みにバロンダイブする。「どこだぁ?アミュレット。迎撃位置より遠くには行っていまい!」


「あわよくば、ということよ。瞬時の判断は天才である私が決める!ハゲタカになるんだ!」



 ◇



 ウザ絡み。静寂を好む人間にとって、これほど相手を蹴飛ばしたくなる事柄は他にない。(タスケテー)赤ローブの眼鏡少女は切田くんにとって、そんな相容(あいい)れなさを持っている。しかも向こうは一方的に共感を主張し、「ウキョッ!キルタ氏ぃ〜」距離を詰めようと(にじ)()ってきている。ツッコミも要求してくる。(地獄かな?)


(ボケたがりで絡んでくる人って、決して自分がツッコミに回ったりはしないんだよな。…僕なんてボケもツッコミも()()()なんだから、そんな必死さを要求するなら、代わりに何か払ってくださいよ!何か!)今はお金じゃないほうが良さそうだ。(おっさん的な要求はダメヨ)


(こうなったらガン無視で、この人を振り切って強引にでも、…いや、いくらなんでも()()()()攻撃的な態度は…)懊悩(おうのう)する切田くんは突然()()と引かれ、背中からギュウと抱き締められてしまった。あすなろ抱きだ。(…強い強い!)グエー。「こうみえて私たち、お付き合いをしているの」ムッとした東堂さんが、刺々(とげとげ)しく牽制(けんせい)する。胸も当たっていて柔らかい。グエー。


「ふむ。確かに先程聞いたでござる」


「家族計画もしている」(ほこ)らしき気配。(まだですー)苦しみつつも首を(かし)げる彼に、(きび)しく問い詰める。「…何、嫌なの?」「嫌じゃないです。あと締めすぎ」「あ、ごめん」ふわっと(ゆる)んだ。これで楽ちんルンルンだ。ハッピー。(ヤッピー)


「ははぁ、ずいぶんと詰めてくる彼女さんでゴザルな。…お(さっ)(いた)しますぞキルタ氏。正直なところ、本当は嫌なんでござろう?重たすぎて」


「いや、どう考えたって嫌ではないでしょ」「…はぁ?死ねば?」黒縁メガネをずらし、睨まれる。(チクチク言葉やめて)


 赤目の少女は素早く眼鏡を掛け直して、グヘヘと笑った。「お惚気(のろけ)以外の何者でもないでござるなぁ。カプ厨大歓喜!…なわけあるかーい」ちゃぶ台返しだ。「周りも(かえり)みずにイチャコラアピールしやがって。マウントかぁ?得意げにチラチラしてまわる(たぐい)のニヤけ(ヅラ)がよぉ」(言いすぎじゃないです?)「…でゴザル」(…雑に付け足すなよ。キャラ付けが雑!)


 黒縁のメガネ越しに、ニチャァ、と笑う。「キルタ氏キルタ氏〜。要はこのバチバチにイケてる御仁(ごじん)、拙者とキルタ氏との仲良し具合に嫉妬しているでござるよぉ〜。うーん甘酸っぱ。空気が美味(うま)ぁい。死ねばいいのに」(どこがオメーと仲良いんだコラ)とガチで思ったが、(はた)から見ると楽しげだと思われそうなので、言うのをやめた。((はがね)さんだって本気じゃないし。コミュニケーションのネタとしてのやきもちでしょ)


「いや、しかし、ここまでお美しい御仁(ごじん)の嫉妬ともなると、実に良いものでござるなぁ。…こう、脳に染み入る。自身が壁でないのが申し訳なくなり(もう)す。…ふむ、こんな(それがし)なぞが、貴殿(きでん)の横にはべっていても良いものでござろうか?」「…嫌よ」プイの気配。「いけずでゴザルなぁ。だがそれも良い。ラキコ殿なども結構な美人さんでござるが、(はがね)どのは、ふむ、なんというか…」ジロジロ見回し、陶然(とうぜん)と、黒縁メガネは上機嫌にふんふんする。「んん〜↑↑…染み入る〜↑」(まあわかる)


