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はじめてのPvE

「それで、迷宮の入り口は?」


「…えっ?」「……案内してくれるのでしょう?」東堂さんが平坦な声で()かす。


 バヨネットの偽装酒場より少し離れた、加工場の裏手。今も機械の騒音が鳴り響いている。(ギョニソーよりチーカマのが良いかな…)どうでもいい。――会話に(きょう)じる三人は、しばらくここで立ち止まったままだ。進捗(しんちょく)ダメです。


 得心(とくしん)した『猫目』は「…ああ!」と笑い、こともなげに答えた。「ここだよ。近いでしょ」


「…ここ?」怪訝(けげん)な顔で(あた)りを見回す(切田くんも)。


「ウフフ。()()とこない?」(コネー…)


「さっきの酒場がまだ見えるのだけれど」


「どうせ向こうもまだ、こっちを見てると思うけどね」


 ()()言われ悪意の視線を意識するも、ここからでは酒場の様子はまったく見えない。そんな二人を尻目に少女は、()()()()と加工場に寄っていく。「ほら見て。これ」


 建屋(たてや)(わき)の地面、道より(はず)れた一角(いっかく)に、どこか見覚えのある設備が存在している。石畳(いしだたみ)で補強された箇所(かしょ)、金属の(おと)(ぶた)。取っ手の付いた、重そうな金属蓋だ。


 ……東堂さんが、フードの奥で(まゆ)をひそめた。「…ねぇ、ちょっと待って。…それって…」「ちょっと()()()()から、我慢してねー。…よいしょっと」眼帯少女は取っ手を両手で(つか)み、「んんーーっ!」と可愛い声でいきみながら、重い(おと)(ぶた)を引き上げた。



 立ち上るカビの匂い。

 湿気と腐泥臭。

 そして強烈な、汚物の匂い。



 東堂さんが真っ青になり、涙目で口元を押さえた。


 (おと)(ぶた)()()()()()け、得意げに語る。「下水道でしたー。ここは入り口の入り口だけどね。『迷宮』はまだこの先」


 四角く深い縦穴の先、()()いたタラップが伸びている。メンテナンス用の人通孔(じんつうこう)なのだろう。「びっくりした?」


()()()()()したけれど……」口元に手を当て、覗き込むことさえ躊躇(ためら)って、東堂さんは深刻な顔で言う。


「下水道すべてを浄化しましょう」


「駄目です」


「切田くん、なんとかして」


「うーん…」


「キルタ、出来ないでしょ」


(…うるさいな。やればできますぅー)


 下水道の悪臭は(すさ)まじいの一言だ。……この中を通るのは、いくら切田くんでも正直キツい。(…駄目だなこりゃ。冒険者ランクEの苦労が(しの)ばれるよ…)そんなものは無い。が、ありもしないギルドランクを飛び級で上げたくもなる。(『流石(さすが)ですニャン!切田さん。まさか初日でDランク[シルバー]だなんて。こんなのギルド始まって以来の…』…よし。いや誰だよ)追放ニャン子は別のところに除外しておく。


(嗅覚が強化の『スキル』で拡大しているのなら、東堂さんには(つら)いだろうな。…なんとかしたいけど…)


 すると『猫目』が、()()()()(とが)める。「ここは海が近いからね、(しお)の満ち引きで水路が()まっちゃうの。今はちょうど引き潮だけど、少し急いだほうが良いと思うよ。…早く行こうよ」


 上目遣(うわめづか)いにニヨニヨ笑う。「そもそも(にお)いを防ぐなんて庶民的(しょみんてき)な魔法、見たことも聞いたこともないんですけど~。出来るならとっくにやってるでしょ?…そうやってぇ、出来ないくせに(なや)むフリしてアピっちゃうのは良くないよ?キルタ。ねえねえキルタ?」(めちゃめちゃ(あお)ってくるー↑)


「わかりました。じゃあ、たとえば【ミサイルプロテクショ(飛翔体防護)ン】のバリアで、(にお)いも一緒に()らせませんかね」


「やって」


「はい」切田くんはおぼろげな、記憶に焼き付く『何とかする』方法を(さぐ)る。(『マジックボルト』を変化させた要領(ようりょう)で、魔法の【マジックボルト(魔法弾)】も『飛ばないマジックボルト』へと変化させることが出来た。…ならば、同様のやりかたで、他の魔法も改変出来るかもしれない…)


(【ミサイルプロテクショ(飛翔体防護)ン】は魔力気流が矢弾(やだま)()らす魔法。魔法の弾丸はもちろん、実存(じつぞん)する物理的弾体にも効果を発揮する。……当然、その気流は現実の大気にも干渉(かんしょう)している)


(…だったら、害意のある毒ガスを飛翔体と認識して、矢弾(やだま)同様に排斥(はいせき)すれば…)


(くわ)えて、三人を包み込む程度にまで範囲を拡大する。……本当に出来るの?出来なければ、素直にごめんなさいだ。……よし、行けっ!)



