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My Life & Your Life  作者: 長谷川 健人
第一章 〜希望を照らす朝焼けの太陽〜
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第一章 豊かな食卓

大通からほんの少し脇に入った所に、他の建物とは少し違う雰囲気の漂う大きめの建物が建っている。

倉西くらにし孤児院』。

出入口の横に、そう彫られた立札が掛けられていいる。


「みんな揃ったか?」


少し大きめの声が響いてくる。

倉西くらにし すすむ

この孤児院の管理をしている老人である。


「大ちゃんが帰って来てないです」


千賀ちが 阿衣あいが倉西の問いかけにそう答える。

はぁ、と酒井さかい こう少年がその会話にため息をつく。


「またかよー。あいつは、いつもいつも門限を破りやがって!あいつだけが門限を破りまくってんじゃあねぇかよ!」


「まぁまぁ、煌さん。落ち着いて下さいよ。こんなこと毎日じゃあ、ありませんか」


少し怒り気味の酒井を、一つ年下の中塚なかつ ゆうが抑えに入る。

『そうだな』と一言呟き酒井は黙る。これによって、辺りは静かになる。


「静かになったな。大輝だいきのことはほおっておいて夕飯にするか」


倉西の声が聞こえると、その場にいた千賀、酒井、中塚の三人が静かになる。そして、


「手を合わせて」


千賀が掛け声をかける。


「いただきます」


『いただきます!』


千賀の声に続いて、残った三人も同じく声を出す。この時、四人は頭を下げる。

そして、夕食が始まる。


ーーー國嶋側


自分自身でも何を言ったのかよく分かっていない。先程から頭の中が上手く動かない。

そんな風に國嶋くにしま 大輝だいきは混乱している。


「そんなに急いで何かしようとしなくていいよ。僕は急いでるって訳でもないからね」


黒い暗殺者アサシンの格好をした少女は頭を抱える國嶋に声をかける。しかし、今の國嶋にその言葉は届かない。


「(はぁ、人の話くら聞いとけよ)」


バッチン!、と。

國嶋の頬を叩く音がする。


「……!?」


叩かれた方の頬を押さえながら國嶋は、その場に立ち尽くす。

どうして叩かれたのか、さっぱり分からない。そう言ったような表情を浮かべている。


「どう、目は覚めたかい?」


少女は笑みを浮かべて尋ねてくる。

そこで國嶋は現実に戻る。


「あぁ、お前のお陰で戻ってこれたよ」


「そうか、そうか。戻ってきたなら、それでいいんだよ」


首を、コクリ、コクリと上下に振り、少女は國嶋の方へと近づく。そして、國嶋の肩に両手を、バッン、と勢いよく置き言う。


「話を戻すけど、僕は君に何をおごればいいのかな?」と。


ーーー倉西孤児院側


「なぁ、今日あいつ遅くねぇか?」


酒井が何気無く、そう口にする。

それに続いて、千賀が言う。


「そうだね。遅くても大ちゃんは、五分か十分くらいだもんね」


「そうですね。大輝さんは、遅れるといっても十分ほど。それなので、いつもは軽い刑罰で済んでいましたがぁ。今回のように三十分経っても帰って来ないと言うのは、相当な問題ですね」