 東堂さんが(さら)にそっぽを向いた(見えない)。「……見てくれなんて所詮(しょせん)、一過性のものじゃない。歳をとればみんな同じ。上辺(うわべ)だけをチヤホヤする人なんて、そうなれば簡単に手のひらを返すでしょう?……普段も裏では()()なのだろうし……」(この人、歳をとってもあんまり変わらなそう)とも思うが。背中の彼女は続ける。


「だから類くんが、私の見てくれを好きだと言ってくれている今のうちに。私たちは(いく)らでもよすがを積まなければならないの」(…見た目に寄ってきただけのクズ、みたいな言い方をされてる気が…)「時間は有限で、いくらあっても足りるものじゃない。…さっきも()()()()言ったよね。これ以上、私たちの邪魔をしないでくれるかな」天より降り注ぐ、断罪の断言。


 切田くんはなんと言っていいのか、なんと言えばいいのか分からなくなる。(黙っとこ)一見クールだ。


「キルタ氏はメンクイでござるなぁ〜」呑気(のんき)()()()()。「ま、ま。拙者に構わず続きをどうぞ。かわいい嫉妬というものは遠くで見る限り、ストレスで(しぼ)んだ脳がムクムクと回復するでござるね。近くだと死んで欲しい」(チクチク言葉やめな〜?)


「ではキルタ氏。ここは(はがね)どのの無聊(ぶりょう)をお(なぐさめ)めせねばなりませんな。『僕が夢中なのはきみだけだよ、仔猫ちゃん(ねっとり)』とか、『僕の瞳には、最初からきみの姿しか映っちゃいない。…信じないのか?(イケボ)』だとか。強引に好き放題に()()()()になってくだされ。異世界恋愛やレディコミみたいに。拙者はそれを横で見ながら白飯を何杯でも行く」(なんやこいつ)「…あの、さっきからあなた爆発しろとか言ってたんじゃ、あと死ねとか」「それとこれとは別腹でござろうが!!」キィと両手を振り上げられた。威嚇(いかく)する穴熊みたい。あと白飯ください。


「やれやれ。キルタ氏はホ〜ントわかってないでござるなぁ。物事には何事にも、都合というものがあると言うのに…」萌え袖両腕を半端に上げて、嫌味な顔で首を振る。やれやれポーズだ。(ムキー!)超ムカつく。


「……言って」(かぶ)せて背後より、重く鋭い声が飛んだ。「へぁ」


「『君だけだよ』的なこと、言って。恋愛小説みたいに」東堂さんが真剣に詰める。「へぁ、…じゃないでしょ?もっと真面目にやって」(わぁ理不尽〜)「類くんは、私をもっと甘やかすべきだわ。今の私には砂糖の甘さが足りないの。あなたのお陰で、こっちに来てからすっかり甘党なの」


「……そういうの、昔と違って好きになったって。味覚が変わったって。……前に、類くんにそう言ったよね?」めっちゃ詰めてくる。「はっきり言ったよね?」


「忘れちゃった?そんな昔のこと」……剣呑な雰囲気、と言うにはダバダバした波動。空虚な目なのかグルグル目なのかもうわかんない。「今まで類くんが私にしてきた(たぶら)かしだって、わたし的には凄く良いかもって。私、はっきり言ったよね?」


「いえ、そこまでは言ってないです。しても許す的なニュアンスでは…」「(だま)って」(かぶ)せてピシャリと斬られる。(…この人はまた、すーぐ周りが見えなくなるんだから…)ふと、空気が読めないだの、危機感を認知できないだの。緋村もゆに(くだ)した酷い評価を思い出す。(人によって対応が違うって?うるさいな、贔屓(ひいき)だよ贔屓(ひいき)。何か問題ありますか?)