「『渦巻く魔力よ、我が身を守る球の(広き)場となりて、降り掛かる(つぶて)(有害ガスを含む)を()らせ』。【ミサイルプロテクション・10フィ(半径3mの飛翔体防護)ートレディアス】」



 切田くんの持つ『異世界言語』が、意思に答えて発声言語を古代語へと変換し、既存(きぞん)の魔法術式に干渉(かんしょう)して改変魔法をジェネレートする。……詠唱は成立。術式組成に(おう)じ、魔力旋風が外套ローブを(はた)めかせて、またたく間に大きな球状の力場となり周囲を渦巻き始めた。


 ――周囲の悪臭が(うす)れ、消えていく。有害ガスを排斥(はいせき)する効果が、換気として(はたら)いているのだ。成功だ。「…どうです?」「…大丈夫。ありがと」東堂さんが口元から手を離して深呼吸する。『猫目』も()()()()と、周囲を嗅ぎ回っている。


「……ほんとに魔法出来るとか聞いてないし。カッコだけにしか見えないし」釈然(しゃくぜん)としない()()()で、ブスーと口を(とが)らせた。「…ふん、エロざこ魔術師のくせに。ちょっとは勉強してきたんだ。キルタ」


(…してないな。勉強)すべて(ひろ)った『スキル』頼りである。切田くんは短く答えた。「どうも」



 ◇



「『飛ばないマジックボルト』」


 指をパチンと鳴らす。光球が発現してフワリと浮かび上がり、暗澹(あんたん)たる下水の闇を煌々(こうこう)と照らしだした。(…見たくねぇ〜…)


 地上への(おと)(ぶた)は、『()めるよ〜』「どうぞ!」今、音を立てて()じようとしている。完全なる暗渠(あんきょ)。もはや、外の光が入ってくることは無い。


 縦横3メートル角ほどの広さがある下水道だ。総石造りとなっており、上部構造は水滴の落ちてこないアーチ状。――結露(けつろ)湧水(ゆうすい)()れる石組みの側壁は、水垢(みずあか)や藻でベトベトだ。鍾乳石(しょうにゅうせき)めいた薄茶色の(かたまり)まで付着(ふちゃく)している。


 さらには、高い位置まで海水の線。貝状の異物や環虫なども見える。満潮時の出入りは(きび)しそうだ。


 片方の壁際、水路に沿()って細長い通路が伸びている。――メンテナンス用の管理通路なのだろう。(にお)いこそ魔法で遮断(しゃだん)されているものの、(…うへぇ…)(ほこり)っぽく湿気(しけ)った空気。床もなんだかヌルヌルしているようだ。


 広い水路を、都市の汚水が音を立てて流れている。(ほとん)どがただの流水とはいえ、付着物、浮遊物などもあり、あまり覗き込みたい様相(ようそう)ではない。


(これ、結構キツイな…)()にも(かく)にもバッドな状況である。切田くんは辟易(へきえき)を押し込める。(…やれやれ、(にお)いと有毒ガス成分は(ふせ)げているんだから。…あとは心を殺して、淡々(たんたん)と進めるしかないな、こりゃ…)


 タラップを降りてきた『聖女』もすっかり気落ちして、フードの奥で口を固く(むす)んでいる。どんより祭りだ。(……ワッショイ、……ワッショ……)「……ねぇ」深刻な調子で(つぶや)()けてくる。「いいかげん、切田くん(ぶん)が足りないのだけれど」(……なんて?)混乱し、返す言葉を探すと、


「なんの話〜?」直上より声。……フードの奥の口元が、キュッと固くなる。


 気軽にスルスル降りてきた『猫目』が、ゆっくりと腰の小剣を抜いた。……用心深く、光届かぬ闇の奥を(うかが)う。「…ちょっと待って。…いるね…」


 遠く聞こえる、パタパタという小さな足音。――キキ、キキという、(かす)かな鳴き声。


 口を(つぐ)む東堂さんが、かすれた声で答えた。「…大鼠(ジャイアントラット)…」「そう。あいつら噛んで来るよ」「…っ…」しょんぼりと顔を()せる。


(東堂さんは鼠が嫌なんだな。…まあ、普通はそうか。しかもこんなに清潔ではない場所で、あれだけデカイやつが居るんだ。僕だって嫌だ)