難しそうに首を傾げながら考える中塚。

そんな三人に何を倉西は言う。


「お前達はそこまで心配しなくてよい。大輝のことはワシに任せて、いつも通り銭湯にでも行って来い」


「でも……」


「大丈夫だ、阿衣。ワシがここに居ればなんの問題も無かろう」


「………、」


言葉が出ない。

別に何か反論をしたところで、千賀自身に良いことなど、何一つない。だから、何も言えない。


「さぁ、煌と祐も食べ終わったのなら食器を片付けて、銭湯に行く支度をしなさい」


二人は何も言わずに、無言で動き始める。

二人の行動を見て、千賀も渋々動き始める。


「(はぁ。大輝のやつ、厄介なことに巻き込まれていなければいいが)」


三人が動き出したのを見て、小さく呟く倉西。

実際のところ、國嶋のことを一番心配しているのは、彼自身なのである。


ーーー國嶋側


「んぅぅゥゥゥゥ……………」


國嶋は悩んでいる。先程から、少女に何をおごって貰おうかと。しかし、その答えがなかなか出ない。

確かに、数々の案と言う案は出ているのだが、『本当にそれでいいのか?もっと良いものがあるのではないのか』などと、出たもので良いのかと迷っているのであった。


「なぁ、まだ決まらないのか?さすがに僕の方はもう眠くなってきたあぁ~~~ぞ」


言葉の途中であくびを挟む少女。

そんな少女はお構い無しに國嶋は考え続ける。

はぁ、とさすがに待ちくたびれた少女が、大きめのあくびをつく。


「あのさぁ、僕は今日決めろなんて一度も言ってないんだから、別に今決めずに家にお持ち帰りって手もあるんだぜぇ」


あっ、その手もあったか、と國嶋は今になって考えつく。


「じゃあ、そのお持ち帰…………」


途中で言葉を切る國嶋。

さすがに不思議に思ったのか、少女は彼に声をかける。


「おい、どうした?今『お持ち帰り』って言おうとしてたじゃあねぇかよ。なのになんで、なんで途中で切るんだよ!」


「あやぁ、その……」


國嶋自身、そう言われた当初は、『それでいいじゃあないか』と思ったものの、実際のところ、『このあと本当にこの少女と再び会えるのだろうか』と心配になり口を止めてしまった。


「なって言うか、今日を逃したらもう会えないような気がして……」


ぽかーん、と口を開けて佇む少女。

正直國嶋には、その顔が少し怖かった。


「あははははははははははっっッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!」


突如、少女は大声で笑い出す。

この時の顔は恐ろしく怖かった。

そんな状況で、少し引き気味の國嶋に少女は話しかける。


「そんなことする訳ねぇだろう。僕がどんなに悪に染まった野郎だったとしても、それだけは絶ってぇーしねえ自信があるね。だから安心してゆっくりと考えろ」


そう言って、少女は國嶋の持っているスクールバックを取り上げて、ノートと筆箱を取り出す。

そして、無言で電話番号を書き出す。


「………………、よしっ!この番号に掛ければ僕のところに繋がるから、決まったら連絡をくれよ」


ノートのページを一枚切り取り、少女はそれを國嶋の掌の中に丸め込む。

そして、無駄な一言を発する。


「さっきからずーと気になっていたんだけどさぁ。君、よくこんなに臭い所でそんだけ考え続けられるね。僕には絶対に出来ないなぁ」


腕を組、首を振る少女。そんな少女の一言で國嶋は天国から地獄へと突き落とされる。

なぜなら、先程まですっかり忘れていたゴミの強い匂いを思い出してしまったからだ。


「うぅぅ、臭い!」


「あははははははははははははははッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!」


笑い出す少女。

鼻を摘まんでいる少年。

何だかんだ面白い感じが匂いと共に辺りを漂う。


そんなことを忘れたかのように少女が手につけている時計に目をやる。


「やっべぇ!もうこんな時間じゃあねぇかよ!速くしねぇとやっべぇことになっちまうよ」


そう言いながら少女は、少しずつ後ろへと下がる。そして次の瞬間、少女は後ろに下がったことにより作ったほんの数メートル僅かな距離を全力で壁に向かって走る。壁にぶつかる直前に、ぽっん!、と軽々しく壁を斜め上に蹴り上げて隣の壁へ。その勢いを使って更に上へと上がる。