(はがね)どの(はがね)どの。ちと、お耳に入れたいことが」


「……さっきから何?あなたに名前を呼ばれる筋合いなんてないのだけれど」


「ただの呼び分けでござるよ。要はこのしと、照れてるんでござる。テレリコのリコでござるよ。かわいいでござるね〜。…ふむぅ、これはこれで…」


「……照れているの?類くん……」


「ち、違いま」「ほ〜ら、図星でござろ。大金星」「ちゃんと答えて」


「顔見りゃ本音なんてすぐわかるでござるよ。んー。顔面が見えないでござるねぇ」()()()と、正面より両手が伸びてくる「…ちょっと、それ(めく)らせて」「や、やめろぉ!」


 両手を伸ばす黒縁メガネが顔を曇らせ、()()()と動きを止めた。……無表情より漏れ出す、不吉な予言。



「……敵。真上からくる」



(……ぐっ……)分断された雑な空気。急速に(まわ)るサイレンシグナル。敵機急襲、防空戦だ。(ラインを抜かれた!?そりゃそうでしょ!!)「罠に()めますっ!隠れてっ!!」切田くんは背後の腕よりスポっと抜け、足元のショルダーバッグに手を突っ込む。「…任せて!」手ぶらになった東堂さんが代わりに緋村もゆをひっつかみ、「ホギャアァァ〜!?」(なんだその声)そのまま建物の陰へと跳ぶ。多重三角跳び。「ホヒュッ」――見えなくなった。


(見せてくれないのなら、僕だって手の内を見せませんよ!)手にした()()の鋭利な(さき)を、狭い空へと向けた。



 ◇



 四角い空を鋭角に切り裂き、「見つけたぞぉっ!!アミュレットォ!!」――ターゲットインサイト。バロン=ポテトが屋上の陰より捻じり込んでくる。そして、「うおおっっっ!!?」不自然な急制動によって、()()強襲の動きを止めた。


 地上に(たたず)む、謎の覆面魔術師。足元には(ナントカ君が殺られた?ずいぶん(もろ)いな…)(ほふ)られた魔術技官の死体。――そして、建物間に綿密に張り巡らされし、光る糸の罠。「…なんだとっ!?」


 地上とバロンとの間には、細長い光の糸が何重にも()(めぐ)らされている。建物同士を(わた)って(つな)ぐ、魔力糸のバリケードだ。「糸の結界だと!?罠を張って待ち構えていたとはっ!!」この空域に来て数分。そんな猶予(ゆうよ)など無かったはずだ。「未来を見据(みす)えた動きをしている?やはり、アミュレットを運ぶ『スキルホルダー』は二人組、いや、もっとか!?」



「……マルチプル(多連装)・『マジックストリングス』」



 切田くんの『マジックストリング』は『マジックボルト』を細長く伸ばした()()のものだ。蜘蛛糸並みに脆弱(ぜいじゃく)で、何の効果も持っていない。――それでもバロンは判断に迷う。「……どんな効果だ?切断か電撃か、もっとろくでもない、……ええい、上下の(ころ)()に馬防柵とてっ!!」


「私のスキル『慣性(イナーシャル)無効化(キャンセラー)』の前には、いかなる飛び道具も力を(うしな)う!!弾体自体が推進力を……」一瞬の残影。「なにっ!?」咄嗟(とっさ)に防いだ右手首に、透明な棒状の矢弾が篭手を(つらぬ)き突き刺さっている。マジックはしだ。「推進力だと!?」バロン=ポテトは即座に急加速、二本目の超高速プロジェクタイル(飛翔体)を回避し、そのまま離脱を(はか)った。