(…噛まれたら、痛いじゃ()まないよなぁ…)アルコルが(しょく)していた肉のボリュームを思い出す。――()れた様子で少女が、気楽な声を掛けてきた。「大丈夫。あたしが先頭を行くよ」


「待って。近づく危険を(おか)すこともない。遠くから魔法で倒します」切田くんは『猫目』を制し、(ふところ)よりシャープペンシルを抜いた。(こういう時こそ男らしいところを見せておかないと。…というか、今この局面、僕が前に出ないのはあり得ないよ)このままでは前後ガールズ、切田くんが中央(まも)られボーイだ。(ありえん)


 割り込まれた『猫目』は、不服そうに口を(とが)らせる。「もったいなくない?大鼠(ジャイアントラット)ごときに魔力を使うなんて」


「魔力なら大丈夫。ここは(まか)せて」


「…ホントにぃ?」「ホント」怪訝(けげん)な様子に背を向けて、切田くんは暗闇に向かってかっこよく(シャキーン)シャープペンシルを(かま)える。



 周囲は静まり返っている。



 ……先程(さきほど)までの、小さな気配たちが()()()()()。鼠たちの足音や鳴き声は、今はまったく聞こえてこない。(…いなくなった?)


(…害意を察知して隠れたか。…奇襲を仕掛けてくるつもりなの?)


(…それとも、人と明かりが怖いのか…)



 東堂さんが顔を上げ、暗雲(あんうん)を振り払うように毅然(きぜん)と言った。「進みましょう」



 身構(みがま)えた少年を先頭に、三人はゆっくりと奥に進む。


 光の届く範囲を、何度も何度も繰り返し見回す。大鼠(ジャイアントラット)の気配は無し。(…いないな。来ないのか?)


 流水音、三人の足音。(かす)かな衣擦(きぬず)れと呼吸、(みずか)らの鼓動。


(…いや、()れるんじゃない、切田類。闇からの不意打ちに対応しないといけないんだから…)求められるは集中、不断(ふだん)持続(じぞく)


(しっかり目標を見ていれば、『マジックボルト』は(はず)れる事はないんだ。…しかも至近距離。図体が大きいだけの小動物に(かわ)せる距離じゃない。いけるさ)


 切田くんの『マジックボルト』は、超高速の銃弾を叩き落とす(ほど)の迎撃能力を持っている。――生き物がどれだけ(はや)く突っ込んで来たところで、そのスピードはたかが知れている。


(…そんな考えは『油断』、だって?)ムムムとなる。((たと)えば、予期せぬ事態。ネズミではなく他の敵が襲ってくるとか。大蝙蝠(ジャイアントバット)やスライム系みたいな…)


(…スライム系が相手じゃ、『マジックボルト』だと無理なの?…うーん、…『ここは(まか)せて』なんて言った手前、うまく殺れなきゃ恥ずかし…)「キルタっ!?来るよっ!!」()れた『猫目』の鋭い示唆(しさ)が飛ぶ。「…えっ」――瞬間、暗闇から何かが飛び出してきた。「…うわっ!?」


 壁を走る大きな(かたまり)。通路側ではない。()()()からだ。意識の不意を撃たれた少年めがけて、



『ギィィーッ!!』()()は、壁を()って大きく()ねた。



「くそっ、『ビー玉パリィ』!」『ビー玉』を(にぎ)りこんだ左拳(ひだりこぶし)が精密に動き、『ヂュッ!!』襲いくる(かたまり)(はじ)()ばした。


 ……柔らかくて生暖かい感触が、左手の(こう)に残った。


 (はじ)かれた(いきお)いで水路に落ち、()(ねずみ)になる。……ひと(かか)えほどもある大鼠(ジャイアントラット)だ。流水の中でバシャバシャもがき、管理用通路に()()がろうとしている。


 シャープペンシルの先、『マジックボルト』の光条を(はな)つ。『ギッ…』大鼠(ジャイアントラット)断末魔(だんまつま)を上げて、力なく水路を流れていく。……危なかった。心の中で安堵(あんど)のため息をつく。



 足首に激痛が走った。「…ぐっ…痛っ!?」(なにっ!?)