結局最後には少女は建物の屋上へと消えていった。と、思いきや、屋上へと行った少女が、ひょっい、と顔を覗かせる。


「悪いね、君。僕は僕で用事があるから、もう行かなくちゃあ、いけないんだ。だから今日はこの辺で失礼するね。もし、決まったら連絡よろしくねぇ」


「あ、あの!」


「どうかしたか?」


無意識に少女を止めてしまった。

何をどうするかさえ何も考えていない。なのに止めてしまった。

手に汗をかく。その時、國嶋は自分が聞き忘れている大事なことを思い出す。


「あ、あの!あなたの名前はなんですか?」


國嶋らしくない口調であった。が、まぁ仕方のないことだ。急に言おうとしたことを、いつものように言うと言うのは簡単なことではない。

それでも國嶋は何とか言葉を出せた。それだけで素晴らしいことなのだ。


「なぁんだ、そんなことかぁ。そんなの教えてあげるよ。恵末えみ。僕は恵末えみって言うだ」


「(恵末、恵末、恵末、恵末。いい名前だ)』


下を向いて小さな声でぶうぶつ呟く。

正直なところ、とても気持ちが悪い


「と、とても、とてもいい名前だね」


少女のいるはずの建物の屋上に顔を向けて、そう言う。しかし、そこに少女の姿はなかった。


「えっ!あれ、あの~恵末さ~ん」


返事は返ってこない。

どうやら少女は行ってしまったようだ。


「ッッッ!?」


何処かから、嫌な何かを感じる。そのせいか、寒気のようなものを感じる。

実際のところ、國嶋が感じている寒気のようなものは、ただの寒気なのだった。

だが、そのことを勘違いしている國嶋は、先程少女から渡されたノートを見る。


「な、なんじゃこりゃー!」


ノートのページにはこう書かれていた。

『ありがとう。君のお陰で僕は自由になれたよ。このことはきっと忘れない。恵末より』と。

騙された、と國嶋は感じる。

先程までの女神のような少女は、ただ自分を自身が助けられるためにやっていた演技だったのだと今になって気づく。


「ちっくしょーーーー!!!!」


國嶋は頭を両手で押さえながら足から崩れていく。

この時、時計の針は午後七時三十分を指している。


ーーー倉西孤児院側


「本当に先に行ってもいいのかな?やっぱり、大ちゃんの帰りを待ってからの方がいい…」


「大丈夫だ、阿衣。ワシがここに残るのだから、気にせずにいつも通り行ってきなさい」


國嶋のことを心配し、なかなか銭湯へ行こうとしない千賀。そんな少女を銭湯に行かせるために、倉西が行くようにいい続ける。

しかし、少女は意外としぶといもので、なかなか諦めをつけてくれない。


「阿衣、もういいだろ。そんなにあいつのことが気になるってことは、俺よりあいつの方が好きって言ってるようなものだぞ」


「いや、煌ちゃんそう言う訳じゃあないよ…」


「それなら、國嶋はジイさんに任せて、俺達は銭湯に行こうぜ!」


千賀の手を握りしめ家の外へと飛び出して行く酒井。そんな二人は、見て分かるとおり恋人同士である。


「はぁ、またあの二人は……はぁ、」


「倉西さん。あの二人のことは、僕に任せて下さい。倉西さんは大輝さんのことを宜しくお願いします」


しっかり頭を下げて、酒井と千賀の分のタオルなどを持って家を出ていく中塚。

彼はこの家で一番下なのに一番しっかりしている。そのことに倉西はいつも感心している。


「本当に大輝はどこで何をしているのやら。今までここまで遅いことはなかったなぉ」


そう言いながら、部屋の奥へと歩いていく。

そして、奥にある大きな扉を開ける。その中には長細い箱がある。その箱を取り出して、先程までいた大きなテーブルの上にその箱を置き、開ける。

そこから竹刀が出てきた。とても綺麗だった。


「久しぶりだな。もう数年は握って無かったな、悪いな。まさか、久しぶりに握る理由が大輝に一発やるためだよはなぁ」


竹刀を両手で握りしめ何度か素振りをする。


ビュン、ビュン、と。

風を切り裂く音が何度も聞こえてくる。


コンコンコン、と。

扉を叩く音が聞こえてくる。

おっ!帰って来たか、と思いながら竹刀を片手に扉のところへ行く。そして、


「遅かったな大輝!流石に今回の遅れは取り消しが効かないぞっ……って、な、なに!」


倉西の視線の先には國嶋ではなく、黒い暗殺者アサシンの服装をした身長の小さな生臭い匂いのする少女が立っていた。


「久しぶりだね、お爺ちゃん」


そう言って微笑みを倉西に向けてくる。

突然の出来事に倉西は戸惑う。


バッン!と。

戸惑う倉西を気にせず少女は倒れる。

そして、妙な沈黙が生まれる。その沈黙を破るように、少女のお腹が鳴り響く。


『ぐぅぅぅ~~~~』と。










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