 背後より、光の鞭が()(はら)う。「…ええいっ!!」クランク回避だ。「……あわよくばも消えたか。よくもやったな侵略『ホルダー』どもっ!!憶えておけっ!!」


「バイバイだっ!!」鋭角かつ素早い機動で撹乱(かくらん)し、白鎧の襲撃者は建物の谷間に潜り込み、消えた。(…ゴキブリみたいだな…)スイと手を振り、『ストリングス』を一応消しておく。――(さら)に飛来する黒影。


「もゆもゆ、敵は?」急降下から一転、スタンと華麗に着地したラキコが、「…ふむぅ、やれやれ、酷い目にあったでござるよ…」建物の陰より()()てくる眼鏡少女に問いかける。「…敵?どこか行った…」「そう?」


「フフ。最後危なかったね〜。やるじゃない覆面くん」長身女性が息を(はず)ませて、ニッコリと笑いかけてきた。「ところでどうだった?無敵の私の戦う勇姿。バッチリ見てくれた?」バチコーン。男装イケメンウィンクだ。


 ……そして彼女は、三人や周囲の様子を、なんだか不安げに(うかが)う。「…あれっ?そういえば、()()ここにいたの?…ちょ〜っと嫌な予感がするんだけど…」


 切田くんは、めっちゃ気まずい。「見てません」


「……え?」


「見てないです」


「なにも?」


「なにも」


「……あんなに一生懸命にバトルしたのに?……そりゃあ、私は無敵だけれど。それでも君らにアピールするために、こうやって命まで(さら)したんだよ?」


「最後の所でしたら。敵が上から突っ込んできて…」「(ほとん)どなにも見てないじゃない!!」ラキコはムキーとなった。「ちゃんと始まる前に、見ててって言ったじゃない!!言ったよね!!?」凄い顔で詰めてくる。ニコニコ顔じゃない。すごく怖い。(……怒られてしまった……)


「すみません」切田くんが言う。


「…ごめんなさい」緋村もゆが言う。


「ごめん、類くん」東堂さんが言う。


「君らねぇ…」無敵河原(むてがら) 羅紀子(らきこ)は、額を抱えた。



 ――「あーっ!!」そして奇声気味に髪をくしゃくしゃ宙を見上げて、……すぐに向き直って()()()()笑った。「やっぱりこういうの、私に向いてないんだよ。健康に悪いんだ」



「私こそゴメン!!」パチンと、ラキコは(おが)(たお)す。「ご明察(めいさつ)のとおり…」


「私たち『パトリオッタ』は、君らのことを都合良く利用しようとしか思ってない。ゴメンね?」(お、おう)「はぁ」目をぱちくりさせる。切田くんにとっては今更の話だ。(正直ですね?)


「私個人を信じてくれたとしても、私の知らない思惑が絡めば、もしかしたら君らは『酷い目』にも合うかもしれない」


「そうでしょうね」スン…としている覆面少年を見やり、少し黙り込んで変な顔をして、――そして、ラキコは晴れ晴れとした顔で背伸びをした。


「はぁ〜。やっと言えた。こういうの黙ってるのって、ホント良くないよね」肩をクルクルしている。「態度にもすっかり出てしまって、ギクシャクしちゃうしさ。そうは思わなかった?」(…まあ、ストレスには良くないでしょうね…)「組織とは別に、私人としては仲良くもしたかったけれど」ラキコは()()()目で、ジトッと笑う


「どう?それでも一緒に来る?」


(…今はとにかく、呪いのアミュレットを手放さないと。…この国には、飛行する魔術師が思ったより多い。軍用ヘリまである…)いくら『ガラス玉』を使って空を飛んだところで、こちらには体力的な航続距離の限界がある。必ず追いつかれてしまう。(目印を持ったまま、逃げ切れると思わないほうがいい)


 東堂さんをちらりと見ると、――彼女はコクリと(うなず)いた。「いいよ、きみと一緒で。きみに着いていく」


 切田くんは(うなず)(かえ)し、ラキコに向かってはっきりと宣言した。


「……行きますよ」

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