 脚と顔とを()()らせ、(あわ)てて足元を確認する。ローブの(すそ)に何かが(もぐ)()んでいる。――光沢の有る細い尻尾。先ほどとは別の大鼠(ジャイアントラット)だ。(同時攻撃!?さっきの片方を(おとり)にしたの!?)


(…鼠風情(ねずみふぜい)が味な真似を。…こいつっ!!)振り払おうと蹴り上げて、ローブの(すそ)が跳ね上がった。……駄目だ。ガッチリ噛み付かれて離れない。()()()()と深くなる激痛。(…ぐうっ…)


 そして、姿をあらわした大鼠(ジャイアントラット)の姿。


「……うっ……」思わず(うめ)き声が()れる。




 (ねずみ)の全身は(ただ)れていた。毛が抜け、皮膚にはたくさんの水疱(すいほう)が浮きあがっていた。




 (ただ)れて(こぶ)になった鼠の目が、じっと、彼の瞳を覗き込んでいる。




 全身が総毛立った。


「うわあぁぁぁっ!!」


「…まっ、多連装(マルチプル)『マジックボルト』!!」何度も光条に(つらぬ)かれ、(ただ)大鼠(おおねずみ)は足首から()がれ()ぶ。……ぺちゃりと水路側に張り付き、ズルズルと(あと)を引いて、その肉片は流水に()まれた。「うぅっ…」


「やっぱざっこ」


 弱々しく(うめ)く切田くんを、誰かが嘲笑(あざわら)う。動揺(どうよう)憔悴(しょうすい)に、『精神力回復』が(きし)みを上げている。(……うぁぁ……)


(……不味いだろ。マズイよな……?)


(……突然変異?病気?細菌とかウィルスとか、……大丈夫なわけがない……)


(『油断』?抗生物質……ワクチン……そんな病院なんて、ここには無いんだぞ……)


「切田くん」腰に当てられる感触。足の傷が、チリ、と熱を持った気がした。――(おだ)やかで(すず)やかな声が、背中越しに、ゆったりと(ささや)く。



「大丈夫」



 ()(みだ)す衝動が薄れ、今は、安堵(あんど)が心を満たしている。(…今、…僕はすごくホッとしたな…)感染の恐怖からは、実際に(すく)われている。東堂さんの『生命力回復』。――戦いを通した今までの経験が、()()()()()()を信頼へと変えていた。


(…『精神力回復』なんて、本当にその場しのぎだ…)「…当てにしてます」


 ()()()とした反応。「…っ…うん。…当てにしていい…」背中越しの答えは、不思議な熱を持っていた。



 ◇



(鼠ごときと甘く見ていた。こんなにも手間取って…)感覚の残滓(ざんし)が、今も冷たい重石(おもし)となって内腑(ないふ)穿(うが)っている。トラウマになりそうだ。……とはいえ、(おのれ)の無知や思い込みによる甘さなど、反省したところで()ぐに(なお)せるものでもない。(バーカバーカ!)


(…考えなしの事をしてしまった。やるべき事は『反応する』じゃなかったろ。…敵の早期発見と、先制攻撃だ。対戦系のゲームだって相手の動きに反応するだけじゃ、すぐに頭打ちになって勝てやしないのに…)


(暗闇の中から先に、奴らを見つける方法はなかったのか?…あったよな。何をやっているんだ、僕は…)パタパタと足音や、小さな鳴き声が遠く聞こえる。……どことなく(あわ)ただしい。「大鼠(ジャイアントラット)、味が濃くておいしいんだよ」呑気(のんき)に『猫目』が(のたま)う。「ただ、下水に住んでるのは流石(さすが)駄目(だめ)かなぁ。…お(なか)壊しちゃうよ?」


 すぐ後ろの東堂さんが、強い口調で(ささや)く。「切田くん、スクロールを使いましょう」「えっ」


 ふたりを強化してくれるはずだった四枚のスクロール。読む機会を(いっ)し、大事にしまい込まれたままだ。「このままじゃ駄目よ。秘密にしたいのはわかるけれど、二人きりになる機会は当分やってこないわ」


「…【プロテクション(防護)】の魔法があれば、切田くんは今、怪我をせずに()んだはず。秘密の保持と切田くん、どっちが大事か考えて」


(…このぐらいの怪我なら、流石(さすが)に秘密の保持を優先するべき…)自身が散々(さんざん)取り乱したことも忘れ、…そして、小さく(かぶり)を振った。(…言えないよな。東堂さんは、僕を心配してくれている…)


 詰問(きつもん)より伝わる、彼女の真剣味。さすれば決して無碍(むげ)には出来ない。


(『自身を犠牲にしてでも機密を守る』なんてのは、()()だ。『生命力回復』に甘えきった余裕。あるいは映画か何かに影響された、思考停止の思い込みか。…そういう所に同調圧力って発生するんだよな…)『なんで機密を守らないんだ!』『その甘さが後々(あとあと)響くんだぞ!』ワーワー。(…うるせぇ〜…)


(…不慮の出来事で、東堂さんと別れないとも限らないんだ。ネズミ()()みにさえ死が見えるんだから。少しの怪我も、()けるに()したことはない…)


 とはいえ、懸念(けねん)もある。(確かに、情報はバヨネット組にも流れるさ。…だけどそれは、僕らが無事に帰った後の話だ…)


(…そもそも…)黒く(ただ)れた脳裏によぎる、水疱(すいほう)まみれの薄昏い感覚。(…ハハ。…バヨネット組とは、どうせ殺り合うことになる…)


()()()()()()とは確かに言ったさ。だけど、必ず決裂する…)


(…アルコルさんの言った通りさ。あの手の(やから)との()(ごと)なんて、無駄吠(むだぼ)えばかりで(まと)まるわけがないんだよ。馬鹿馬鹿しい。…物乞(ものご)い相手に(ゆず)る余裕がないのなら、(うば)われるか、覚悟を決めて戦うしか無い…)


(…だから僕らは、『迷宮』で十分な力を手に入れる。…そうでなくては、どのみち終わりだ…)「わかりました。次は僕が『猫目』さんに言いますよ」


「…ん…」肩越しの素直な返答に、東堂さんは()()()とうなずく。切田くんは、最後列の『猫目』に向け、はっきりと断言した。「『猫目』さん」「なぁにー?」


「僕らには、スクロールから魔法を吸収する力がある」




「……んっ?」「えっ?」




 東堂さんと『猫目』が、同時に目をパチクリさせた。


「切田くん、直球」


「キルタ、何言ってるの?何を言ってるのかぜんぜんわかんないんですけど」


「直球すぎるわ、切田くん」


「へたくそなの?キルタ」


 交互に微妙な反応が返ってくる。(…正直に言ったのに、反発が(すご)い…)「言ったとおりですよ。僕らがスクロールを読むと、魔法書を読んだ時と同様に、力に変えることが出来るんです」


「……スクロール?使い捨ての魔法の紙っペらの事?そんなの出来っこない。使い方間違ってるし、そういうアイテムじゃないよあれ」少女は逡巡(しゅんじゅん)し、――挑発的な目つきで笑いかけてきた。


「ニシシ。ねえ、ちょっと()っちゃった?やっぱりキルタは出来ないことを出来ると言いたがる~、イキリでエッチな自分盛(じぶんも)りざこなんですかね~?」(めっちゃ(あお)る)


「出来ると考えておいてください。僕たちは『迷宮』に入る前に、手持ちのスクロールから魔法を習得しておきたい。…どこか読むことが出来そうな場所はありませんか?」



「……」複雑な顔で黙り込む。やがて『猫目』は、ボソリと言った。



「…どうしてあたしにそんな事を言うの?本当だったら()()()()アタシに言っちゃ駄目なやつ。…何?『あたしを信用しますよ』アピールしてるの?」


「信用を得るために先に信用してみせる。そんな甘いことを言うつもりはありませんよ。ただ今は、明かしておいたほうが都合がいい。それだけです」


「信用し合えるか確認するだけなら、アピールなんて必要ないでしょう。普段のやり取りだけで事足りる」落ち着きはらった返答に、『猫目』は逆に落ち着かない顔になる。……(すく)いを(もと)め、問いかける。


「聖女さま、本当なの?」


「本当」コクリと、東堂さんも答える。



 ひとしきり黙った後、『猫目』は切り出した。「この先に小部屋があるんだ」


「…下水道に小部屋?」


(しお)の満ち引きで隠された水路。『迷宮』の出入り口を隠す手段はそれだけと思った?他にもあるよ、もちろん」おごそかに()げる。「…バヨネットの許可なきもの、『迷宮』にたどり着くことは決して無い。下水道は複雑に手を加えられて、さらにはスキルホルダーの特殊な『スキル』で隠されているんだよ」


「…『メイズ・フォレスト』。そう、自慢げに言ってたかな」



 切田くんと東堂さんは周囲の様子を見やり、声を合わせて答えた。



「…『フォレスト』」

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